73 / 99
第5章 鈴音の過去
72 二百年前の追憶 終(鈴音視点)
しおりを挟む
鈴音は男が肩で息をしながら、死にゆく男の姿を見届けた。男が死んだことが判ると、命が助かった事の安堵感でほっと息をはいた。
「包帯の男。まずは礼を言っておくぞ――が、わからんな。なぜワシを助けた?」
「礼を言うのはこっちだぜ。鈴音っちだろ? 前国王陛下が契約を結んでいた隠し干支様だ。国から話は聞いてるぜい。俺っちは正義っていうんだ」
「正義とやら、お主がなぜワシに礼を言うのじゃ?」
「鈴音っちのお陰で隊長を倒せたからさ。…………この男は東国の元隊長でね。卯の干支と契約している能力者なんだけど、その能力が厄介なんだ。一日に一度だけ、殺されてもリスタート出来るんだ」
「リスタート?」
「殺されても、時間を遡ってやり直すことができる」
「時間を遡る? そんなことが可能なのか」
「出来るんだなあこれが。反則な能力だと思うけど。隊長はその能力を使って過去の戦争で死線を何度も乗り越えてきた。俺っちは間近でそれを見てきたから間違いないぜ」
そうか、それで正義はこの男を隊長と呼んでいたのか。
「じゃが、それとお主がワシに礼を言うのは何の関係があるんじゃ?」
「俺っちはこの男の殺害命令を国から受けていたんだ。たいの側近だったから、弱点もよくわかるだろうと考えたんだろうなあ。だけど、この男には時間を遡る厄介な能力がある。この男は二度殺さなくては倒すことが出来ないんだ。だけど俺っちが二度殺すことは出来ない。リスタートされて返り討ちにあうからねー。だから、内部に潜入してこの男が殺されるタイミングを待っていたのさ。そこに、鈴音っちが現れた。あんたは、さっきの戦いでこの男を一度殺しているんだ――錬成剣の不意打ちでね」
「そうか。先ほどの不意打ちで放った竹林が簡単に避けられてしまったことに驚いていたが、一度見られていたから簡単に避けられてしまったというわけか」
「そういうことー」
「じゃが、よくわかったな。やつが二回目だということに」
「…………判るさ。俺っちはずっと隊長の背中を見てきたんだ」
…………この隊長と呼ばれた男も、正義も、ワシが国を放り出した被害者だというわけか。
「…………すまなかったな。ワシがこの国を放り出していなければ、お主らの運命は変わっていたかもしれぬ」
「…………俺っちはあんたがこのが乱れたのはあんたのせいだとは思っちゃいない。前国王陛下は良くも悪くも英邁過ぎた。みんな頼りっきりになっちまったんだ。国王陛下が戦死したとき、みんな真っ白になっちまった。柱を失った家みたいなもんで、ガタガタと崩れちまったんだ。この国が乱れたのは、俺たちが子供で、自立できていなかったせいだ。――それに、鈴音っちは探してたんだろ? 次の国王の器を。皆そう噂してるぜ」
「ワシはただ面白そうな奴がおらんか探していただけだ。…………じゃが、もうその必要は無さそうじゃ。お主のような男が居ればこの国もまだ大丈夫じゃろ。そうじゃ、エマニエル」
「は、はい!」
エマニエルは直立不当の姿勢で敬礼をしている。
「いったい何じゃ? 急にかしこまって?」
「いや、だってあんた…………鈴音様は国のお偉いさんだったんですよね? ため口なんて聞けませんよ」
「はあ。別に昔の話じゃ。そう固くなるな。それで、エマニエル、ちょうどいい機会じゃ。この男の紹介で東国にかくまってもらえ」
「「は?」」
「よし、決まりじゃ。良かったの」
「いやいやいや、話が見えないから。包帯男だって急に言われたら迷惑でしょ」
「俺っちは別にいいぜー。エマっちはうちでも色んな意味で有名人だからな。鈴音っちの紹介だっていえばすんなり受け入れられるんじゃないかなあ」
「え? いいの? なんか軽いなあんたあんた」
ワシは正義という男の心を読んでいた。言葉に裏表が無く、真っ直ぐな男だ。つまり、言葉が軽いのと同様に――
「この男、内面もそうとう軽いぞ。エマニエルが補助してやれ。お主は意外と根が真面目じゃからな。いいコンビになるかもしれん」
「…………なんか酷い言われようだな。それで、鈴音っちはこれからどうするんだ?」
「…………そうじゃな」
ワシは盗賊達が根城にしていた洞窟を見る。洞窟の脇には縄で縛られてうなだれている盗賊たちがいる。洞窟の奥は大きく口が開かれていて、中はとても快適そうに見えた。
「ワシは暫くここに隠居することにする。外を歩いても面白い奴はおらんかったからな。時が来れば、向こうからやってくるだろう」
「…………あの、鈴音様。色々とありがとうございました。私、また魔法が使えるように頑張ります」
「敬語は良いというのに」
「鈴音様はいつまでここで隠居なさるんですか?」
「面白い奴が出てくるまで何年でも待つことにする」
