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1章 Hello World
1話 葛藤
しおりを挟む―ねぇ、仙台トルーパーって知ってる?
思えばこの言葉を投げ掛けられた時から
私の運命は変わったのかもしれない。
私の堕落した人生の終わり。
そして私の新たな人生の幕開け。
そして………
そして私の―
「ねぇ未来………未来ってば!!」
耳をつんざくような大音声に私は、はっと意識を取り戻した。
「もう…うるさいなあ。」
私は顔をしかめながら、その大声の主に文句を言う。
「未来が聞いてないから悪いんだよ!私、何回も呼んだのに!」
―栗栖未来
それが私の名前だ。
『みらい』と読まずに『みく』と読むのが何とも現代風だが、私はこの名前が嫌いだった。
今流行りのボーカロイドとか言う人工音声ソフトの某キャラと同じ名前だから………
というのも少なからず理由のうちに入るが、それが全てではない。
私には到底、未来というものが存在しないのだ。
何も余命があと一ヶ月とか、死ぬ運命が見えているとか、そんな話しではない。
私はよくこう考えるのだ。
人生は全く同じ時間の繰り返しでしかない。
毎日、毎日同じことを同じ時間に同じ場所で同じ人間と過ごす。
何の変化もない毎日なら、果してそれは人生と呼べるだろうか?
例えそれを人生と呼ぶのだとしても、私はそんな人生は嫌だ。
生まれてから死ぬまで同じ日常の連続なら、今すぐにでも人生に区切りをつけたいものだ。
死ぬのは怖いが、毎日を死にながら生きてる感じがして、そっちの方がよっぽど怖い。
死にながら生きる。
いつだって死んでいる。
私には未来がない。
だって死んでいるのだから。
そう、だから私はこの『未来』という名前がどうしようもなく嫌いなのだ。
「未来ってば~!!」
またあの金切り声で意識が戻る。
小さい頃からこうなのだ。
何かに意識を集中させると、集中しすぎるあまり、何も聞こえなくなる。
「分かった分かった。聞いてるから。」
「聞いてないじゃん!私がさっき言ったこと言ってみてよ!」
心の中でため息を吐きながら、重々しく口を開く。
「ごめんさくら、もう一回言って。」
「ほらぁ聞いてない!未来に話しかけるのやめちゃうよ!」
そう言って私の友達、安達さくらは腕を組んで、元から無いに等しい胸を張る。
私以外に趣味の話しができる友達いないくせに、と言ってやりたかったが今回はぐっと我慢した。
「ごめんごめん、昼にジュース一本奢るからそれで勘弁。」
面倒な時は物で釣れば、さくらはたいてい機嫌を直す。
「ふふんっ、分かってるねぇ。未来の姐御!よっ姐御!」
実にわかりやすいキャラだ。
別に嫌いではないが。
「で、何の話し?」
若干息を切らしながら、話しを戻す。
桜の花が散り、道が桜色になっているこの坂は私達が通う高校までかなり急勾配で続いている。
「うん、ネットの話しなんだけどね。」
さくらはかなり小柄な体型だが、ぴょこぴょこと体を跳ねさせながら歩いている。
疲れる様子がまるでない。
私と何が違うのだろう。
若いっていいな。
「すごく面白いサークルみつけたのっ!」
「………っまたそういうサークルに入ったの!?」
「違う違う!!今度のはそういうのじゃないんだって。少なくともアニメ系のサークルじゃないから!」
さくらは中学生の頃から大のアニメ好きだ。
アニメから派生して、マンガ、ラノベ、同人誌と様々なメディアのオタクとして成長していき、その衰えを知らない。
最近ではネットのサークルやコミュニティーで、同じオタクの仲間とアニメの話しをしているらしい。
そこまでは別に問題はない。
だがさくらの性格上、必ずネットの交流場を炎上させてしまうのだ。
好きなものは好き。
嫌いなものは嫌いと言うきっぱりとしたさくらの性格が、ネットの、特にオタクのサークルにどんな影響を及ぼすかは簡単に分かるだろう。
「そう言ってこの前もサークル脱退したばっかりじゃない。」
そして別のサークルに入っては抜ける。
これを繰り返しているのだ。
「大丈夫大丈夫っ。」
何が大丈夫だ。
この前私に泣きついてきたのはどこのどいつだ。
地に散る桜の花びらのように、さくらもネット社会に散らなければいいのだが…。
「ねぇ、未来も一緒に入らない?」
また面倒ごとに巻き込もうとする…。
「なんていうサークルなの?」
坂を登りきり、半ば振り返り、さくらの顔を見る。
名前だけ聞いておく。
そしてその名前のサークルだけは絶対入らない。今決めた。
「仙台トルーパーって知ってる?」
桜色の背景に無邪気に笑うその顔は、正に人生波瀾万丈の真っ只中のようだった。
私はさくらに対する羨ましさを感じると同時に、自分では解決しようがない死んだような人生を悔やむ気持ちで胸が痛くなった。
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