不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ

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第八話 突入の後、新たな依頼

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…目を開けると、知らないベッドの上だった。

どれくらい時間が経ったのだろう…

魔力切れの反動か、恐ろしく身体が重くて直ぐに動けなかった。

頭だけを動かしてベッドの脇を見遣ると、フェリルが自分の腕を枕にしてすやすや寝ていた。

(とりあえず、状況把握からだな…)

感知魔法を発動して周囲を確認すると、辺りは黄色ばかりで赤は無く、少ないながらも青のマーカーが表示されていた。

その1つがどうやらこちらに近づいてくる様な感じがあった。

不意にもう一度フェリルを見ると、目を開けてこちらを見ていた。

「起きた?ここはどこ?」

フェリルは体を起こすとそば机に置いてあったコップに水を注ぎながら答えた。

「侯爵様の屋敷ですよ。衛兵に連行された時に急に倒れられたので慌てましたよ」

「ごめん。ただの魔力切れだよ。ちょっと無茶をし過ぎた…」

「それと、手紙が枕元にありましたよ?」

俺は身体を起こして、フェリルから手紙と水を受け取ると、水を飲みながら読み始めた。

「中は何と?」

「父上からだね。兵を二千程引き連れて、こちらに向かってくれてるみたい」

読み終えた手紙を綺麗に畳んでしまいながら答える。

「そうですか。いつ頃来られると?」

「出てから数日経っているみたいだから、到着は、後1週間かそこらかな?」

「ところで…、あれは一体…?」

ずっと気になっていたのだろうか、急にフェリルが話題を変えるが、

「その話はまた後でね…」

と、俺はドアの方を見ながらフェリルの言葉を遮ると、フェリルもドアの方を見遣った。

ノックの音が聞こえて、ガチャっとドアが開いた。

「おや?身体はもう大丈夫なのかな?」

「いえ。まだあまり動かせそうに無いですね。それよりも…、ご無沙汰しておりました。エルアドルフ侯爵」

部屋に入って来たのは侯爵だった。

侯爵はまだ四十代くらいで、金髪で端正な顔立ちをした気品のある人だった。

俺がベッドから出ようとすると

「無理はしなくていい。そのまま楽にしていなさい」

と言うので、お言葉に甘えて身体を起こしたままでいることにした。

「丸2日も起きなかったので、一大事かと思ったよ?レイ君」

「ご心配をおかけしました。しかし、何故侯爵の屋敷に?確か、衛兵に連れて行かれそうになって…」

「あぁ。衛兵から情報を受けた騎士達から話を聞いてね。詰所へ行ったら、そこの女の子がここに来た経緯を教えてくれたんだ」

「そうでしたか。と、俺の刀は…」

連行される時に取られたんじゃなかったかと不意に思って、刀を目で探した。

「私が持っていますよ?お渡ししましょうか?」

フェリルが答えてくれたのでホッとすると、「いや、いいよ」と答えて、侯爵に向き直った。

「ミリーナに会ったらしいね」

「えぇ。ベレルの周辺にある村で偶然ですけどね。私は面識が無かったので、侯爵の娘さんだと気付きませんでしたが…」

「君は余り社交の場に顔を出さなかったからね。ミリーナから話を聞いた上で来たということは、助けに来てくれたのかね?」

「まぁ、そんな所ですかね」

「何か狙いが?」

何の得もないのに来たことに、裏があるのかと勘繰ってなのか尋ねてきた。

「何もありませんよ?強いて言うなら、ここで恩を売れば何かの折に返していただけるかな?くらいです。後は、リダールの領主が怪しい動きをしてるようですので、情報が欲しいのと入れる手筈を整えて貰えれば助かるな程度です」

