転生プログラマのゴーレム王朝建国日誌~自重せずにゴーレムを量産していたら大変なことになりました~

堀籠 遼ノ助

文字の大きさ
5 / 99
第1章 初めから死亡フラグ

5 死(2017/12/05改稿)

しおりを挟む
 この世界にも月はあるんだな、と拓海は頭の片隅で思った。

 静かに佇む月は、元いた世界とそう変わらない。世界を暗闇に落とさないだけの必要最低限の光を、分け隔てなく降り注いでいる。
 その儚い恩恵の対象は、ここに対峙する異形の2体に対しても変わることはない。

 1体は異形の狼。その巨躯に似合わぬ速さと、2人の人間を軽々しく吹き飛ばす強大な力をもつ最強の怪物だ。
 白い巨躯を屈め、対峙する相手を威嚇するように唸っている。

 もう1体は、ある意味この世界ではグレーターウルフ以上の異形であろう。

 4メートルを越える体躯に、当世具足と呼ばれる和式の全身鎧を見に纏い、面具めんぐの奥に光る双眸がグレーターウルフをじっと見据える。

 そして最も異様なのは、上段に構える刃渡り2メートルの巨大な刀。
 波打つ刃紋が月夜の光を受けて妖しく光っている。

(巨大なサムライを作りたい)

 俺はコンパイラさんにそう告げた。

 素早く強大なグレーターウルフに勝つには、リーチと、先手を打つ強力な一撃が必要だ。そこで思いついたのが、日本が世界に誇る近接最強武器『刀』を持つ侍だ。

 さて、と俺はじっと対峙しているグレーターウルフから意識を離さないように注意しながら、持っているを握り直す。

 今の俺は、ひょろながゴーレムくん(仮名)から視界をサムライゴーレムに移している。それに加え、身体感覚もサムライゴーレムに移した。

 赤子の体にいるときは、まるで泥の中でもがいているかのような感覚でいたが、サムライゴーレムへ身を移した瞬間、羽でも生えたかのように身が軽くなっていた。
 持っている刀の重さもほとんど感じない。まるで木の棒でも持っているかのようだ。

 だが。

『グロゥゥウゥゥ』

 グレーターウルフの唸り声を全身で浴びる。あまりの迫力に、命が削り取られていくかのような錯覚すら覚える。

(倒せるのか俺は……? この化け物を)

 パワーもスピードも桁違いのサムライゴーレムだ。サムライゴーレムに身を移したら、グレータウルフを瞬殺出来ると思っていた。
 だが、サムライゴーレムに身を移した今、事はそう簡単では無いと悟った。
 隙あらば攻撃を仕掛けようと刀を構えているのだが、その隙が……一向に訪れない。

 お互いに間合いを保ったまま、ジリジリと時間が過ぎて行く。

(まずい。このままでは……)

 俺は内心焦っていた。気力の消耗が激しく、段々と集中力が削がれていく俺に対し、グレータウルフの三つ目は時間を経るに従って爛々らんらんと輝いていくのだ。

 これが獣と人間との違いだろう。牙を失い、爪を捨てた人間と、弱肉強食の世界で生きる獣との差は大きい。
 
 わずかに半歩、グレータウルフが身を進める。

 ――まずい、仕掛けてくるか?

 やられまいと集中しようとしたその時、
 
「うう……痛たた……」

 グレータウルフに弾き飛ばされていたカオルが小さな声を上げた。

 俺はそちらを見たわけではない。だが、意識に瞬間的な空白が生まれた。

(しまった!)

 思わず俺は刀を振り下ろす。

 飛びかかるグレータウルフ。

 が、俺が僅かに速い。
 
 少しでも隙を見せれば、飛びかかってくることは分かっていた。
 『予測』とは、爪を捨てた人間が手に入れた魔法だ。獣と人間どちらが強いかという問いは永遠のテーマではあるが、今回は人間に軍配があがったようだ。

 刀がグレータウルフへ迫る。

 波打つ刀の波紋が幾本かの毛を宙に舞わせたとき、大きな衝撃音が起きた。
 
 (消えた?! ――いや、左かッ!)
 
 グレータウルフがいたはずの場所には大きく抉れた土。 

 拓海は自身の愚かさに歯噛みをした。
 グレータウルフが正面から襲いかかろうとしていたのは、すべてこの時のためのブラフだったのだ。
 
 俺が刀を振り下ろすその時を[予測]し方向転換。両手持ちの刀では、おのずと攻撃範囲が絞られてくる。
 今グレータウルフがいる場所は紙一重で刀が届かない。
 牙と爪に加え、知恵をも兼ね備えた異形の獣は、そのすべてを駆使くししてサムライゴーレムの刀を掻い潜ったのだ。
 
(俺の予測を、さらに予測・・したか。……負けたよ)
 
 既に勝負は決した。後はなるようにしかならない。

 グレータウルフのあぎとが大きく開かれ、サムライゴーレムの首に迫る。

 牙が杭のように撃ち込まれ、鎧に大きくひびが入る。

(……予想合戦には負けた)

 そのとき、サムライゴーレムの蒼い瞳が強い光を放った。

(だが――勝負は)

 両手持ちであるはずの刀から、右手が離れる。
 その瞬間、刀が無限の剣筋を帯びた。

(俺の勝ちだ!)

 片手一本となった左手に全魔力を投じる。
 俺の命が濁流の如く腕力へと変換されていき、かつての魔剣がここに再現された。
 かの宮本武蔵が得意とした二刀流兵法。
 
 二天一流 片手車。またの名を『乱車輪』。

 制御を失い縦横無尽に乱れ飛ぶ車輪の前には、どんな予測も役に立たない。
 
≪警告:魔力が枯渇し生命力が消費されています。直ちに魔力の使用を中止して下さい≫

 コンパイラさんが何か言っているような気がしたが、悠長に耳を傾けている余裕はない。

 俺は限界を超えた魔力をさらに流し込む。

 グレーターウルフの瞳に驚愕の色が浮かぶ。
 刀が恐ろしい速度で跳ねあがったことに気付きたのだ。

 だが、もう遅い。

(――お前の敗因は、頭が良過ぎた事だ)

 乱れる車輪が、グレータウルフの懐を大きくいだ。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...