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決意の徒 第四章・談合(4)
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一週間後、総本山真興寺の宗務院内に於いて、大本山相心寺貫主一色魁嶺の処分を決める合議が開催された。
規律委員会のメンバーは下記の通りである。
北海道 本山 覚王寺 長 恵心(おさえしん)
東北・宮城 本山 勝持寺 白洲東伯(しらすとうはく)
中部・長野 本山 永厳寺 平松籠善(ひらまつろうぜん)
中国・広島 本山 万塔寺 鶴丸妙亘(つるまるみょうせん)
九州・福岡 本山 高妙寺 泉 昇蓮(いずみしょうれん)
以上の五名に、総本山総務の藤井清堂と、同宗務総長の永井大幹を加えた七名である。その他、各人に一人ずつの補佐役が付いた。総務清堂の補佐役として会議に列席した景山は、このメンバーを見た瞬間、
――しめた。
と心の中で手を打った。というのも、仙台市勝持寺貫主白洲東伯の姿があったからである。
白洲東伯は、弓削広明前貫主の執事長を経て勝持寺の貫主になっていた。日頃から弓削広大とも親交があり、彼の言葉を借りると、
『年の差はあるが、白洲上人とは肝胆相照らす仲』
ということであった。
それが事実であれば、
『本妙寺の件も神村上人支持』
の意を伝えていることであろうと期待したのである。
だが、この期待は束の間と消えた。
冒頭、議事進行を司る宗務総長の永井大幹が、
「申すまでもありませんが、この会議は権大僧正である京都本山相心寺の一色貫主に対する処分を決定する会議です。貫主に対する懲罰動議の内容に付きましては、事前に送付致しました書類のとおりです。皆様におかれましては、十分に熟慮、検討されたものと推察致します。したがいまして、この場で忌憚のないご意見を頂き、集約したうえで妥当な処分が決定されることを信じて疑いません」
と所見を述べるや否や、広島万塔寺(ばんとうじ)の鶴丸妙宣が満を持したように口を開いたのである。
「私は、厳重戒告が相当だと考える」
その低音は重厚な響きを伴っていた。
鶴丸は八十歳。このメンバーの中では最長老であり、長年に亘って中・四国地区本山会会長を務め上げ、昨年その役職を退いたばかりの、天真宗における重鎮の一人であった。
この意見に、北海道覚王寺(かくおうじ)の長、和歌山永厳寺(えいげんじ)の平松、福岡高妙寺(こうみょうじ)の泉が、つぎつぎと同意した。
――妙な雲行きになった。
思い掛けない展開に、その場に居合わせた景山の面が強張った。
「厳重戒告では軽過ぎます。私は、一年間の職務停止処分にすべきと考えます」
残る一人、宮城県勝持寺の白洲東伯が声高に言った。白洲は六十八歳、昨年の春に貫主になったばかりの新参である。その彼が、大先輩の鶴丸に反駁する意見を述べるのは勇気のいることであった。
景山の期待通りの発言であったが、五名の貫主の意見は一対四と一方的になった。景山にしてみれば、想像もしなかった劣勢である。
通常、総務と宗務総長は意見を控える。特に、次期法主の内定者とも言える総務が発言してしまうと、他者が意見を述べ難くなるからである。
――少なくとも、五名が二対三の状態にならなければ、総務さんと宗務総長の発言が無意味になる。
景山は、固唾を呑んで成り行きを窺った。
規律委員会のメンバーは下記の通りである。
北海道 本山 覚王寺 長 恵心(おさえしん)
東北・宮城 本山 勝持寺 白洲東伯(しらすとうはく)
中部・長野 本山 永厳寺 平松籠善(ひらまつろうぜん)
中国・広島 本山 万塔寺 鶴丸妙亘(つるまるみょうせん)
九州・福岡 本山 高妙寺 泉 昇蓮(いずみしょうれん)
以上の五名に、総本山総務の藤井清堂と、同宗務総長の永井大幹を加えた七名である。その他、各人に一人ずつの補佐役が付いた。総務清堂の補佐役として会議に列席した景山は、このメンバーを見た瞬間、
――しめた。
と心の中で手を打った。というのも、仙台市勝持寺貫主白洲東伯の姿があったからである。
白洲東伯は、弓削広明前貫主の執事長を経て勝持寺の貫主になっていた。日頃から弓削広大とも親交があり、彼の言葉を借りると、
『年の差はあるが、白洲上人とは肝胆相照らす仲』
ということであった。
それが事実であれば、
『本妙寺の件も神村上人支持』
の意を伝えていることであろうと期待したのである。
だが、この期待は束の間と消えた。
冒頭、議事進行を司る宗務総長の永井大幹が、
「申すまでもありませんが、この会議は権大僧正である京都本山相心寺の一色貫主に対する処分を決定する会議です。貫主に対する懲罰動議の内容に付きましては、事前に送付致しました書類のとおりです。皆様におかれましては、十分に熟慮、検討されたものと推察致します。したがいまして、この場で忌憚のないご意見を頂き、集約したうえで妥当な処分が決定されることを信じて疑いません」
と所見を述べるや否や、広島万塔寺(ばんとうじ)の鶴丸妙宣が満を持したように口を開いたのである。
「私は、厳重戒告が相当だと考える」
その低音は重厚な響きを伴っていた。
鶴丸は八十歳。このメンバーの中では最長老であり、長年に亘って中・四国地区本山会会長を務め上げ、昨年その役職を退いたばかりの、天真宗における重鎮の一人であった。
この意見に、北海道覚王寺(かくおうじ)の長、和歌山永厳寺(えいげんじ)の平松、福岡高妙寺(こうみょうじ)の泉が、つぎつぎと同意した。
――妙な雲行きになった。
思い掛けない展開に、その場に居合わせた景山の面が強張った。
「厳重戒告では軽過ぎます。私は、一年間の職務停止処分にすべきと考えます」
残る一人、宮城県勝持寺の白洲東伯が声高に言った。白洲は六十八歳、昨年の春に貫主になったばかりの新参である。その彼が、大先輩の鶴丸に反駁する意見を述べるのは勇気のいることであった。
景山の期待通りの発言であったが、五名の貫主の意見は一対四と一方的になった。景山にしてみれば、想像もしなかった劣勢である。
通常、総務と宗務総長は意見を控える。特に、次期法主の内定者とも言える総務が発言してしまうと、他者が意見を述べ難くなるからである。
――少なくとも、五名が二対三の状態にならなければ、総務さんと宗務総長の発言が無意味になる。
景山は、固唾を呑んで成り行きを窺った。
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