58 / 106
本編
58
しおりを挟む
「殿下がどうやって私を助けてくださったかはわかりました。でも、まだわからないことだらけです」
頬を両手で包みながら、私はこの膨大な量の情報を処理しようと努力していた。その中でもまだ解決できていないことがたくさんある。
メラニア様とカイエン様は結託して私を王宮から追い出したようだが、なぜそんなことをする必要があったのか。契約が終了すれば私は用無しだ。放っておけば出て行くしかないわけだし、わざわざ追い立てる必要もない。あぁもしかしたら、王家が用意したとかいう別邸に私が移り住むことが気に入らなかったとか? メラニア様が殿下を愛していらしたことは間違いない。そんな殿下の近くに私がいるのが不都合だから追い出そうとしたということ? そして私を嫌っていたカイエン様もそれに協力した、と。
「でも、それだってせいぜい卒業までの間のことですよね」
仮に別邸とやらに置かれたとして、その後卒業してそこから出て行くのであれば、わざわざ追い出しにかかるまでもない。追い出すだけならともかく、命を狙うほどのことがあったのか。
不思議に思っていると、殿下が不意に目を逸らした。
「別邸は……確かに卒業までの仮の住まいにする予定だったのだが、その後のおまえの去就についてもほぼ決まっていて、だな」
「え? もしかして殿下は、私の卒業後の仕事まで決めてくださっていたのですか?」
だとしたら大変失礼なことをしてしまった。それを知らずに勝手にマクレガー家と契約を結んでしまったことになる。
「そういえばマクレガー家との契約はどうなってしまったのでしょうか」
既に私のサインを入れて先方にお返しした書類だ。契約不履行を訴えられてもおかしくはない状況で、私の命を狙ったとされるメラニア様が黙っているとは思えなかった。あぁそうだ、そもそもメラニア様はなぜ私の命を狙ったのかという疑問も解決されていない。私を亡き者にしたところでメラニア様に得なことなど何もない。いや、得がないだけで、私はメラニア様にひどく嫌われていたということなのか。それこそ殺してやりたいと思うくらいに。
何が悪かったのだろうと心の中で反省していると、殿下が契約のことを口にした。
「そのマクレガー家との契約のことだが、マクレガー宰相もあの女も、そんなことは一言も口にしていないんだ」
「え、そうなのですか?」
「私も、事情を打ち明けたカイエンの話で初めてそんなものの存在を知った。それはマクレガー領の孤児院で働くという内容だったんだな? それでサインをしたと」
「そうです。特におかしな内容ではなかったと思います」
私が内容を思い出していると、殿下は「まぁどうせ無効だからかまわん」と切り捨てた。
「無効?」
「あぁ。おまえ、まだ誕生日が来てないだろう。未成年のうちにしたサインなど無効に決まっている」
「あ……」
確かに私の誕生日は今月末だ。この国では未成年が契約をする場合、保護者のサインが必須になる。私が王宮と契約を結んだときも、母が連名でサインしてくれた。
「だが少々気がかりだな。おそらくその契約はおまえをさっさと王宮から切り離すために用意したのだと思うが、あの女ならともかく聡いカイエンが未成年のサインが持つ意味に気付かぬはずがない。それにおまえが戻ってきてあの2人の悪巧みが明るみに出た今も、それを持ち出さないのも不気味だな。まだ何か隠しているのか……」
「あの、殿下。もしご存知なら教えていただきたいのですが」
本当なら蓋をしてしまいたい事実だが、そうも言っていられない状況だ。私は意を決して問いかけた。
「私は、メラニア様とカイエン様にいったい何をしてしまったのでしょうか。どうして彼等に王宮を追い出され、命を狙われることになってしまったのでしょうか」
魔力なしの私は長年にわたって彼等に迷惑をかけてきたことはわかっている。だが、それは私を殺すほどの強い恨みだったのだろうか。私が気付かぬ深い闇があるなら、そこから目を逸らすわけにはいかないと思った。
「それは……」
またしても目を逸らす彼に、私は縋った。
「殿下、お願いです。どうか真実を教えてください。本当は私に、悔い改めなければならない事情があるのではありませんか」
「違う、おまえは何も悪くない、それは何度も言っているだろう」
「ですが……」
「そうじゃない。全部私のせいなんだ。私が……おまえを好きになって、おまえが欲しいと思ったことに端を発しているんだ」
「え……?」
目をぱちくりさせながら息を呑む。一度逸らされた目が、意を決したようにこちらを向いた。
「ユーファミア、私は、おまえのことがずっと好きだった」
「うそ……」
「嘘じゃない。初めておまえにあったときから……一目惚れだったんだ」
美しい藍色の瞳が切ない色を浮かべて私を見つめていた。これも初めて目にする殿下の表情だった。
頬を両手で包みながら、私はこの膨大な量の情報を処理しようと努力していた。その中でもまだ解決できていないことがたくさんある。
メラニア様とカイエン様は結託して私を王宮から追い出したようだが、なぜそんなことをする必要があったのか。契約が終了すれば私は用無しだ。放っておけば出て行くしかないわけだし、わざわざ追い立てる必要もない。あぁもしかしたら、王家が用意したとかいう別邸に私が移り住むことが気に入らなかったとか? メラニア様が殿下を愛していらしたことは間違いない。そんな殿下の近くに私がいるのが不都合だから追い出そうとしたということ? そして私を嫌っていたカイエン様もそれに協力した、と。
「でも、それだってせいぜい卒業までの間のことですよね」
