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第三十話 回想—崩れ行く平穏の傍らで—
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父親ある国王に自室待機を命じられたソフィアは、レイと一緒に居られる事にウキウキしながら荷造りをしていた。
「随分楽しそうですね」
一緒に荷造りしていた使用人のリーシェが、終始ニコニコしながら荷造りしているソフィアを見て思わず話しかけた。
「レイと旅に出るんですもの!嬉しいに決まってます!」
「そ、そうですか…」
ソフィアのテンションの高さに、若干ドン引きしつつ適当に返事する。
「これでよしっ!と」
そんなリーシェの反応を気にも留めず、準備を進めていたソフィアは、空間収納魔法に全ての荷物詰め込んで額に垂れる汗を腕で拭う。
直後、突如として街中で起こった初めの爆発の音が、王城の上階に位置するソフィアの部屋まで鳴り届く。
「な?!何事ですか?!」
同じ部屋にいるのだから知っているはずが無いのだが、思わずリーシェに尋ねる。
「か…確認して参ります!姫様はどうか部屋を出ないように!」
状況を確認しに、リーシェが慌てて部屋を出て行った。
一人残されたソフィアは、レイ達に何かあったのかと不安に駆られるのを必死に抑えた。
そうこうしていると、再び、今度は二度の爆発音が聞こえた。
「また?!」
リーシェが戻ってくるのを待っていたソフィアだったが、居ても立っても居られなくなって部屋を出た。
下の階に降りると、そこら中で城の者達が駆け回り、王女が降りて来た事を気に留める者はいなかった。
その様子に呆気に取られていると、先に下に降りていたリーシェが駆け寄って来た。
「何してるんですか!?部屋を出ないで下さいと申し上げた筈です!」
リーシェがこの緊急事態に、思わず王女であるソフィアに怒号を飛ばす。
「何があったのです!説明なさい!」
そんな事を気にも留めずに、ソフィアがリーシェに問い返す。
「ま、街で爆発が起こったよう…。?!」
言いかけたリーシェが、殺気を感じて思わず振り返ると、そこには騎士が数人の部下を引き連れて歩み寄って来ていた。
「何の用です」
剣を抜いて殺意を向けるその目に、リーシェは嫌でも敵だと認識させられた。
「貴女に恨みはありませんが、死んでいただきます」
「そう簡単にやられる訳にはいきません!リーシェ!」
ソフィアは脱兎の如く階段を登り始め、その後にリーシェが続く。
(ここでは魔法を使えない…!どこか開けた場所は…)
「足掻いても無駄だ!」
後を追いかけて来る騎士が叫んだ。
「姫様、此処は私が!」
「なりません!こんな所では数で劣る私達では不利です!」
通路を走りながら、ジリジリと距離が詰まって行く様子にリーシェが足止めを進言するが、即座に却下する。
「しかし!このままでは追いつかれます!」
(あそこなら!あそこなら、少しは戦えるはず!)
「はぁはぁはぁ…」
息苦しいのを押さえつけながら、謁見の間を目指して王城の通路をただひたすらに走り抜ける。
相手との距離を確認しようと顔を後方に向けると、少し離れた所で、何も知らずに部屋から出てきた二人の使用人が見えた。
「もどっ…」
戻って!と、言おうとした言葉も虚しく、騎士達に斬りつけられる瞬間を目撃する。
「っ!」
ただ走って逃げる事しかできない悔しさに堪え、ただひたすらに走り続けた。
「姫様、追いつかれます!先に行ってください!」
謁見の間までもう少しと言う所で、並走するリーシェが再び足止めを買って出る。
「分かりました…」
強い眼差しで見つめ返すリーシェの想いを否定するようで、今度は「だめだ」と言えなかった。
「この先に謁見の間があります!直ぐに来て下さい!」
本来、城内では魔法は禁止…いや、使えない様にされているはずだが、せめて…と思って身体強化魔法をリーシェに放つ。
(あれ?!使えた?)
リーシェに身体強化魔法が使えた事に驚きつつも、驚いている場合では無いと気持ちを切り替える。
「直ぐに来るのよ!絶対だから!」
「分かってます!少し足止めするだけです!」
足を止めて短剣を構えるリーシェに、心の中で感謝しつつ先を急いだ。
謁見の間に着いてすぐに、今度は自分に身体強化魔法を掛けた。
(魔法が使える…なら!)
