まねをしてくる令嬢に婚約者を取られたので、偽りの情報で破滅させます

泉花ゆき

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婚約破棄、そして屋敷で使用人のエマが捕らえられてから数日後のこと。

学園の廊下を歩く私の足取りは、どうしても速くなってしまいます。
角を曲がるたびに周囲を警戒し、見慣れた金髪の影が見えないかを確認せずにはいられませんでした。

(……あそこにいらっしゃるのは、またライアン様ですね)

遠くの通路に、こちらを探してきょろきょろと首を巡らせているライアン様の姿が見えました。
昨日の今日であんなに無様な姿をさらしておきながら……彼はまだ私に何か言い訳をしたいようです。

けれども今の私にとってはメアリィ様の次に……いいえ、同じ程度には近付きたくないお相手。

私は彼と視線が合う前に、素早く近くの温室へと続く裏道に身を隠しました。
通りを避け、人気のない庭園の奥へと進みます。

(これではまるで私が逃げているようだけれど……今は、彼に捕まって時間を無駄にするわけにもいかないもの)

「……ふう。ここまで来れば、流石に追ってこないかしら……」

誰もいないはずの温室の陰で、私は小さく溜息をつきました。
すると頭上から、場にそぐわない涼やかな声が降ってきたのです。

「……伯爵令嬢ともあろう方が、そんなところで泥だらけの靴を気にしているとは。随分と熱心な追いかけっこですね」

私は驚いて顔を上げます。
そこには温室の白いベンチに腰を下ろし、本を閉じる青年の姿がありました。

「フェリクス様……」

公爵令息のお方です。最高位の貴族でありながら誰に対しても分け隔てなく接する優しさ、そして貴族然とした
美しい容姿。学園では理想の王子様などと称えられているような方。

けれども私が見る彼は、その評判とは少し違っていました。
常に完璧な微笑みを崩さず周囲を魅了しながらも、その瞳の奥には誰一人として踏み込ませないような……腹の内側を誰にも見せていない気配が隠れているように感じられたのです。

「……驚かせないでいただけますか」

「驚いたのは僕の方ですよ、セレスティーヌ嬢。あなたがこれほどまでに必死な顔をして逃げ回っているのを見るのは初めてだ」

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