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「初めてあなたとケインとエミリアをここに連れてきたとき、もちろん伯母様は三人ともかわいがってくれたけれど、一番のお気に入りはあなただったのよ、エレーン。あなたはこのカウンターよりもちっちゃかったわね。伯母様はあなたにだけ全部の品物をひとつひとつ紹介してまわったの。あのオルガンは隣街の女の子がお嫁に行くときに寄付してくれたもの、あのキルトは今から百年くらい前、教会の屋根裏から見つかったのを買い取ったもの、っていうふうに」
エレーンは母の指差す方向に目を向ける。オルガン、キルト、木馬、本棚、花瓶。ひとつひとつが物語を持っている。愛され続けた物もいれば、棄てられた物もいる。持ち主と引き裂かれた物もいる。
すべてのものたちがここで傷を癒して、新しい持ち主を待っているのよーーー。
一瞬、頭の片隅に柔らかいアルトの声と、彼女の頭に置かれた皺だらけの優しい手が蘇った気がした。
エレーンは記憶を追いかけるように部屋の中を歩いた。オルガンや本棚や、ソファや木馬に触れた。ショーウィンドウに向き直り、閉じられたままのカーテンを一気にざっと開けた。
『さぁ、今日も一日が始まるわ。ケイン、エミリア、それにエレーン、手伝ってちょうだい』
微かに目に浮かぶ光景、自分は年を取った女性を見上げた気がする。グレイのドレス、グレイの髪、グレイの縁の丸い眼鏡をかけていた。薄暗い路地裏に位置するこの店にも柔らかい光がいっぱいに差し込んでいた。
何か引っ掛かる。頭を抱えてふと視線を落とすと、花瓶と花瓶の間に何かがあるのが見えた。エレーンはそれに手を伸ばす。
持ち上げてみると、それは籐で編まれた籠だった。その中に4体のヌイグルミが入っている。
「テディベア!」
エレーンは叫んだ。青に白に茶色にオレンジ、大きさも素材もばらばら、それなのにとても気持ちよくひとつの籠に収まったアンティーク・ベアたちがそこにはいた。
すると突然、ベアたちの色彩が入り混じり、鮮やかな記憶がどっと彼女の頭の中に溢れてきた。
「思い出した……」
映像がつながる。自分は3つだったか、4つだったか。あのとき、エレーンは大伯母に尋ねたのだった。「どうして『アンティーク・ベアのいる店』っていうの?」と。すると大伯母はこの4体のテディベアを見せて、こう言ったのだ。「この子たちの住家だからよ」。
エレーンがこの店を離れるとき、大伯母との別れもつらかったが、何よりこのアンティーク・ベアたちと離れるのが嫌だった。泣き叫んで母親を困らせもした。すると大伯母がいつものようにその手をエレーンの頭にのせて言った。
「心配しなくてもいいわ、エレーン。あなたはまたこの子たちに会える。この子たちもあなたが気に入ったみたいだから。いつか、あなたが大きくなったら、このお店はあなたに譲ることにするわ。そのときまたいらっしゃい」
幼い日の他愛ない、大伯母の微笑みとエレーンの涙とで交わされた口約束。エレーンはやがて成長し、日々の新しい出来事や世界を刻むのに一生懸命で、すっかり記憶を埋没させてしまっていたけれど、大伯母はあのときの約束をずっと覚えていて守ってくれたのだ。
「大伯母様……」
籠の中のベアたちは皆うっすらと埃をかぶっていた。大伯母が倒れてからこの店は閉店のままになっていたのだから無理もない。エレーンはひとつずつ埃を払ってあげる。青いテディベアが笑ったような気がした。
綺麗になったところでエレーンは母親に向き直り、明るく決意を告げた。
「ママ、私やってみる。大伯母様のこのお店、私が継ぐわ!」
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他作品「ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情」もよろしくお願いします
エレーンは母の指差す方向に目を向ける。オルガン、キルト、木馬、本棚、花瓶。ひとつひとつが物語を持っている。愛され続けた物もいれば、棄てられた物もいる。持ち主と引き裂かれた物もいる。
すべてのものたちがここで傷を癒して、新しい持ち主を待っているのよーーー。
一瞬、頭の片隅に柔らかいアルトの声と、彼女の頭に置かれた皺だらけの優しい手が蘇った気がした。
エレーンは記憶を追いかけるように部屋の中を歩いた。オルガンや本棚や、ソファや木馬に触れた。ショーウィンドウに向き直り、閉じられたままのカーテンを一気にざっと開けた。
『さぁ、今日も一日が始まるわ。ケイン、エミリア、それにエレーン、手伝ってちょうだい』
微かに目に浮かぶ光景、自分は年を取った女性を見上げた気がする。グレイのドレス、グレイの髪、グレイの縁の丸い眼鏡をかけていた。薄暗い路地裏に位置するこの店にも柔らかい光がいっぱいに差し込んでいた。
何か引っ掛かる。頭を抱えてふと視線を落とすと、花瓶と花瓶の間に何かがあるのが見えた。エレーンはそれに手を伸ばす。
持ち上げてみると、それは籐で編まれた籠だった。その中に4体のヌイグルミが入っている。
「テディベア!」
エレーンは叫んだ。青に白に茶色にオレンジ、大きさも素材もばらばら、それなのにとても気持ちよくひとつの籠に収まったアンティーク・ベアたちがそこにはいた。
すると突然、ベアたちの色彩が入り混じり、鮮やかな記憶がどっと彼女の頭の中に溢れてきた。
「思い出した……」
映像がつながる。自分は3つだったか、4つだったか。あのとき、エレーンは大伯母に尋ねたのだった。「どうして『アンティーク・ベアのいる店』っていうの?」と。すると大伯母はこの4体のテディベアを見せて、こう言ったのだ。「この子たちの住家だからよ」。
エレーンがこの店を離れるとき、大伯母との別れもつらかったが、何よりこのアンティーク・ベアたちと離れるのが嫌だった。泣き叫んで母親を困らせもした。すると大伯母がいつものようにその手をエレーンの頭にのせて言った。
「心配しなくてもいいわ、エレーン。あなたはまたこの子たちに会える。この子たちもあなたが気に入ったみたいだから。いつか、あなたが大きくなったら、このお店はあなたに譲ることにするわ。そのときまたいらっしゃい」
幼い日の他愛ない、大伯母の微笑みとエレーンの涙とで交わされた口約束。エレーンはやがて成長し、日々の新しい出来事や世界を刻むのに一生懸命で、すっかり記憶を埋没させてしまっていたけれど、大伯母はあのときの約束をずっと覚えていて守ってくれたのだ。
「大伯母様……」
籠の中のベアたちは皆うっすらと埃をかぶっていた。大伯母が倒れてからこの店は閉店のままになっていたのだから無理もない。エレーンはひとつずつ埃を払ってあげる。青いテディベアが笑ったような気がした。
綺麗になったところでエレーンは母親に向き直り、明るく決意を告げた。
「ママ、私やってみる。大伯母様のこのお店、私が継ぐわ!」
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他作品「ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情」もよろしくお願いします
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