設置式の魔法を部屋の所々に仕掛け、杖を構えて追い掛けて来ていた騎士達を待ち受ける。
バタンっ!!
「鬼ごっこはここまでだ!!」
謁見の間の大扉が開くと、あの騎士が大剣を肩に担いで現れ、その後ろには部下達がいた。
「リーシェは…、リーシェはどうしたのです!」
リーシェが足止めしていたはず…なのに、こいつらが先に現れた。
まさか…殺されたのかと絶叫すると、男の部下がぼろぼろになって瀕死の状態のリーシェの頭を掴んで、宙吊りにする。
「このゲスがっ!リーシェを離せ!」
「おいっ!そいつを返してやれ。…死にかけだが…なっ!」
騎士の男がリーシェを掴んでいた部下に命じて、こちらに向かってリーシェを放り投げさせると、斬り込んで来た。
(良かった…。まだ息がある…)
リーシェを身体で受け止めて死んでいない事を確認すると、眼前に迫る騎士の男目掛けて仕掛けておいたフレイムアローを発動する。
「鬱陶しい!」
騎士の男が姿勢を変え、フレイムアローを持っていた剣で斬り払う。
(強い!出し惜しみしてられない!!)
仕掛けていた魔法をいくつか発動させて、一斉に襲い掛からせた。
「甘いっ!!」
男はバックステップを踏んで、向かって来る魔法を交わす。
「油断しましたね!」
ソフィアが、男の着地と同時に、残りの仕掛けていた魔法を全て起動した。
(やっ…)
やったと喜びかけたところで、男が側に居た部下を盾にして防いだのか、怪我一つない様子で現れたのを見て絶望する。
「これで全部か?今度はこちらから行くぞ!」
男が身代わりにした部下をその辺りに投げ捨て、再び斬り込んでく来た。
(ここまで…かぁ…。一緒にいたかったなぁ…)
目に涙を浮かべて抵抗を諦めたソフィアはキツく目を瞑ると、死にかけのリーシェを抱きしめた。
(危なくなったら…それを相手に投げ…)
ふと、部屋に戻る前にアリアルデから言われた言葉を思い出した。
咄嗟にポケットに手を入れてみると、アリアルデに渡された小さな丸い球があった。
ポケットに入れていたその球を、藁にもすがる思いで襲いかかる相手目掛けて投げた。
「往生際が悪い!」
男は振り下ろした剣で、そのまま投げつけられた球を叩き斬った。
「くっ!」
叩き斬った球から溢れる光のせいで、男が思わず目が眩んで顔背けたが、一度振り下ろした剣は尚もソフィアに襲いかかる。
ガッ!!
「なっ!?」
所詮はただの目眩し、一度振り下ろされた大剣はこのままソフィアを斬り伏せ、目的は達成される。
そう思っていた男は、明らかにソフィアまで届かずに止まった大剣の感触に、何が起きたのか理解出来ずに驚きの声を上げる。
「…?!」
相手の攻撃がいつまでも自分に届かないのを不思議に思い、ソフィアが恐る恐る片目を開けて見ると、優美な姿の女性が大剣を受け止めていた。
「あなたは…」
思わずその姿に見惚れてしまい、その後に続けようとした言葉を何処かに置いて来てしまう。
「邪魔…」
女性は大剣を受け止めていた何かで押し返す様に、手を前に振る。
ソフィアに斬りかかった男は、何かに押されて入口の扉まで一気に吹き飛ばされ、壊れた扉の残骸が男に降り注ぐ。
「くそっ!何なんだ!?あいつは!」
瓦礫を押し退けて立ち上がった男が、突如現れた女性に敵意を剥き出しにして大剣を構えた。
「目障りね。あれ、貴女の敵?」
「えっ?あ、はい。そうです」
突然尋ねられたソフィアが答えると、女性が男に向かって魔法を放った。
「グレイジングストーム」
暴風の大砲とも言うべき荒れ狂った風が、周りをズタズタに引き裂きながら男に襲い掛かる。
男が大剣を盾にして受け止めようとするが、形無き暴風はモノともせず男を飲み込み、そのまま城の外壁を突き破ってどこかへと飛び去った。
「っ!」
纏っていた鎧のあちこちがひび割れ、身体中が傷だらけになりながらも、男は折れた剣を支えに片膝を付いていた。
(あれに耐えたの?!)
