婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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ソフィアの震える声だけが、静まり返ったガゼボの中に落ちる。
彼女の下げられた頭を見つめながら、ゆっくりと口を開こうとした時。

ガゼボの周囲……芝生に座っていた令嬢たちが妙な雰囲気になっている。一人、また一人と奇妙な違和感を覚えたように顔を上げては言葉を失っていた。

視線は一点に集まっている。その奇妙な沈黙や息を飲む様子は、さざ波が広がるように静寂として広がっていった。彼女たちの見ている先には、一見するとここに居ることが何の不思議もない少女がいた。けれどもそれはよく見てみると場違いとしか言いようのない姿をしている。

異様な雰囲気を漂わせ固まった笑顔を張り付けながら、こちらへ歩み寄るミナの姿があった。

「……して、喉が渇いちゃいましたぁ」

粘りつくような声は、しんと静まった庭園の中でよく響いた。

「お茶会をしているなら、わたしも混ぜてくださいね」

……おそらく令嬢たちが固まったのは、彼女の登場そのものではない。そのあまりの無作法さゆえだった。

ついていた跡を見るに、その頭髪はつい先ほどまで結い上げられていたような形跡を残している。
それも緩んで肩に落ち、襟元はだらしなく肌が露出されていた。何よりも彼女の隠そうともしない、まるでひけらかすような態度。それが直前まで、彼女が何をしていたかを雄弁に物語っていた。

「まあ、嫌だ……」

「どんな神経をして……」

令嬢たちの間に、憂うような戸惑いが広がる。
それは口ぶりほどには怒りや憤りが込められたものではなかった。目を逸らすべきものを見てしまったときの、生理的な拒絶に近いものだ。

ミナはそんなことを漏らした令嬢たちを、まるで威圧するかのように一人一人顔を眺めている。
今何を言ったのか聞こえているぞ、というような視線に押されて少女たちは目を逸らしていった。

和やかだった庭園の空気は急速に湿り気を帯び、誰もが困惑の色を隠せずにその乱入者によって心を乱されているかのよう。
ミナはそんな視線を浴びることすら楽しむように、ゆったりとした足取りでガゼボの奥へと踏み込んできた。

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