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13 魔女の悪戯
しおりを挟むエレノアが目を覚ますと、部屋はまだ薄暗いものの、空は少しずつ明るくなっていた。
今のうちに自室へ戻っておかなければと起きあがろうとすると、しっかりと抱きしめたフィニアスの腕がそれを阻む。
「フィン、起きて。私、そろそろ戻らないと」
「ん……もう少しこのままで。誰も何も言わないから、大丈夫だよ」
「たとえそうでも、私が気にするの」
「もう少しエリーと一緒にいたいのに……」
眠たげな声は甘えた響きをしていて、エレノアの心もぐらぐらと揺れてしまう。だけど、一応まだ婚約中だし、ここは自国ではないし、と必死に言い聞かせる。
拗ねたように甘えてくるフィニアスをいなしながら、何とか衣服を身につけたところで、部屋の窓が開く音がした。
「あ。ほら、もう元に戻ってるじゃーん!」
明るい声と共にあらわれたのは、魔女ロアンヌと魔女リーザ。
「戻ってるじゃん、じゃないのよ。ちゃんと謝りなさい、ロアンヌ」
目を釣り上げたリーザが、ロアンヌの首根っこを掴む。ロアンヌは悲鳴をあげると、呆然と目を瞬くフィニアスとエレノアの前までやってきて、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい、フィニアス王子。お姉様が構ってくれないからって、あなたに八つ当たりしてしまったわ。でも、エレノア姫の好みの美少女になるよう魔法をかけたのよ?とっても可愛かったでしょう?」
見つめられて、エレノアは思わずうなずいてしまう。確かに女の子の姿のフィニアスは、とっても可愛かったから。
「でしょー!いやぁ、わたしもね、近年稀に見る美少女に仕上がったと思ったのよね」
「あなたはしっかり反省なさい」
呆れたようにロアンヌの頭を掴んで、リーザが再びロアンヌの頭を下げさせる。
「本当にごめんなさいね、フィニアス王子、エレノア姫。でも、素敵な夜を過ごせたみたいで良かったわ」
くすりと笑ってそう言われて、エレノアは思わず真っ赤になる。さすがに裸ではないものの、この寝乱れた姿を見れば、2人の間にあったことは一目瞭然だろう。
顔を見合わせたフィニアスの頬も赤くて、2人は照れ隠しのようにぎこちなく笑う。
「お詫びがわりに、少し痛みを軽減させる魔法をかけておいたの。やっぱり、あんまり痛いのは嫌だものねぇ」
「え、あ……」
エレノアは、思わず言葉を失って視線をうろうろと彷徨わせる。確かに覚悟していた痛みは全くなくて、想像以上に甘く素敵な初体験だったことは事実だけど、まさかそれが魔女リーザの魔法によるものだったなんて。
「あ、じゃあわたしもお詫びに何か魔法かける!フィニアス王子が絶倫になる魔法とか、」
「やめておきなさい、ロアンヌ」
嬉しそうに手をあげたロアンヌを、リーザが冷たく一蹴する。少し拗ねたように唇を尖らせたロアンヌは、フィニアスとエレノアを見つめてにっこりと笑うと、指先で2人に向けて何やら宙に文字のようなものを書いた。同時にきらきらとした光が2人を包み込む。
「あ、ロアンヌ!また勝手に!」
「大丈夫よう。末永く幸せになれるようにって祈っただけだわ。きっと子沢山間違いなしね!」
「それなら……まぁ」
ため息をついてうなずいたリーザは、もう一度フィニアスに謝ると、ロアンヌを連れてまた窓から出て行った。
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