ソフィアが目の前で放たれた魔法に耐えた男の強靭さに驚愕する。
「しつこいわね」
目の前の女性がもう一度魔法を発動しようとしているのに、気付いて思わず魔法を発動した。
「最早ここまでか…」
再び男を暴風の魔法が目の前に迫ると、乾いた笑みを浮かべ諦めた様子を見せた。
が、女性が発動した魔法は、ソフィアの発動したティアードによって男を避ける様に通り抜けて行った
「だ、駄目…です…。その人を…殺しては…」
残った魔力をティアードに全て注ぎ込んだソフィアは、消え入る様に言葉を絞り出すと、そのまま気を失った。
驚きを見せた女性が、ソフィアを一瞥すると男の方に向き直る。
「この子に感謝なさい。まだ、生きていられる事に」
男が一瞬怪しい動きを見せたのを見逃さ無かった女性が、その四肢にエアロバレットで打ち抜いて告げる。
「…来たか」
見知った相手が向かって来る気配に気付くと、悶え苦しむ男を嫌悪の眼差しで一瞥してその姿を消した。
パレードから戻った俺とフェリルが服を着替えていると、ソフィアが襲われた事を伝えられた。
慌てて無事を確かめにソフィアの自室に行くと、既に師《せんせい》がそこに居た。
「大丈夫。気を失っているだけだから」
部屋に入って来た俺たちの方に振り返ると、ソフィアの容体を告げる。
「ありがとうございます」
師《せんせい》が守ってくれたのだろうと、俺とフェリルが頭を下げた。
「付いて来なさい」
部屋を出て行く師《せんせい》の後に続いて、部屋を出る。
出て行く時にソフィアを見ると、すやすやと眠るその姿に少しホッとした。
連れられて行った先は謁見の間だった。
ただ…
パレードの前に入った時とは打って変わり、扉は無く、周りは何かに切りつけられた様な戦闘の跡があった。
玉座の向こうから現れた誰かに気付いた俺たちは、それが誰なのか察して片膝を突いて頭を下げる。
「有事である形式的な礼は良い。面を上げよ」
玉座の奥から出て来た陛下が座って、片膝を付く二人に声を掛ける。
「陛下がご無事で何より…です」
顔をあげて陛下の身を案じる声を掛けたが、何とも言えない僅かな違和感を感じて少し戸惑った。
「気付いた?あれ、陛下の影武者。本物は私が匿ってるの~」
俺が感じた違和感の理由を、師《せんせい》があっさりバラした。
「うむ。って、公爵よ…。あっさりバラすでない」
さっきまで毅然とした物腰で振る舞っていた陛下(の影武者?もう面倒だから陛下でいいや…)が、おたおたする。
「どうせここには私たちしか居ないしんだし。どうせなら、後ろの心配なんかせずに、レイには思いっきりやってもらった方が良いんだし~」
「それはそうだが…」
「あの…話を…」
フェリルが脱線して行く話を軌道修正すべく、口を挟んだ。
「ぅうぉっほん!!すまん。陛下の影武者ではあるが、私の言葉は陛下の言葉と心得て聞け。此度の仕業は、リダールの者達によるモノだと判明した」
大きな咳払いをして気を取り直すと、陛下が話を元に戻す。
「何故、そうだと?」
街中で俺たちを襲った者達は、恐らくまだ衛兵達に捕らえられている最中のはずだ。
と、なると…
「ソフィアを襲った者を尋問して聞き出したのだ」
「どうなさるおつもりですか?」
「此度の被害を知っておるか?」
「いえ。ただかなりの被害が出ているだろうとは思っています」
「死者数百名、負傷者はその三倍、城内でも十数名は殺されておる。倒壊した建物は数十棟だ」
「それほど…」
「このまま黙っている訳にはいかんのでな。リダールを攻め落とす」
「私にリダールを落とせと?」
「そういう事だ。生死は問わん。連れ帰ったとしても極刑だ」
陛下は玉座の肘置きに肘を置いて、頬に拳を当てて冷たく言ってのける。
「分かりました。ですが…」
あの街の光景に、許し難いモノを感じていたのもあって、二つ返事で了承する。
だが、気になっている事もあった。
「帝国か?間違いなく無関係では無い。十分では無いが、裏も取れている」
「なら、俺たちはリダールを早々に落とさなければなりませんね」
「待って下さい!それは、レイに人を殺せと言う事ですか!?レイはそうするつもりですか!!」
話の成り行きを見守っていたフェリルが感情を剥き出しにして、陛下と俺に言葉をぶつける。
「誤魔化しても仕方ない。端的に言えばそうなる。従えぬと言うなら、国外追放するしか無いが?」
