上 下
88 / 102
秋の断章 -Tragedy-

秋の断章⑧-1

しおりを挟む
 学園祭の後、俺は学校を一週間休んだ。



 何か逼迫した理由があるわけではない。



 いわゆる、ずる休みという奴だ。



 朝、制服を着て何食わぬ顔で家を出て、そのまま人目のつかない場所でひたすら時間を潰した。



 この三ヶ月。



 秋に起きた出来事を咀嚼する時間が俺には必要だった。



 それに昨日の今日で、日聖の顔を見るのも躊躇われた。



 数日の空白期間の中で、俺は今までの出来事の意味を考え、過去、あるいは未来における、心の整理をつけることに努めた。





 変わってしまった千賀燎火。



 幸福な世界か、愛する人かを選べという神さまの選択肢。



 なぜ俺はこの世界で、再び中学生をやり直すことになったのか。



 そして、二十五歳のまま中学生に戻った日聖愛海。



 今までこの世界で体験した、様々な出来事。



 点と線が緩やかに繋がっていき、まったく違う相貌を浮かび上がらせる。





 町外れの公園の隅で薄汚れたベンチに座りながら、俺はじっと思案に暮れていた。



 学園祭が終わってから、温度は急激に下がった。



 ふとした瞬間に吹く凍えるように冷たい乾風が身体を外と内からじっと焦す。



 外に長時間居座るには、厚手のコートとマフラーが必要不可欠になっていた。



 大規模な低気圧が近づいているらしく、週末にはこの地方で十数年以来最速となる初雪が観測されると予報では言っていた。



 また、あの忘れられない季節が訪れようとしている。



 全ての事象に頭の中で説明をつけたその時、まるで狙ったかのようなタイミングで携帯から着信音が鳴った。



 メールが入っていた。



 そこには短いメッセージが添えられていた。



「また、病院でお会いしましょう」



 差出人の欄には、千賀燎火と記載があった。



 一陣の風が吹き上げた。

しおりを挟む

処理中です...