「…………その面白い奴というのが現れなかったらどうします?」
ワシは空を見上げる。そこには雲ひとつなく、ただ風が吹いていた。この空は百年先も変わらないのだろう。
「きっと現れる。そんな気がするんじゃ」
「そうですか。じゃあ、あたいはその時お役に立てるように頑張ります!」
――こうしてワシは森の奥へと引きこもり、その後二百年森の外に出ることはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――それで、二百年後、たまたま俺がその森に転生したというわけか」
「そうじゃ。主が想像以上に面白い奴だったのは嬉しい誤算じゃな。お陰で退屈せんわい」
「あの正義さんと二百年前から知りあいだったとはねえ。あれ? 正義さんって二百歳越えてるっておかしくない? エマニエルは長寿の燕の国出身だからわかるけどさ」
燕の民は寿命が長い。
老化の要因は精神的な摩耗で、肉体的には衰えることは無い。
どんなに年寄りでも見た目の年齢は東の民……つまり普通の人間で言うところの20代でストップする。
中には500歳を超える人もいるそうだ。
「それは国王が直々に説明してくれるじゃろ」
「国王が?! どゆこと?!」
「他にも昔話はいろいろあるぞ。小夏が次の人間と契約をかわす話とか、後はエマニエルが魔法を使えるようになる話とか。――あのときは正義が炭になりかけてだな」
「――鈴音様、巧魔くん! 話は終わりです! 首都が見えてきましたよ!」
「おお、遂に首都が。どれどれ…………」
俺は首都を確認するため馬車から身を乗りだし――度肝を抜かれた。
「包帯の男。まずは礼を言っておくぞ――が、わからんな。なぜワシを助けた?」
「礼を言うのはこっちだぜ。鈴音っちだろ? 前国王陛下が契約を結んでいた隠し干支様だ。国から話は聞いてるぜい。俺っちは正義っていうんだ」
「正義とやら、お主がなぜワシに礼を言うのじゃ?」
「鈴音っちのお陰で隊長を倒せたからさ。…………この男は東国の元隊長でね。卯の干支と契約している能力者なんだけど、その能力が厄介なんだ。一日に一度だけ、殺されてもリスタート出来るんだ」
「リスタート?」
「殺されても、時間を遡ってやり直すことができる」
「時間を遡る? そんなことが可能なのか」
「出来るんだなあこれが。反則な能力だと思うけど。隊長はその能力を使って過去の戦争で死線を何度も乗り越えてきた。俺っちは間近でそれを見てきたから間違いないぜ」
そうか、それで正義はこの男を隊長と呼んでいたのか。
「じゃが、それとお主がワシに礼を言うのは何の関係があるんじゃ?」
「俺っちはこの男の殺害命令を国から受けていたんだ。たいの側近だったから、弱点もよくわかるだろうと考えたんだろうなあ。だけど、この男には時間を遡る厄介な能力がある。この男は二度殺さなくては倒すことが出来ないんだ。だけど俺っちが二度殺すことは出来ない。リスタートされて返り討ちにあうからねー。だから、内部に潜入してこの男が殺されるタイミングを待っていたのさ。そこに、鈴音っちが現れた。あんたは、さっきの戦いでこの男を一度殺しているんだ――錬成剣の不意打ちでね」
「そうか。先ほどの不意打ちで放った竹林が簡単に避けられてしまったことに驚いていたが、一度見られていたから簡単に避けられてしまったというわけか」
「そういうことー」
「じゃが、よくわかったな。やつが二回目だということに」
「…………判るさ。俺っちはずっと隊長の背中を見てきたんだ」
…………この隊長と呼ばれた男も、正義も、ワシが国を放り出した被害者だというわけか。
「…………すまなかったな。ワシがこの国を放り出していなければ、お主らの運命は変わっていたかもしれぬ」
「…………俺っちはあんたがこのが乱れたのはあんたのせいだとは思っちゃいない。前国王陛下は良くも悪くも英邁過ぎた。みんな頼りっきりになっちまったんだ。国王陛下が戦死したとき、みんな真っ白になっちまった。柱を失った家みたいなもんで、ガタガタと崩れちまったんだ。この国が乱れたのは、俺たちが子供で、自立できていなかったせいだ。――それに、鈴音っちは探してたんだろ? 次の国王の器を。皆そう噂してるぜ」
「ワシはただ面白そうな奴がおらんか探していただけだ。…………じゃが、もうその必要は無さそうじゃ。お主のような男が居ればこの国もまだ大丈夫じゃろ。そうじゃ、エマニエル」
「は、はい!」
エマニエルは直立不当の姿勢で敬礼をしている。
「いったい何じゃ? 急にかしこまって?」
「いや、だってあんた…………鈴音様は国のお偉いさんだったんですよね? ため口なんて聞けませんよ」
「はあ。別に昔の話じゃ。そう固くなるな。それで、エマニエル、ちょうどいい機会じゃ。この男の紹介で東国にかくまってもらえ」