「フェリル、これはもう戦争なんだよ。誰かがやるしか無いんだ。俺がやらなくても、俺以外の誰かが同じ事をする」
「何もレイがしなくても良いじゃ無いですか!!レイが背負わなくても良いじゃ無いですか!!」
必死に俺を止めようとするフェリルに感謝しつつ、俺はその気持ちだけ有り難く受け取る事にした。
「ありがとう。でも、もう決めたんだ。俺に出来る事があるなら、それだったら…やろうって…」
「ですが!!…、分かりました。それ程の覚悟でなさると言うのなら、もうお止めしません。ですが、私も付いて行きます!!」
「そうは行かぬ。フェリル殿には今しばらくこの王都に残って、やって貰わねばならん事がある」
「フェリルちゃんとソフィアちゃんには、ここにいて貰わないと魔法を教えられないしね~」
陛下と師《せんせい》が、同時にフェリルの意見を却下する。
「負傷者が多いのでな。君はここに残って、公爵に師事を仰ぎながら王都の復興支援に入って貰う。帝国との戦争を見据えても必要なのだ」
「仕方ありませんね。ベレルにはオウカもいる訳ですし」
不満げな顔をするフェリルに代わって承諾する。
「済まんな。その代わり…では無いが、私からの選別として商業ギルドのギルド長から渡された物があろう?それと、引き換えに宝物庫から好きな物を持って行くが良い」
「良いのですか?ギルド長の私物からという話のはずでしたが」
「構わん。せめてもの礼だ。宝物庫に寄ったら、直ぐに向かってくれ」
「分かりました。それじゃあ、フェリル、また後でね」
未だ不満げな顔をするフェリルに苦笑しつつ、一人宝物庫に立ち寄り、宝物庫でモノを受け取ってからベレルに向かった。
「随分楽しそうですね」
一緒に荷造りしていた使用人のリーシェが、終始ニコニコしながら荷造りしているソフィアを見て思わず話しかけた。
「レイと旅に出るんですもの!嬉しいに決まってます!」
「そ、そうですか…」
ソフィアのテンションの高さに、若干ドン引きしつつ適当に返事する。
「これでよしっ!と」
そんなリーシェの反応を気にも留めず、準備を進めていたソフィアは、空間収納魔法に全ての荷物詰め込んで額に垂れる汗を腕で拭う。
直後、突如として街中で起こった初めの爆発の音が、王城の上階に位置するソフィアの部屋まで鳴り届く。
「な?!何事ですか?!」
同じ部屋にいるのだから知っているはずが無いのだが、思わずリーシェに尋ねる。
「か…確認して参ります!姫様はどうか部屋を出ないように!」
状況を確認しに、リーシェが慌てて部屋を出て行った。
一人残されたソフィアは、レイ達に何かあったのかと不安に駆られるのを必死に抑えた。
そうこうしていると、再び、今度は二度の爆発音が聞こえた。
「また?!」
リーシェが戻ってくるのを待っていたソフィアだったが、居ても立っても居られなくなって部屋を出た。
下の階に降りると、そこら中で城の者達が駆け回り、王女が降りて来た事を気に留める者はいなかった。
その様子に呆気に取られていると、先に下に降りていたリーシェが駆け寄って来た。
「何してるんですか!?部屋を出ないで下さいと申し上げた筈です!」
リーシェがこの緊急事態に、思わず王女であるソフィアに怒号を飛ばす。
「何があったのです!説明なさい!」
そんな事を気にも留めずに、ソフィアがリーシェに問い返す。
「ま、街で爆発が起こったよう…。?!」
言いかけたリーシェが、殺気を感じて思わず振り返ると、そこには騎士が数人の部下を引き連れて歩み寄って来ていた。
「何の用です」
剣を抜いて殺意を向けるその目に、リーシェは嫌でも敵だと認識させられた。
「貴女に恨みはありませんが、死んでいただきます」
「そう簡単にやられる訳にはいきません!リーシェ!」
ソフィアは脱兎の如く階段を登り始め、その後にリーシェが続く。
(ここでは魔法を使えない…!どこか開けた場所は…)
「足掻いても無駄だ!」
後を追いかけて来る騎士が叫んだ。
「姫様、此処は私が!」
「なりません!こんな所では数で劣る私達では不利です!」
通路を走りながら、ジリジリと距離が詰まって行く様子にリーシェが足止めを進言するが、即座に却下する。
「しかし!このままでは追いつかれます!」
(あそこなら!あそこなら、少しは戦えるはず!)
