35 / 99
第3章 幼少期(修行時代)
34 Re:play
しおりを挟む
※※最下のコメントに、とあるネタバレがあります。気になる方はコメント読み飛ばし推奨です※※
豚助氏は刃物を出したものの、顔はすっかり青ざめていた。
豚助氏にはその刃物を人に向けて使う気も度胸も無いだろう。
私にはそれが解る。
だが、あの子達にそれは解るまい。
「な、なんだ? どうしたんだこいつらは?」
魔女邸にいた3体のミニゴーレム達。彼らの目が蒼白い光を放ち、豚助氏へじっと視線を送っていた。
この子達は部外者の危険な敵対行為を見かけると、その視界を近くの見廻組ゴーレムと巧魔氏へ送るように出来ているのだ。既に一番近くにいる見廻組がこちらへ向かって走ってきているだろう。
宿泊客達がざわつき始める。
「おい、今日の見回り組はどっちだ?」「『農業組』だよ。ついてないなアイツ。下手したら死ぬぜ」
見廻組には2パターンある。『武器組』と『農業組』だ。武器組の場合は拘束されるだけで怪我をせずに済むが、農業組の場合はそうはいかない。下手に逆らえば死ぬ事もある。
以前、龍都からやって来た奴隷商人が村へ忍び込み、暗くなったのを見計らって子供達を連れ去る事件が起きた。
危うく龍都の奴隷市場へ連れてかれるところであったが、真夜中になると子供達は何事も無かったように全員無事に家へ帰ってきた。夜が明けて辺りを捜索してみると、村の外れに転がる死体が一体。額に鎌を深々と埋めた奴隷商人であった。
それ以来、『国王を暗殺するよりも森谷村でパン一個を盗む方が尚難しい』とまことしやかに噂されるようになった。
ギィ、と宿の大扉が開かれる。
青白い光が室内を見渡す。
彼の手には鋭い鎌が一つ。蒼白い光に照らされてキラリと光っている。
豚助氏がぎょっとして一歩下がった。
「な、なんだこの奇妙なゴーレムは? 鎌なんて持ちやがって」「ももも、持ちやがって」
現れたのは農具を装備した見回組のミドル・ゴーレム。敵を認識したのか、豚助氏を静かに見据えている。
豚助氏は強がりを言っているが、小夏氏は余程怖いのか、豚助氏の後ろへ隠れて出てこようとしない。
「豚助氏、悪いことは言わないです。刃物を納めなさい」
「俺様に命令するな!」
ひゅん、と音をたてて何かが豚助氏の頬を掠めた。確認するまでもない、ゴーレムが放った鎌である。
豚助氏の頬に赤い筋が走った。
「……今のは外れたのではありません。一回目はそうなるようになっているのです。私には豚助氏が刃物を振るう気が無いのは分かっています。つい、抜いてしまったんですよね? でも、そのゴーレムにそれは通用しません。次の一撃は必ず命中します。……悪いことは言わないです。刃物を、納めて下さい」
「…………」
豚助氏は項垂れて下を向く。良かった、どうやら矛を納めてくれそうである。
「………………し」
「? 何です?」
「知ったような口を聞くな! 俺様は豚狩村の英雄豚助様だ! 一度出した刃を納められるか!」
豚助氏は刀を振り上げる。
「っ?! 馬鹿!!」
が、時既に遅し。
ゴーレムから無慈悲な一投は既に放たれた。
放たれた鎌は一分の狂いもなく豚助氏の額に吸い込まれていきーーーー
…………ボーン――――――ボーン――――――ボーン………………。
あたしが目を覚ましたとき、柱時計の低く呻くような音は、どこまでも伝わって行く波紋のような余韻を、耳の中にまとわりつくように、いつまでも残していった。
(あれ? あたしいつの間にか寝ちゃったです?)