「それだけかね?ずいぶん割に合わないように思えるんだが?それと、リダールの件は今回の君の働き次第だな」

俺は侯爵の反応を見て、リダールがあまり良くない状況だと当たりをつけた。

「それで構わないですよ。ところで、ザエルカはどういう状況なのですか?この街に入るのも一苦労でしたが…」

「周囲…、特に街の南側は推定で十万程の魔物がいる状態だよ」

「とんでもない数ですね。ナレイアとの間にあるダンジョンの方は?」

「そちらにはまだ波及していない。Aランク以上の冒険者達で抑えて貰っている状態でね。そちらに及ぶといよいよ手に負えなくなるからね」

「この状況で街は無事なんですか?」

「この街はダンジョン管理が主たる目的だからね。氾濫する事は想定して作られているんだよ。当然、結界なり対策はしてるのさ。そんなことよりどうやってここへ?」

「防壁を登って来ましたよ?」

「壁の向こうには万を超える魔物の大群、内側には結界があったのに?」

「えぇ。衛兵の方々からもそう聞いていませんか?」

「どうしても本当の事は言えないと?」

侯爵と俺は互いに腹を探り合う様に会話を交わす。

「本当の事も何も、衛兵の方から伺われた通りですよ?ただ、外の魔物はそれなりの数を倒しましたけどね」

フェリルが少し慌てた様子を見せたが、こちらが笑顔で見ると何かを感じ取ったのか、居住まいを正した。

「ほう?かなりの数とは?」

エルアドルフ侯爵は更に値踏みする様な表情で尋ねてくる。

「ざっと二万から三万くらいですかね。正確な数は分かりませんけど…。おかげで、魔力切れでこの通りです」

俺はベッドに座ったまま両手をひらひらさせながら、戯けて見せた。

「2人でそれ程の数の魔物を屠るとは遽には信じ難いな…。が、あの場所は街の入り口でも無ければ、壁しか無い場所…。あの場所から入ってきたという事はそういう事…になるのか…?」

腕を組んで、顎に手を当てて考える様に俯いた侯爵は自分を納得させるように呟いた後、こちらを見た。

「それで?あの大群を退ける為に、何をしてくれるのかな?」

「父の兵が二千程こちらに向かって来ています。差し当たっては、父がこの街に入れるように魔物たちにはお引き取りいただく…というのは、どうでしょう?」

昨日、宛てた手紙の返事にそう書いてあったので、そのまま伝えた。

「それは助かる…が、二人でやるつもりかい?」

「Aランク、Sランクの冒険者で自由に動ける方はいないのですよね?恐らく、侯爵の騎士はナレイアとの間にも配備しているでしょうし、街を守るのにも配備されておられるのでしょう?そうなると、残りはBランク以下の冒険者となりますよね?」

「そうなるな」

「でしたら、2人でやります。周囲に人がいると、十分に力を発揮出来ませんし、足手まといです」

「ずいぶん大きく出るね。街の入り口付近は1万では済まない数がいるが?魔力は持つのか?」

「仮にミスをしたとしても、犠牲は押し掛け助っ人だけです。そちらにとっても、悪い話では無いと思いますが?但し、見返りは求めますけどね。それと、百本程マナポーションをいただきたいです」

「確かに、悪い話ではない。が、マナポーションは今の我々にとっても貴重でね。その数を提供するのなら、もう一つ頼みたい事がある。もちろん、全てが片づけばそれなりの礼はする」

俺は訝しむ様子を隠す素振りも見せずに尋ねた。

「もう一つの頼み…とは?」

「街の南東にダンジョンがあるんだが、このダンジョンは氾濫を起こしている中でも、規模が大きくて厄介でね。Aランク以上の者にしか許可していなかった程に魔物も強い。上位ランカーを割いて討伐出来ない現状では、非常に厄介なのだよ」

「そのダンジョンの氾濫を鎮圧しろ…と言う事ですか?」

「そういう事になるね」

侯爵がニコニコしながら答えた。

「分かりました。但し、魔物の情報を貰えますか?明日鎮圧に向かいますので、それまでにマナポーションを準備していただけますか?」

「分かった。後で、資料を持ってこさせよう。マナポーションは明日出発する時に渡そう」

「助かります。ところで、何故ダンジョンが氾濫したのかはご存知で?」

「今のところ、こちらで掴めている情報はほとんど皆無だよ。ただ、リダール側の街道で怪しい者達を見たという情報がある」

「その者達の仕業…ということでしょうか?」

「現時点では何とも言えないな。そもそもその情報自体の真偽が分からんからな」

「そうですか。氾濫って意図的に引き起こせる物なんですか?」

「そうかも知れないし、そうで無いかも知れん。ダンジョンは豊富な資源が採れるが、分かってない事も多くてね。全てが推測の域を出んのだよ。過去の記録を見ても、何年も掛けて氾濫を抑えたとしか残って無いしな」

