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条件反射のようにエレーンは飛び起き、いつもの軽やかな笑顔を浮かべる。
「いらっしゃいませ!」
「やぁ、お邪魔かな」
「あ、クレイさん!」
オルゴールを店で預かっていたとき以来の彼の来訪に、エレーンは目をぱちくりさせた。
「聞いてくださいよ、クレイさん。この前お見せしたあのオルゴール、すごい顛末を迎えたんですよ!」
「そうなのか? ちょっとお貴族様からの急用で王都を外していたんだが、その間に進展があったみたいだな」
エレーンはいつもの通りお茶を準備して、ことの顛末を捲し立てた。クレイは優雅にお茶をすすりながら、時折藍色の瞳を糸のように細めて話をきいてくれた。
「そうか、私も噂にはいろいろ聞いていたんだが……落ち着くところに落ち着いてよかったな」
しみじみとそう呟くクレイの表情は、まるで憑物が落ちたような晴れやかな色をしていた。
「私ったら、自分ばかりが話してしまってごめんなさい。クレイさんもお仕事に行かれてたんですよね?」
「あぁ。だけど、なんてことないさ。ちょっとした人探しだ。それよりこの紅茶、いつもに増してうまいな」
「でしょう!? マシュー殿下とジュリアさんの婚約式のお土産にもらったんです! 王室御用達の紅茶なんですって。さすがクレイさん! 味の違いがわかる男!」
「あぁ、そうなのか。なんというか……なつかしい感じがしてね」
そうしてふっと笑みを浮かべた彼の横顔を見て、エレーンは一瞬どきりとした。
(やだ、私ったら。クレイさんがちょっと素敵って思ってしまった……)
オルゴール騒動もあってバタバタしていたが、ここ数日、以前の常連さんたちが顔を出してはマチルダ大伯母や品物についての思い出話をしてくれる機会が増えていた。彼らには大伯母がいつもそうしていたようにお茶を出す。みんなとてもいい人たちだ。
でも、そんな茶飲み友達の中でも、クレイが飛び抜けて品よく紅茶を飲んでいた。節だった長い指が、優雅なカップの取っ手に絡まる様は、不思議と見惚れてしまうのだ。
(確かに若い頃はイケメンだったんだろうなって思えるイケオジだけど……でも、うちのパパと似た年齢だし。ないない。私の好みは同世代のイケメンだから!)
きっと紅茶を飲む姿に傾倒してしまっただけだろうと首を振る。
「それはそうと、エレーン、マシュー……殿下を間近で見たんだろう? どうだった?」
「ものすっっっっっごいイケメンでした!!!!」
脊椎反射のごとく口から言葉が飛び出す。クレイは乾いた笑いをあげながらお腹を抱えた。
「でもでも、マシュー殿下はジュリアさんのものですから。さすがに諦めますけど!」
「ふぅん。エレーンはどんな男が好みなんだい?」
「イケメンです! これ大事!! すごく大事!!!」
「……そうか」
ふっと陰ったクレイの表情に、エレーンは気づかず、そのままカウンターに突っ伏した。
「あーぁ。どこかにマシュー殿下のような素敵なイケメン落ちてないかなぁ」
そして悩みは堂々巡りする。そんなエレーンの頭を、クレイがぽんぽんと叩いた。
「イケメンが欲しけりゃ、自分もいい女にならなきゃな」
「……そうですよね。私、頑張ってこのお店を盛り上げて見せます!」
そうすれば自分の努力を認めてくれたイケメンに見初められる日がくるかもしれない。自分磨きに走らず、こうした発想に至るあたりが、エレーンのエレーンたる所以かもしれなかった。
ぐっと握り拳を作ってそう決意したとき、入り口のドアベルが軽やかな音をたてた。
「いらっしゃいませ! 『アンティーク・ベアのいる店』へようこそ!!」
笑顔で新しいお客を迎える。新たな品物が、過去と未来をつなぐために、今日もやってくるーーー。