「「は?」」
「よし、決まりじゃ。良かったの」
「いやいやいや、話が見えないから。包帯男だって急に言われたら迷惑でしょ」
「俺っちは別にいいぜー。エマっちはうちでも色んな意味で有名人だからな。鈴音っちの紹介だっていえばすんなり受け入れられるんじゃないかなあ」
「え? いいの? なんか軽いなあんたあんた」
ワシは正義という男の心を読んでいた。言葉に裏表が無く、真っ直ぐな男だ。つまり、言葉が軽いのと同様に――
「この男、内面もそうとう軽いぞ。エマニエルが補助してやれ。お主は意外と根が真面目じゃからな。いいコンビになるかもしれん」
「…………なんか酷い言われようだな。それで、鈴音っちはこれからどうするんだ?」
「…………そうじゃな」
ワシは盗賊達が根城にしていた洞窟を見る。洞窟の脇には縄で縛られてうなだれている盗賊たちがいる。洞窟の奥は大きく口が開かれていて、中はとても快適そうに見えた。
「ワシは暫くここに隠居することにする。外を歩いても面白い奴はおらんかったからな。時が来れば、向こうからやってくるだろう」
「…………あの、鈴音様。色々とありがとうございました。私、また魔法が使えるように頑張ります」
「敬語は良いというのに」
「鈴音様はいつまでここで隠居なさるんですか?」
「面白い奴が出てくるまで何年でも待つことにする」
「…………その面白い奴というのが現れなかったらどうします?」
ワシは空を見上げる。そこには雲ひとつなく、ただ風が吹いていた。この空は百年先も変わらないのだろう。
「きっと現れる。そんな気がするんじゃ」
「そうですか。じゃあ、あたいはその時お役に立てるように頑張ります!」
――こうしてワシは森の奥へと引きこもり、その後二百年森の外に出ることはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――それで、二百年後、たまたま俺がその森に転生したというわけか」
「そうじゃ。主が想像以上に面白い奴だったのは嬉しい誤算じゃな。お陰で退屈せんわい」
「あの正義さんと二百年前から知りあいだったとはねえ。あれ? 正義さんって二百歳越えてるっておかしくない? エマニエルは長寿の燕の国出身だからわかるけどさ」
燕の民は寿命が長い。
老化の要因は精神的な摩耗で、肉体的には衰えることは無い。
どんなに年寄りでも見た目の年齢は東の民……つまり普通の人間で言うところの20代でストップする。
中には500歳を超える人もいるそうだ。
「それは国王が直々に説明してくれるじゃろ」
「国王が?! どゆこと?!」
「他にも昔話はいろいろあるぞ。小夏が次の人間と契約をかわす話とか、後はエマニエルが魔法を使えるようになる話とか。――あのときは正義が炭になりかけてだな」
「――鈴音様、巧魔くん! 話は終わりです! 首都が見えてきましたよ!」
「おお、遂に首都が。どれどれ…………」
俺は首都を確認するため馬車から身を乗りだし――度肝を抜かれた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)
長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。
彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。
他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。
超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。
そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。
◆
「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」
「あらすじってそういうもんだろ?」
「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」
「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」
「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」
「ストレートすぎだろ、それ……」
「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」
◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる