婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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申し出に甘えていいものかと迷う私へと、ジークフリート様が囁く。
……どこか優しい響きを感じてしまったのは、私の勘違いなのでしょうか。

「私がしたいのだから、受けてくれればそれでいい。君という、気高く献身的な女性に相応しい装いを用意させたいんだ」

ジークフリート様は当然のように私の手を取り、腕を差し出してくる。
それは敬意に満ちたエスコートだった。婚約者であるジェラルド殿下からは、一度も差し出されたことのないもの。

私の献身に報いたいとおっしゃってくださったのは、そのような意味でもありがたかった。
殿下に尽くすということは、この国に尽くすということに他ならない。

執務に明け暮れる私の姿を、この方は見ていてくれたということなのだから。

「……はい。よろしくお願いいたします」

私は微笑みをジークフリート様へと送り、彼の腕にそっと手を添えた。

「君の気高さは、ドレス一枚で左右されるような安直なものではないが。……とはいえ、不快な砂埃を払うには清々しい場所へ移動するのが一番だ」

私はその温もりに導かれるように、静かに歩き出す。ジークフリート様に促されたのは彼が用意した馬車のようだった。
馬車へ足を向ける最中でも、その隣からはミナの叫び声が聞こえる。

「ちょっと……信じられない!そのドレスはあたしのもののはずでしょ!?ねえ、間違ってるってば……話を聞いてよ!ジークフリートってばぁ!」

彼女の様子はもはや常軌を逸していた。ジークフリート様へすら敬称を忘れ、ただ我を通そうとして地団太を踏む。

「許さない!許さないから!!覚えてなさいよお……っ!」

絶叫にも似た声を上げた後は、そのまま崩れ落ちる気配がした。
石畳に這いつくばったままのミナは、消え入るような声でぶつぶつと繰り返している。

「ドレス……やっぱりドレスがないと……ドレスを手に入れなきゃだめよ……」

それはぞっとするような執着だった。どうして、そこに向けられているのかは分からない。
つぶやき続ける彼女の意識は、なぜだか分からないけれど……今、ここではないどこかへ向いているようだった。

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