「そうですか。まぁ、明日行ってみれば、何かわかるでしょう」

「よろしく頼む。北側の門を使うといい。そちらには魔物がほとんど流れていないから、体力を温存しておけるだろう。衛兵達には私から話を通しておく」

そう言うと、侯爵は部屋を出て行った。

「これからどうなさるおつもりですか?」

俺は持っていたマナポーションを飲み干すとベッドから出て、刀を腰に下げて部屋を出る準備をした。

「とりあえず父上が来るまで時間があるからね。先にダンジョンを潰そうか。って言っても、準備が足りないから買い物をしてくるよ」

「まだ動き回らない方が良いのでは?」

俺の手を取ったフェリルが心配そうに見つめて来る。

「大丈夫だよ。周囲の魔素を取り込みながら寝させて貰ったし、マナポーションも飲んでるから動き回れる程度には回復したよ」

「そうですか?では、私も付いて行きます」

「1人で問題無いよ。それに、資料を受け取らないといけないから、ここを空ける訳には行かない」

「ですが…」

「フェリルが気になっているであろう事を話すにしても、人が出入りする状況じゃ話が出来ないから、資料を受け取って置いて貰いたいんだ。ダメかな?」

フェリルは渋々といった様子で「分かりました」と了承してくれた。

「それじゃぁ、行ってくるよ」

「はい。行ってらしゃいませ」

ひらひらと手を振って見送ってくれるフェリルを視界の端に捉えつつ部屋を後にした。

ザエルカの街を歩いてみると、普通に人が出歩いているし、あちこちに衛兵がいるものの緊張感や混乱している様子は感じられ無かった。

(一歩外に出れば、大量の魔物がいるっていうのに随分と危機感が無いな…)

そんな事を思いながら街を歩いていると、不意に声を掛けられた。

「君!もう大丈夫なのかい?」

足を止めて振り返ると、何となく見覚えのある男だいたが、思い出せずにキョトンとしていた。

「そうか。あの時、君はすぐ倒れたから覚えていないか…」

「そう言えば、あの時俺たちを囲んでいた衛兵の人ですか?」

俺は男の言葉で、街に入り込んだ時に囲んできた衛兵の中に目の前の男がいたのを思い出した。

「まさか。侯爵の知り合いとは思わなんだよ。どうか非礼を許してくれ」

「いえいえ、こちらがあんな所から降りてきたからですから」

「そう言って貰えると助かるよ。で、こんな所でどうしたんだい?」

「武器屋と道具屋を探してまして」

「それなら、この通りを左に曲がってまっすぐ進めばあるよ」

「ありがとうございます。少し迷ってましたので、助かりました」

「どう致しまして。そういえば、どうしてあんな所から入ってきたんだい?」

「1番魔物が少ない所を攻めただけですよ。どうせ討伐しないといけないなら、数を減らしておこうかと思いまして」

「えっ!あそこでも、かなりの数がいたんじゃ…?」

「えぇ、まぁそれなりには。おかげさまで、魔力が尽きましたが…」

戯けながら、笑みを浮かべて言った。

「まぁ、無事だったのなら良かったよ」

「っと、買い物に向かってる所でしたので、それでは…」

ここに来た時の話ばかりになると、変な詮索を受けそうだと思い、その場を離れる事にする。

「おっと、呼び止めてすまなかったね」

「いえ。店の場所を教えていただき、ありがとうございました」

俺はお礼を言うと、武器屋と道具屋に向かうとお目当ての物を買って、屋敷に戻った。
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