「はぁはぁはぁ…」
息苦しいのを押さえつけながら、謁見の間を目指して王城の通路をただひたすらに走り抜ける。
相手との距離を確認しようと顔を後方に向けると、少し離れた所で、何も知らずに部屋から出てきた二人の使用人が見えた。
「もどっ…」
戻って!と、言おうとした言葉も虚しく、騎士達に斬りつけられる瞬間を目撃する。
「っ!」
ただ走って逃げる事しかできない悔しさに堪え、ただひたすらに走り続けた。
「姫様、追いつかれます!先に行ってください!」
謁見の間までもう少しと言う所で、並走するリーシェが再び足止めを買って出る。
「分かりました…」
強い眼差しで見つめ返すリーシェの想いを否定するようで、今度は「だめだ」と言えなかった。
「この先に謁見の間があります!直ぐに来て下さい!」
本来、城内では魔法は禁止…いや、使えない様にされているはずだが、せめて…と思って身体強化魔法をリーシェに放つ。
(あれ?!使えた?)
リーシェに身体強化魔法が使えた事に驚きつつも、驚いている場合では無いと気持ちを切り替える。
「直ぐに来るのよ!絶対だから!」
「分かってます!少し足止めするだけです!」
足を止めて短剣を構えるリーシェに、心の中で感謝しつつ先を急いだ。
謁見の間に着いてすぐに、今度は自分に身体強化魔法を掛けた。
(魔法が使える…なら!)
設置式の魔法を部屋の所々に仕掛け、杖を構えて追い掛けて来ていた騎士達を待ち受ける。
バタンっ!!
「鬼ごっこはここまでだ!!」
謁見の間の大扉が開くと、あの騎士が大剣を肩に担いで現れ、その後ろには部下達がいた。
「リーシェは…、リーシェはどうしたのです!」
リーシェが足止めしていたはず…なのに、こいつらが先に現れた。
まさか…殺されたのかと絶叫すると、男の部下がぼろぼろになって瀕死の状態のリーシェの頭を掴んで、宙吊りにする。
「このゲスがっ!リーシェを離せ!」
「おいっ!そいつを返してやれ。…死にかけだが…なっ!」
騎士の男がリーシェを掴んでいた部下に命じて、こちらに向かってリーシェを放り投げさせると、斬り込んで来た。
(良かった…。まだ息がある…)
リーシェを身体で受け止めて死んでいない事を確認すると、眼前に迫る騎士の男目掛けて仕掛けておいたフレイムアローを発動する。
「鬱陶しい!」
騎士の男が姿勢を変え、フレイムアローを持っていた剣で斬り払う。
(強い!出し惜しみしてられない!!)
仕掛けていた魔法をいくつか発動させて、一斉に襲い掛からせた。
「甘いっ!!」
男はバックステップを踏んで、向かって来る魔法を交わす。
「油断しましたね!」
ソフィアが、男の着地と同時に、残りの仕掛けていた魔法を全て起動した。
(やっ…)
やったと喜びかけたところで、男が側に居た部下を盾にして防いだのか、怪我一つない様子で現れたのを見て絶望する。
「これで全部か?今度はこちらから行くぞ!」
男が身代わりにした部下をその辺りに投げ捨て、再び斬り込んでく来た。
(ここまで…かぁ…。一緒にいたかったなぁ…)
目に涙を浮かべて抵抗を諦めたソフィアはキツく目を瞑ると、死にかけのリーシェを抱きしめた。
(危なくなったら…それを相手に投げ…)
ふと、部屋に戻る前にアリアルデから言われた言葉を思い出した。
咄嗟にポケットに手を入れてみると、アリアルデに渡された小さな丸い球があった。
ポケットに入れていたその球を、藁にもすがる思いで襲いかかる相手目掛けて投げた。
「往生際が悪い!」
男は振り下ろした剣で、そのまま投げつけられた球を叩き斬った。
「くっ!」
叩き斬った球から溢れる光のせいで、男が思わず目が眩んで顔背けたが、一度振り下ろした剣は尚もソフィアに襲いかかる。
ガッ!!