「いらっしゃいませ!」
「やぁ、お邪魔かな」
「あ、クレイさん!」
オルゴールを店で預かっていたとき以来の彼の来訪に、エレーンは目をぱちくりさせた。
「聞いてくださいよ、クレイさん。この前お見せしたあのオルゴール、すごい顛末を迎えたんですよ!」
「そうなのか? ちょっとお貴族様からの急用で王都を外していたんだが、その間に進展があったみたいだな」
エレーンはいつもの通りお茶を準備して、ことの顛末を捲し立てた。クレイは優雅にお茶をすすりながら、時折藍色の瞳を糸のように細めて話をきいてくれた。
「そうか、私も噂にはいろいろ聞いていたんだが……落ち着くところに落ち着いてよかったな」
しみじみとそう呟くクレイの表情は、まるで憑物が落ちたような晴れやかな色をしていた。
「私ったら、自分ばかりが話してしまってごめんなさい。クレイさんもお仕事に行かれてたんですよね?」
「あぁ。だけど、なんてことないさ。ちょっとした人探しだ。それよりこの紅茶、いつもに増してうまいな」
「でしょう!? マシュー殿下とジュリアさんの婚約式のお土産にもらったんです! 王室御用達の紅茶なんですって。さすがクレイさん! 味の違いがわかる男!」
「あぁ、そうなのか。なんというか……なつかしい感じがしてね」
そうしてふっと笑みを浮かべた彼の横顔を見て、エレーンは一瞬どきりとした。
(やだ、私ったら。クレイさんがちょっと素敵って思ってしまった……)
オルゴール騒動もあってバタバタしていたが、ここ数日、以前の常連さんたちが顔を出してはマチルダ大伯母や品物についての思い出話をしてくれる機会が増えていた。彼らには大伯母がいつもそうしていたようにお茶を出す。みんなとてもいい人たちだ。
でも、そんな茶飲み友達の中でも、クレイが飛び抜けて品よく紅茶を飲んでいた。節だった長い指が、優雅なカップの取っ手に絡まる様は、不思議と見惚れてしまうのだ。
(確かに若い頃はイケメンだったんだろうなって思えるイケオジだけど……でも、うちのパパと似た年齢だし。ないない。私の好みは同世代のイケメンだから!)
きっと紅茶を飲む姿に傾倒してしまっただけだろうと首を振る。
「それはそうと、エレーン、マシュー……殿下を間近で見たんだろう? どうだった?」
「ものすっっっっっごいイケメンでした!!!!」
脊椎反射のごとく口から言葉が飛び出す。クレイは乾いた笑いをあげながらお腹を抱えた。
「でもでも、マシュー殿下はジュリアさんのものですから。さすがに諦めますけど!」
「ふぅん。エレーンはどんな男が好みなんだい?」
「イケメンです! これ大事!! すごく大事!!!」
「……そうか」
ふっと陰ったクレイの表情に、エレーンは気づかず、そのままカウンターに突っ伏した。
「あーぁ。どこかにマシュー殿下のような素敵なイケメン落ちてないかなぁ」
そして悩みは堂々巡りする。そんなエレーンの頭を、クレイがぽんぽんと叩いた。
「イケメンが欲しけりゃ、自分もいい女にならなきゃな」
「……そうですよね。私、頑張ってこのお店を盛り上げて見せます!」
そうすれば自分の努力を認めてくれたイケメンに見初められる日がくるかもしれない。自分磨きに走らず、こうした発想に至るあたりが、エレーンのエレーンたる所以かもしれなかった。
ぐっと握り拳を作ってそう決意したとき、入り口のドアベルが軽やかな音をたてた。
「いらっしゃいませ! 『アンティーク・ベアのいる店』へようこそ!!」
笑顔で新しいお客を迎える。新たな品物が、過去と未来をつなぐために、今日もやってくるーーー。
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