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第6章 呉との闘い
81 反省会場はこちらです
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「ハッハッハ! それどうした! もうばてたか巧魔よ!」
俺は剣鬼じいさんの木刀を必死に受け止める。
もちろん、既にサポート・ゴーレムは発動済みだ。このじいさん、じいさんの癖にじいさんではない。次から次に打ち込まれる剣筋は一つも無駄がなく、重い。サポート・ゴーレムを発動していなければ一撃で剣を弾き飛ばされているだろう。
「まだまだ!」
俺は渾身の突きを繰り出す。サポートゴーレムの力を借りたその突きは、並みの剣士であれば絶対に躱せない自信がある。
――が、剣鬼は剣の腹で簡単に払いのけてしまう。
「甘い!」
俺の剣はいとも簡単に巻き上げられ、遠くの床へカランと音を立てて転がってしまった。サポートゴーレムの握力であれば剣を放すことはまず無いのだが、先ほどの突きでマナを注ぎすぎたため、ゴーレムが破損してしまったのだ。
「剣術も魔道もまだまだ未熟だな。全員、今日の稽古はここまでだ。巧魔は土で散らかした床をきれいに履いておけ」
兄弟子たちが荷物を手にぞろぞろと道場から出ていく。
俺はちり取りとほうきで床を吐きながらため息を吐いた。
剣鬼じいさんにも勝てないし、千春さんにもあきれられ、鈴音ともギスギスしたまま。
……なんか最近全然だめだなあ。何をやってもうまくいかない気がしてきた。
「手伝いましょうかあ? 巧魔くん」
「あ、龍姫さん」
ふだんの龍姫さんはおっとりとしたお姉さんだ。
稽古の時とは別人である。
龍姫さんに手伝ってもらい、稽古場はあっという間にきれいになった。
「すみません、掃除を手伝ってもらっちゃって」
「いえいえ。お礼なら私ではなく剣鬼にしてください」
「剣鬼じいさんに?」
「剣鬼から、巧魔が何か悩んでいるようだから話を聞いてやってくれって」
「ははは、お見通しですね」
「剣鬼もかわいい孫なんだから自分で聞けばいいのにねえ。あの子は昔から恥ずかしがりやさんですう」
「昔から……ってことは、龍姫さんは剣鬼さんより年上?」
「そりゃあ、正義よりも古い時代から生きてますからね。この国よりもずっと年上ですよう」
「鈴音とも知合いですか?」
「もちろん。正義に頼まれて、あの子が引きこもってる時も何度か様子を見に行ったしねえ」
「そうでしたか……。その、相談なんですけど」
「なあに? あの事喧嘩でもしたのかしら?」
うぐっ、図星。この人えすぱー? それとも、そういう異能なのか?
「ふふふ。別に特別な力は使ってませんよ。長く生きてると色々と見えてくるものがあるんですう」
「そうですか。何でもお見通しなんですね。それで相談というのは……」
俺は鈴音が不機嫌になった経緯と、今朝の経緯を簡単に説明する。
「……というわけなんです。何で鈴音が怒ってるのか僕にはさっぱりで」「なるほどなあ。それは鈴音ちゃんも悪いけど、一番悪いのは巧魔君も悪いかなあ」
「やっぱり僕に原因が……。教えて下さい、僕のどこがいけなかったんでしょう?」
「そうだなあ。……巧魔君は、豚狩村は知ってるかな?」
豚狩村……豚助さんの出身地で、正義さんと初めて会った場所だ。
「ええ。知ってます。それと何の関係が?」
「まあ、聞いててね。豚狩村では、子持ちの豚は狩らない決まりがあるんです。何でだと思うかな?」
「えーっと……子豚が死んでしまうからでしょうか?」
「正解。見境なく狩をしていたら、生態系が崩れてしまうからねえ。でも、何度も狩をしていれば間違ってしまうこともある。つまり、子持ちの豚を狩ってしまうときがある。そんな時、子豚は村の子供たちが飼うのよ。この時、子供たちは子豚に名前を付けて可愛がるの。子豚は子供達とまるで兄弟のように仲良くなってゆく……」
「それって……いやな予感しかしないんですが」
前の人生で聞いたことがある。とある学校で、教育の一環として豚をクラスで育ててゆく話だ。子供たちが卒業を控えた前夜。豚は子供たちに命の尊さを教えるため、犠牲となる。……つまり。
「巧魔君の予想通り。豚は子供たちの手によって捌かれる。そこで子供たちは覚るのよ。豚は生きてゆくかてであり、決して名前なんて付けてはいけない生き物なんだって。どう、どんな気持ちになったかなあ巧魔君は?」