「なっ!?」
所詮はただの目眩し、一度振り下ろされた大剣はこのままソフィアを斬り伏せ、目的は達成される。
そう思っていた男は、明らかにソフィアまで届かずに止まった大剣の感触に、何が起きたのか理解出来ずに驚きの声を上げる。
「…?!」
相手の攻撃がいつまでも自分に届かないのを不思議に思い、ソフィアが恐る恐る片目を開けて見ると、優美な姿の女性が大剣を受け止めていた。
「あなたは…」
思わずその姿に見惚れてしまい、その後に続けようとした言葉を何処かに置いて来てしまう。
「邪魔…」
女性は大剣を受け止めていた何かで押し返す様に、手を前に振る。
ソフィアに斬りかかった男は、何かに押されて入口の扉まで一気に吹き飛ばされ、壊れた扉の残骸が男に降り注ぐ。
「くそっ!何なんだ!?あいつは!」
瓦礫を押し退けて立ち上がった男が、突如現れた女性に敵意を剥き出しにして大剣を構えた。
「目障りね。あれ、貴女の敵?」
「えっ?あ、はい。そうです」
突然尋ねられたソフィアが答えると、女性が男に向かって魔法を放った。
「グレイジングストーム」
暴風の大砲とも言うべき荒れ狂った風が、周りをズタズタに引き裂きながら男に襲い掛かる。
男が大剣を盾にして受け止めようとするが、形無き暴風はモノともせず男を飲み込み、そのまま城の外壁を突き破ってどこかへと飛び去った。
「っ!」
纏っていた鎧のあちこちがひび割れ、身体中が傷だらけになりながらも、男は折れた剣を支えに片膝を付いていた。
(あれに耐えたの?!)
ソフィアが目の前で放たれた魔法に耐えた男の強靭さに驚愕する。
「しつこいわね」
目の前の女性がもう一度魔法を発動しようとしているのに、気付いて思わず魔法を発動した。
「最早ここまでか…」
再び男を暴風の魔法が目の前に迫ると、乾いた笑みを浮かべ諦めた様子を見せた。
が、女性が発動した魔法は、ソフィアの発動したティアードによって男を避ける様に通り抜けて行った
「だ、駄目…です…。その人を…殺しては…」
残った魔力をティアードに全て注ぎ込んだソフィアは、消え入る様に言葉を絞り出すと、そのまま気を失った。
驚きを見せた女性が、ソフィアを一瞥すると男の方に向き直る。
「この子に感謝なさい。まだ、生きていられる事に」
男が一瞬怪しい動きを見せたのを見逃さ無かった女性が、その四肢にエアロバレットで打ち抜いて告げる。
「…来たか」
見知った相手が向かって来る気配に気付くと、悶え苦しむ男を嫌悪の眼差しで一瞥してその姿を消した。
パレードから戻った俺とフェリルが服を着替えていると、ソフィアが襲われた事を伝えられた。
慌てて無事を確かめにソフィアの自室に行くと、既に師《せんせい》がそこに居た。
「大丈夫。気を失っているだけだから」
部屋に入って来た俺たちの方に振り返ると、ソフィアの容体を告げる。
「ありがとうございます」
師《せんせい》が守ってくれたのだろうと、俺とフェリルが頭を下げた。
「付いて来なさい」
部屋を出て行く師《せんせい》の後に続いて、部屋を出る。
出て行く時にソフィアを見ると、すやすやと眠るその姿に少しホッとした。
連れられて行った先は謁見の間だった。
ただ…
パレードの前に入った時とは打って変わり、扉は無く、周りは何かに切りつけられた様な戦闘の跡があった。
玉座の向こうから現れた誰かに気付いた俺たちは、それが誰なのか察して片膝を突いて頭を下げる。
「有事である形式的な礼は良い。面を上げよ」
玉座の奥から出て来た陛下が座って、片膝を付く二人に声を掛ける。
「陛下がご無事で何より…です」
顔をあげて陛下の身を案じる声を掛けたが、何とも言えない僅かな違和感を感じて少し戸惑った。
「気付いた?あれ、陛下の影武者。本物は私が匿ってるの~」
俺が感じた違和感の理由を、師《せんせい》があっさりバラした。
「うむ。って、公爵よ…。あっさりバラすでない」
さっきまで毅然とした物腰で振る舞っていた陛下(の影武者?もう面倒だから陛下でいいや…)が、おたおたする。
