婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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──ドンッ 

「……っ」

ミナが鞄を抱えたまま、ジークフリート様を突き飛ばそうと身体をぶつけた。
彼は身を鍛えているらしく、動じるところはなかったし……もしかするとミナの体当たりなど避けられたのかもしれなかったのだけれど。

しかし、現実としてミナ嬢はジークフリート様を突き飛ばし……試薬の入った小瓶は、その液体をこぼす前に向きを元に戻される。

「ミナ!?」

「だ、だって……そんな怪しい薬、信用できません!もし爆発でもしたらって……私、怖いですぅ!」

「爆発などしない。ただ反応があるだけだ」

「嫌って言ってるじゃないですか!ジェラルド様、助けて……あの人が私にひどいこと……っ!」

「い、いや……しかし……」

言葉の説得が通じないのなら感情で押し切ろうとするのは彼女のいつもの手立てだけれど、今回は観衆が多すぎた。 
生徒たちの視線も冷ややかなものへと変わっている。

「あれ、おかしくないか?」

「調べればすぐ分かるのに」

「やっぱり自分でやったんじゃ……」

……そんな囁きが、さざ波のように広がっていく。

ジークフリート様は立ち上がり、私へ視線を送る。外堀は埋まったと、そういうことだろう。

「……本人がこれほど拒絶するのでは、無理に試薬を使うのは憚られるな」

彼はわざとらしくそう言うと小瓶をしまった。ミナ嬢が安堵の息を漏らした、その瞬間。

「けれど試薬を使わずとも、未だ確認の取れることはある。ヴィクトリア嬢はご自身の鞄を開示し、ペーパーナイフを持っていないことを証明されたが……」

ジークフリート様は、ゆっくりと視線をミナ嬢へと移動させた。

「この場にいる誰かが、教科書を刻むのに使用された何かを持っているはずだ。……ミナ嬢、君の鞄の中には、何が入っているのかな?」

「っ……!」

ミナ嬢の顔が、恐怖で歪む。 

「ヴィクトリア嬢の潔白は証明された。次は、君の潔白を証明する番だ」

その問いかけは、ほとんど断定に近しいものだった。殿下も、もはやミナ嬢を庇う言葉が出てこない。
ミナがこれだけ怪しい素振りを繰り出していることや、彼自身もミナ嬢の鞄の中に見覚えのある物が入っていることを思い出したのかもしれない。

「ミナ嬢……鞄を開けていただけますか?何もやましいことがなければ、簡単なことかと思います」

「嫌……嫌よ……」

「なぜ拒む、ペルル嬢」

ジークフリート様が一歩踏み出す。その威圧感は彼がただの学生ではなく、公爵家の次期当主であることを如実に物語っていた。

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