「どんなって……なんか、理不尽な気持ちです。名前を付けさせるなんてひどいじゃないですか」
「そうだね。まあ、豚狩村では一人前の狩人になるための修行だから仕方ないんだよ。それに、育った豚は処理しないと餌台だってばかにならない」
「……それでも、可愛がって育てたのに。理不尽ですよ」
「ふふふ。そうですねえ。でも、巧魔君。不老不死者にとってはそれが日常なんですよう」
「え? 日常……ですか?」
「どんなに親しい人でも。どんなに心を寄せる人でも。……どんなに死んでほしくないと願っても。時間というのはとっても理不尽でね、ぜーんぶ奪って行っちゃうんですよ」
「……全部奪ってく」
そうか。今、ようやく分かった。
俺が考えもせず不老不死を断った時。
俺が不老不死について深く考えもせずうらやむような事を言った時。
鈴音は、傷ついていたんだ。
「鈴音は……ずっと別れを繰り返してきた。そうなんですね?」
「あの子は優しすぎるから、傷つきやすくてねえ。あの子が引きこもってた理由を聞いた? もう人と死に別れるのが嫌だから、あの森に引きこもってたのよ。でも、駄目だった。……きみが現れたから。きみはそっくりなのよ。初代国王に。鈴音の、初めての友達にね」
「僕が……? でも、鈴音はそんなことは一言も。ただ、僕の魂が面白いとか言ってるだけでしたけど」
「恥ずかしがり屋さんだからねえ」
……そういえば転生する前に宇宙人も言ってたな。
『この転生者を送ればあの子は絶対食いつく』とかなんとか。
「ありがとうございます、龍姫さん。これで鈴音と仲直りする糸口が見えました」
「大丈夫? 仲直りできそう?」
「……出来るかどうかは分かりませんが。でもちゃんと謝ろうと思います。それで鈴音がどう思うかは分かりませんが。……僕の思いはしっかり伝えるつもりです」
「うん。いい面構えだ。今なら私と再戦しても少しは頑張れるかもねえ」
――再戦は丁重にお断りした。
俺は剣鬼じいさんの木刀を必死に受け止める。
もちろん、既にサポート・ゴーレムは発動済みだ。このじいさん、じいさんの癖にじいさんではない。次から次に打ち込まれる剣筋は一つも無駄がなく、重い。サポート・ゴーレムを発動していなければ一撃で剣を弾き飛ばされているだろう。
「まだまだ!」
俺は渾身の突きを繰り出す。サポートゴーレムの力を借りたその突きは、並みの剣士であれば絶対に躱せない自信がある。
――が、剣鬼は剣の腹で簡単に払いのけてしまう。
「甘い!」
俺の剣はいとも簡単に巻き上げられ、遠くの床へカランと音を立てて転がってしまった。サポートゴーレムの握力であれば剣を放すことはまず無いのだが、先ほどの突きでマナを注ぎすぎたため、ゴーレムが破損してしまったのだ。
「剣術も魔道もまだまだ未熟だな。全員、今日の稽古はここまでだ。巧魔は土で散らかした床をきれいに履いておけ」
兄弟子たちが荷物を手にぞろぞろと道場から出ていく。
俺はちり取りとほうきで床を吐きながらため息を吐いた。
剣鬼じいさんにも勝てないし、千春さんにもあきれられ、鈴音ともギスギスしたまま。
……なんか最近全然だめだなあ。何をやってもうまくいかない気がしてきた。
「手伝いましょうかあ? 巧魔くん」
「あ、龍姫さん」
ふだんの龍姫さんはおっとりとしたお姉さんだ。
稽古の時とは別人である。
龍姫さんに手伝ってもらい、稽古場はあっという間にきれいになった。
「すみません、掃除を手伝ってもらっちゃって」
「いえいえ。お礼なら私ではなく剣鬼にしてください」
「剣鬼じいさんに?」
「剣鬼から、巧魔が何か悩んでいるようだから話を聞いてやってくれって」
「ははは、お見通しですね」
「剣鬼もかわいい孫なんだから自分で聞けばいいのにねえ。あの子は昔から恥ずかしがりやさんですう」
「昔から……ってことは、龍姫さんは剣鬼さんより年上?」
「そりゃあ、正義よりも古い時代から生きてますからね。この国よりもずっと年上ですよう」
「鈴音とも知合いですか?」
「もちろん。正義に頼まれて、あの子が引きこもってる時も何度か様子を見に行ったしねえ」
「そうでしたか……。その、相談なんですけど」
「なあに? あの事喧嘩でもしたのかしら?」
うぐっ、図星。この人えすぱー? それとも、そういう異能なのか?