仮に別邸とやらに置かれたとして、その後卒業してそこから出て行くのであれば、わざわざ追い出しにかかるまでもない。追い出すだけならともかく、命を狙うほどのことがあったのか。
不思議に思っていると、殿下が不意に目を逸らした。
「別邸は……確かに卒業までの仮の住まいにする予定だったのだが、その後のおまえの去就についてもほぼ決まっていて、だな」
「え? もしかして殿下は、私の卒業後の仕事まで決めてくださっていたのですか?」
だとしたら大変失礼なことをしてしまった。それを知らずに勝手にマクレガー家と契約を結んでしまったことになる。
「そういえばマクレガー家との契約はどうなってしまったのでしょうか」
既に私のサインを入れて先方にお返しした書類だ。契約不履行を訴えられてもおかしくはない状況で、私の命を狙ったとされるメラニア様が黙っているとは思えなかった。あぁそうだ、そもそもメラニア様はなぜ私の命を狙ったのかという疑問も解決されていない。私を亡き者にしたところでメラニア様に得なことなど何もない。いや、得がないだけで、私はメラニア様にひどく嫌われていたということなのか。それこそ殺してやりたいと思うくらいに。
何が悪かったのだろうと心の中で反省していると、殿下が契約のことを口にした。
「そのマクレガー家との契約のことだが、マクレガー宰相もあの女も、そんなことは一言も口にしていないんだ」
「え、そうなのですか?」
「私も、事情を打ち明けたカイエンの話で初めてそんなものの存在を知った。それはマクレガー領の孤児院で働くという内容だったんだな? それでサインをしたと」
「そうです。特におかしな内容ではなかったと思います」
私が内容を思い出していると、殿下は「まぁどうせ無効だからかまわん」と切り捨てた。
「無効?」
「あぁ。おまえ、まだ誕生日が来てないだろう。未成年のうちにしたサインなど無効に決まっている」
「あ……」
確かに私の誕生日は今月末だ。この国では未成年が契約をする場合、保護者のサインが必須になる。私が王宮と契約を結んだときも、母が連名でサインしてくれた。
「だが少々気がかりだな。おそらくその契約はおまえをさっさと王宮から切り離すために用意したのだと思うが、あの女ならともかく聡いカイエンが未成年のサインが持つ意味に気付かぬはずがない。それにおまえが戻ってきてあの2人の悪巧みが明るみに出た今も、それを持ち出さないのも不気味だな。まだ何か隠しているのか……」
「あの、殿下。もしご存知なら教えていただきたいのですが」
本当なら蓋をしてしまいたい事実だが、そうも言っていられない状況だ。私は意を決して問いかけた。
「私は、メラニア様とカイエン様にいったい何をしてしまったのでしょうか。どうして彼等に王宮を追い出され、命を狙われることになってしまったのでしょうか」
魔力なしの私は長年にわたって彼等に迷惑をかけてきたことはわかっている。だが、それは私を殺すほどの強い恨みだったのだろうか。私が気付かぬ深い闇があるなら、そこから目を逸らすわけにはいかないと思った。
「それは……」
またしても目を逸らす彼に、私は縋った。
「殿下、お願いです。どうか真実を教えてください。本当は私に、悔い改めなければならない事情があるのではありませんか」
「違う、おまえは何も悪くない、それは何度も言っているだろう」
「ですが……」
「そうじゃない。全部私のせいなんだ。私が……おまえを好きになって、おまえが欲しいと思ったことに端を発しているんだ」
「え……?」
目をぱちくりさせながら息を呑む。一度逸らされた目が、意を決したようにこちらを向いた。
「ユーファミア、私は、おまえのことがずっと好きだった」
「うそ……」
「嘘じゃない。初めておまえにあったときから……一目惚れだったんだ」
美しい藍色の瞳が切ない色を浮かべて私を見つめていた。これも初めて目にする殿下の表情だった。
12
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
婚約破棄された公爵令嬢と、処方箋を無視する天才薬師 ――正しい医療は、二人で始めます
ふわふわ
恋愛
「その医療は、本当に正しいと言えますか?」
医療体制への疑問を口にしたことで、
公爵令嬢ミーシャ・ゲートは、
医会の頂点に立つ婚約者ウッド・マウント公爵から
一方的に婚約を破棄される。
――素人の戯言。
――体制批判は不敬。
そう断じられ、
“医療を否定した危険な令嬢”として社交界からも排斥されたミーシャは、
それでも引かなかった。
ならば私は、正しい医療を制度として作る。
一方その頃、国営薬局に現れた謎の新人薬師・ギ・メイ。
彼女は転生者であり、前世の知識を持つ薬師だった。
画一的な万能薬が当然とされる現場で、
彼女は処方箋に書かれたわずかな情報から、
最適な調剤を次々と生み出していく。
「決められた万能薬を使わず、
問題が起きたら、どうするつもりだ?」
そう問われても、彼女は即答する。
「私、失敗しませんから」
(……一度言ってみたかったのよね。このドラマの台詞)
結果は明らかだった。
患者は回復し、評判は広がる。
だが――
制度は、個人の“正
制度を変えようとする令嬢。
現場で結果を出し続ける薬師。
医師、薬局、医会、王宮。
それぞれの立場と正義が衝突する中、
医療改革はやがて「裁き」の局面へと進んでいく。
これは、
転生者の知識で無双するだけでは終わらない医療改革ファンタジー。
正しさとは何か。
責任は誰が負うべきか。
最後に裁かれるのは――
人か、制度か。
【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる