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第三章 連続殺人事件

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 翌日の午後、所轄の麻布署に捜査本部が設置され、本部長には麻布署捜査一課長の山根警視が就いた。本庁捜査一課の殺人犯捜査第一係が主力として投入され、係長の森野警部が現場の指揮を執ることになった。他に、同第三係の諸岡班からの助勢と所轄の麻布署員も加わるという、単発の殺人事件とは思えない物々しい布陣となった。
 社会的重大事件か凶悪事件、あるいは大量殺人事件でもない限り、一つの事件に別班の捜査員を加えることは滅多になかったが、堀尾貴仁の風評と知名度の高さから、世論の関心度に鑑みて、早期解決を図ろうとする当局上層部の意気込みの露われであった。
 午後三時――。
 丸一日の初動捜査の結果を踏まえて、第一回目の捜査会議が行われた。この会議を通して、全捜査員が情報を共有することになる。
 会議の冒頭、山根捜査本部長が所見を述べた。
「被害者・堀尾貴仁氏は、再三マスコミにも登場していた人物であり、本件に関しては国民の関心も非常に高いと思われます。諸君らの鋭意努力によって、一刻も早い犯人逮捕、事件解決を望みます」
 会議を進行する本庁捜査一課の森野係長が続いた。森野和則(かずのり)は三十三歳。いわゆるキャリア組であり、まもなく階級は警視、役職は管理官に出世が有望なエリートである。
「では、捜査会議に入ります。まずは、これまでの捜査状況の説明をお願いします」
 管理官が席を立った。本部長を補佐し、捜査本部と本庁とのつなぎ役を担う。

 被害者は本名―堀尾貴仁。
 性別―男性。
 生年月日―昭和四十年九月一日。
 年齢-三十六歳。
 現住所―東京都港区六本木六丁目X―X、六本木スカイタワー・マンション二八〇一号室。
 本籍―広島県安芸郡府中町八幡二丁目X―XX。
 職業―株式会社ウィナーズ代表取締役社長。
 前科―なし。
 遺体の発見状況―昨日、四月二十三日、午前九時より、ウィナーズで予定されていた臨時役員会議に被害者が姿を現さなかったので、不審に思った専務の土江徹氏と他一名が、同日午後一時頃、被害者所有宅の二八〇一号室に出向いた。
 インターホンを押しても中から応答は無く、鍵が閉まっていた状態だったので、管理人を呼んで鍵を開けてもらい中に入ってみたところ、全裸で浴槽に浮かんでいる被害者を発見した。したがって、この三人が第一発見者となる。
 主任検視官が続いた。
 司法解剖の結果、死亡推定時刻は、四月二十二日・午後十一時前後と見られ、殺害方法から犯行時間はやや幅が広い、同十時半から十一時半と推定された。同じく死因は、左手首の動脈損傷による出血多量、つまり失血死と断定され、血液中から高濃度のアルコールと睡眠導入剤の成分が検出された。

 
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