「ふふふ。別に特別な力は使ってませんよ。長く生きてると色々と見えてくるものがあるんですう」
「そうですか。何でもお見通しなんですね。それで相談というのは……」
俺は鈴音が不機嫌になった経緯と、今朝の経緯を簡単に説明する。
「……というわけなんです。何で鈴音が怒ってるのか僕にはさっぱりで」「なるほどなあ。それは鈴音ちゃんも悪いけど、一番悪いのは巧魔君も悪いかなあ」
「やっぱり僕に原因が……。教えて下さい、僕のどこがいけなかったんでしょう?」
「そうだなあ。……巧魔君は、豚狩村は知ってるかな?」
豚狩村……豚助さんの出身地で、正義さんと初めて会った場所だ。
「ええ。知ってます。それと何の関係が?」
「まあ、聞いててね。豚狩村では、子持ちの豚は狩らない決まりがあるんです。何でだと思うかな?」
「えーっと……子豚が死んでしまうからでしょうか?」
「正解。見境なく狩をしていたら、生態系が崩れてしまうからねえ。でも、何度も狩をしていれば間違ってしまうこともある。つまり、子持ちの豚を狩ってしまうときがある。そんな時、子豚は村の子供たちが飼うのよ。この時、子供たちは子豚に名前を付けて可愛がるの。子豚は子供達とまるで兄弟のように仲良くなってゆく……」
「それって……いやな予感しかしないんですが」
前の人生で聞いたことがある。とある学校で、教育の一環として豚をクラスで育ててゆく話だ。子供たちが卒業を控えた前夜。豚は子供たちに命の尊さを教えるため、犠牲となる。……つまり。
「巧魔君の予想通り。豚は子供たちの手によって捌かれる。そこで子供たちは覚るのよ。豚は生きてゆくかてであり、決して名前なんて付けてはいけない生き物なんだって。どう、どんな気持ちになったかなあ巧魔君は?」
「どんなって……なんか、理不尽な気持ちです。名前を付けさせるなんてひどいじゃないですか」
「そうだね。まあ、豚狩村では一人前の狩人になるための修行だから仕方ないんだよ。それに、育った豚は処理しないと餌台だってばかにならない」
「……それでも、可愛がって育てたのに。理不尽ですよ」
「ふふふ。そうですねえ。でも、巧魔君。不老不死者にとってはそれが日常なんですよう」
「え? 日常……ですか?」
「どんなに親しい人でも。どんなに心を寄せる人でも。……どんなに死んでほしくないと願っても。時間というのはとっても理不尽でね、ぜーんぶ奪って行っちゃうんですよ」
「……全部奪ってく」
そうか。今、ようやく分かった。
俺が考えもせず不老不死を断った時。
俺が不老不死について深く考えもせずうらやむような事を言った時。
鈴音は、傷ついていたんだ。
「鈴音は……ずっと別れを繰り返してきた。そうなんですね?」
「あの子は優しすぎるから、傷つきやすくてねえ。あの子が引きこもってた理由を聞いた? もう人と死に別れるのが嫌だから、あの森に引きこもってたのよ。でも、駄目だった。……きみが現れたから。きみはそっくりなのよ。初代国王に。鈴音の、初めての友達にね」
「僕が……? でも、鈴音はそんなことは一言も。ただ、僕の魂が面白いとか言ってるだけでしたけど」
「恥ずかしがり屋さんだからねえ」
……そういえば転生する前に宇宙人も言ってたな。
『この転生者を送ればあの子は絶対食いつく』とかなんとか。
「ありがとうございます、龍姫さん。これで鈴音と仲直りする糸口が見えました」
「大丈夫? 仲直りできそう?」
「……出来るかどうかは分かりませんが。でもちゃんと謝ろうと思います。それで鈴音がどう思うかは分かりませんが。……僕の思いはしっかり伝えるつもりです」
「うん。いい面構えだ。今なら私と再戦しても少しは頑張れるかもねえ」
――再戦は丁重にお断りした。
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