「どうせここには私たちしか居ないしんだし。どうせなら、後ろの心配なんかせずに、レイには思いっきりやってもらった方が良いんだし~」
「それはそうだが…」
「あの…話を…」
フェリルが脱線して行く話を軌道修正すべく、口を挟んだ。
「ぅうぉっほん!!すまん。陛下の影武者ではあるが、私の言葉は陛下の言葉と心得て聞け。此度の仕業は、リダールの者達によるモノだと判明した」
大きな咳払いをして気を取り直すと、陛下が話を元に戻す。
「何故、そうだと?」
街中で俺たちを襲った者達は、恐らくまだ衛兵達に捕らえられている最中のはずだ。
と、なると…
「ソフィアを襲った者を尋問して聞き出したのだ」
「どうなさるおつもりですか?」
「此度の被害を知っておるか?」
「いえ。ただかなりの被害が出ているだろうとは思っています」
「死者数百名、負傷者はその三倍、城内でも十数名は殺されておる。倒壊した建物は数十棟だ」
「それほど…」
「このまま黙っている訳にはいかんのでな。リダールを攻め落とす」
「私にリダールを落とせと?」
「そういう事だ。生死は問わん。連れ帰ったとしても極刑だ」
陛下は玉座の肘置きに肘を置いて、頬に拳を当てて冷たく言ってのける。
「分かりました。ですが…」
あの街の光景に、許し難いモノを感じていたのもあって、二つ返事で了承する。
だが、気になっている事もあった。
「帝国か?間違いなく無関係では無い。十分では無いが、裏も取れている」
「なら、俺たちはリダールを早々に落とさなければなりませんね」
「待って下さい!それは、レイに人を殺せと言う事ですか!?レイはそうするつもりですか!!」
話の成り行きを見守っていたフェリルが感情を剥き出しにして、陛下と俺に言葉をぶつける。
「誤魔化しても仕方ない。端的に言えばそうなる。従えぬと言うなら、国外追放するしか無いが?」
「フェリル、これはもう戦争なんだよ。誰かがやるしか無いんだ。俺がやらなくても、俺以外の誰かが同じ事をする」
「何もレイがしなくても良いじゃ無いですか!!レイが背負わなくても良いじゃ無いですか!!」
必死に俺を止めようとするフェリルに感謝しつつ、俺はその気持ちだけ有り難く受け取る事にした。
「ありがとう。でも、もう決めたんだ。俺に出来る事があるなら、それだったら…やろうって…」
「ですが!!…、分かりました。それ程の覚悟でなさると言うのなら、もうお止めしません。ですが、私も付いて行きます!!」
「そうは行かぬ。フェリル殿には今しばらくこの王都に残って、やって貰わねばならん事がある」
「フェリルちゃんとソフィアちゃんには、ここにいて貰わないと魔法を教えられないしね~」
陛下と師《せんせい》が、同時にフェリルの意見を却下する。
「負傷者が多いのでな。君はここに残って、公爵に師事を仰ぎながら王都の復興支援に入って貰う。帝国との戦争を見据えても必要なのだ」
「仕方ありませんね。ベレルにはオウカもいる訳ですし」
不満げな顔をするフェリルに代わって承諾する。
「済まんな。その代わり…では無いが、私からの選別として商業ギルドのギルド長から渡された物があろう?それと、引き換えに宝物庫から好きな物を持って行くが良い」
「良いのですか?ギルド長の私物からという話のはずでしたが」
「構わん。せめてもの礼だ。宝物庫に寄ったら、直ぐに向かってくれ」
「分かりました。それじゃあ、フェリル、また後でね」
未だ不満げな顔をするフェリルに苦笑しつつ、一人宝物庫に立ち寄り、宝物庫でモノを受け取ってからベレルに向かった。
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彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
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