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 普段は積極的に言葉を発しないオレンジが、「あのぉ」と手をあげた理由。

「初めてあのオルゴールがここへ来たとき、あのオルゴール“置いていかないで”って言ってたんです……」

  全員の視線がオレンジに集まった。

「ボク、あのオルゴールはジュリアさんと離れるのが嫌なんだなって思ったんですけど、3日たったらジュリアさんが迎えに来ると思ってたから……」

  それほど問題にしてなかったのだとオレンジは言った。

「そいで、オレンジ。さっきのスカした男に貰われていくとき、オルゴールはなんて言ってたんや?」
「それが……」
「なんや?」
「何も、何も言わなかったんです……」

  申し訳なさそうにオレンジが呟く。

「何もって、ほんまか?  ひとっ言もか?」
「うん……」
「それってどういうことだろ」
 
 ベアたちそれぞれが顔を見合わせる。エレーンはなんのことかさっぱりわからない。

「オレンジの特技が『物の声が聞ける』ことじゃというのは、前に説明したじゃろ」
「え、うん」

  呆然としているエレーンにだんごろう博士が講釈をしてくれた。

「物にも心があっての、誰かから誰かの手へ譲られるときなどは特にその声が大きくなるんじゃ。オレンジはその声を聞き分けて、品物が行きたいと思う人のところへ行けるよう、ずっと店主の手助けをしてきたんじゃよ」
「へぇ」
「品物の心の叫びを聞くことは骨董屋の大切な仕事のひとつじゃ。品物に愛されなくては骨董屋は勤まらんからのぉ」

  エレーンはオレンジをじっと見つめた。彼は恥ずかしそうに俯く。物の声を聞くなんて役に立たない特技だとばかり思っていたが、そんなに大切なことだったなんて。ここに来たばかりの頃、オレンジに対して失礼なことを口ばしってしまったなと反省する。

「でも、なんでなんも言わんかったんや?」
「こんな店主に何を言っても無駄だって思ったからじゃないの」
「あるいは声も出せないくらい嫌じゃったとか」
「ボクもこんなことは初めてで、よくわかりません」
「いずれにせよエレーンのせいやな」
「だね」
「じゃな」
「……」

  4匹の視線が身体に痛い。なんでたかがテディベアにここまで言われなきゃならないのかと、エレーンは腹が立ってきた。

「う・る・さ・い!  とにかく、あのオルゴールはもう売っちゃったの、返ってこないの。はい、この件おしまーい」

  ベアたちを蹴散らすようにエレーンはひとりカウンターの奥に戻った。






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