どうやらカウンターに突っ伏して居眠りしといたようだ。
大きな柱時計は午後4時丁度になったことをお知らせしていた。受付開始時間だ。そろそろお客さんがやって来る頃だろう。
(何だろう。何か大事なことを忘れているような……)
あたしはその何かを思い出そうと柱時計をじっと見つめる。
だが、柱時計はその振り子の魅力でミニゴーレムの首を右に左に傾けさせるだけで、私には何の答えも与えようとはしない。
(忘れてるってことは大したことじゃ無いのかもしれないな)
あたしはそう思って自分を納得させると、今から始まる退屈な受付業務を想像し、憂鬱な気分に浸るのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
もしかしたらお気づきの方もいるかも知れませんが、29話の冒頭はドグラ・マグラのオマージュとなります。もちろん、文体を真似ただけですが。真似れてはいませんが。雰囲気です。雰囲気。
たまたまですが、猿彦の過去編へ話が飛んでいるのもドグラ・マグラに似た構成となりました。構成だけですが。
ドグラ・マグラを読み返すと、久作先生が如何に偉大な作家だったかがよくわかります。あんなの真似れねえよ。
ドグラ・マグラに興味のあるかたは、青空文庫でも公開されておりますのでぜひご一読下さい。
豚助氏は刃物を出したものの、顔はすっかり青ざめていた。
豚助氏にはその刃物を人に向けて使う気も度胸も無いだろう。
私にはそれが解る。
だが、あの子達にそれは解るまい。
「な、なんだ? どうしたんだこいつらは?」
魔女邸にいた3体のミニゴーレム達。彼らの目が蒼白い光を放ち、豚助氏へじっと視線を送っていた。
この子達は部外者の危険な敵対行為を見かけると、その視界を近くの見廻組ゴーレムと巧魔氏へ送るように出来ているのだ。既に一番近くにいる見廻組がこちらへ向かって走ってきているだろう。
宿泊客達がざわつき始める。
「おい、今日の見回り組はどっちだ?」「『農業組』だよ。ついてないなアイツ。下手したら死ぬぜ」
見廻組には2パターンある。『武器組』と『農業組』だ。武器組の場合は拘束されるだけで怪我をせずに済むが、農業組の場合はそうはいかない。下手に逆らえば死ぬ事もある。
以前、龍都からやって来た奴隷商人が村へ忍び込み、暗くなったのを見計らって子供達を連れ去る事件が起きた。
危うく龍都の奴隷市場へ連れてかれるところであったが、真夜中になると子供達は何事も無かったように全員無事に家へ帰ってきた。夜が明けて辺りを捜索してみると、村の外れに転がる死体が一体。額に鎌を深々と埋めた奴隷商人であった。
それ以来、『国王を暗殺するよりも森谷村でパン一個を盗む方が尚難しい』とまことしやかに噂されるようになった。
ギィ、と宿の大扉が開かれる。
青白い光が室内を見渡す。
彼の手には鋭い鎌が一つ。蒼白い光に照らされてキラリと光っている。
豚助氏がぎょっとして一歩下がった。
「な、なんだこの奇妙なゴーレムは? 鎌なんて持ちやがって」「ももも、持ちやがって」
現れたのは農具を装備した見回組のミドル・ゴーレム。敵を認識したのか、豚助氏を静かに見据えている。
豚助氏は強がりを言っているが、小夏氏は余程怖いのか、豚助氏の後ろへ隠れて出てこようとしない。
「豚助氏、悪いことは言わないです。刃物を納めなさい」
「俺様に命令するな!」
ひゅん、と音をたてて何かが豚助氏の頬を掠めた。確認するまでもない、ゴーレムが放った鎌である。
豚助氏の頬に赤い筋が走った。
「……今のは外れたのではありません。一回目はそうなるようになっているのです。私には豚助氏が刃物を振るう気が無いのは分かっています。つい、抜いてしまったんですよね? でも、そのゴーレムにそれは通用しません。次の一撃は必ず命中します。……悪いことは言わないです。刃物を、納めて下さい」
「…………」
豚助氏は項垂れて下を向く。良かった、どうやら矛を納めてくれそうである。
「………………し」
「? 何です?」
「知ったような口を聞くな! 俺様は豚狩村の英雄豚助様だ! 一度出した刃を納められるか!」
豚助氏は刀を振り上げる。
「っ?! 馬鹿!!」
が、時既に遅し。
ゴーレムから無慈悲な一投は既に放たれた。
放たれた鎌は一分の狂いもなく豚助氏の額に吸い込まれていきーーーー
…………ボーン――――――ボーン――――――ボーン………………。
あたしが目を覚ましたとき、柱時計の低く呻くような音は、どこまでも伝わって行く波紋のような余韻を、耳の中にまとわりつくように、いつまでも残していった。
(あれ? あたしいつの間にか寝ちゃったです?)
どうやらカウンターに突っ伏して居眠りしといたようだ。
大きな柱時計は午後4時丁度になったことをお知らせしていた。受付開始時間だ。そろそろお客さんがやって来る頃だろう。
(何だろう。何か大事なことを忘れているような……)
あたしはその何かを思い出そうと柱時計をじっと見つめる。
だが、柱時計はその振り子の魅力でミニゴーレムの首を右に左に傾けさせるだけで、私には何の答えも与えようとはしない。
(忘れてるってことは大したことじゃ無いのかもしれないな)
あたしはそう思って自分を納得させると、今から始まる退屈な受付業務を想像し、憂鬱な気分に浸るのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
もしかしたらお気づきの方もいるかも知れませんが、29話の冒頭はドグラ・マグラのオマージュとなります。もちろん、文体を真似ただけですが。真似れてはいませんが。雰囲気です。雰囲気。
たまたまですが、猿彦の過去編へ話が飛んでいるのもドグラ・マグラに似た構成となりました。構成だけですが。
ドグラ・マグラを読み返すと、久作先生が如何に偉大な作家だったかがよくわかります。あんなの真似れねえよ。
ドグラ・マグラに興味のあるかたは、青空文庫でも公開されておりますのでぜひご一読下さい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる