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14話 弟子志望
しおりを挟む「あなたに惚れました! 私を側に置いてください!!」
「……へ?」
ライカからの予想だにしない言葉に思わずフリーズしてしまう。
あまりにも突拍子がない告白すぎて思考が追いつかない。
惚れた?
俺に!?
いや、確かにライカのことをワーウルフから助けたから、きっかけとしてはありえるかもしれないけど、俺、今年で三十五歳だよ!?
ライカを背負って街に帰る時に色々な事を話したけど、その時ライカは自分の年齢を二十歳になったばかりと言っていた気がする。
年齢の差が十五って……。
別に恋仲になるのに歳の差は関係ないけど、恋愛経験の無いアラフォー男子にはこの年齢差はハードルが高すぎる。
どどどどど、どうしよう。
俺はなんて答えるのが正解なんだろ!?
ま、まずは大人として動揺しているしている事を悟られないようにしないと。
ライカにバレないように小さく息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
「なっ、どっ、うっ……えーっと……うん、そのー……」
ダメだ、全然動揺してる上、全く言葉が出てこない。
「……? ……っ!?」
俺の情けない姿を見て、ライカは何か思うことがあったのだろうか。
数瞬ほど思考した後、顔を真っ赤に染め上げる。
「まっ、間違えてしまいました! いや、全くの間違いって訳じゃないんですが……。今のは一旦忘れてください!」
自分の言葉に思うことがあったのか、大声でそう訂正する。
……なんだ、言い間違いだったのか。
安心したような残念なような、複雑な気持ちが俺の心を支配する。
……そりゃあ、俺も男だし。
いくら年齢が離れているといっても、こんなに綺麗な子に告白されたと思ったら嬉しいと思うのは自然の摂理だと思う。
「私は、シナイさんの魔法をも超越する剣技に惹かれました。もし可能なら、私のことを弟子にしてください!!」
あぁ、そういう事か。
つまり、さっきのライカの告白は、『あなた(の剣技)に惚れました! 私を(弟子として)側に置いてください!!』って意味だったのね。
あー、なるほど。
納得納得……できるかっ!
紛らわしいわっ!!
「すいません、緊張して変な言い方になってしまいました……」
本当だよっ!!……と、言いたい気持ちをグッと堪える。
ここで感情のまま怒り出したら、どう見ても大人気ない。
「はははっ、いきなり愛の告白でもされたのかと思ってびっくりしたよ。うんうん、そうだよね、大丈夫、俺はライカの言い間違いだって全部分かってたよ! はははははっ!」
あくまで年相応の……大人の対応を心がける。
ただ、ちょっとだけハイテンション気味で誤魔化そうとしているのは許してほしい。
これが、心は少年で外見だけ歳をとった哀れな男の精一杯の強がりだから。
コホンとひとつ咳払いをして改めて、今一度気持ちを切り替える。
……弟子希望か……。
さて、何て答えたものか。
「俺の剣技をそこまで評価してくれたのは素直に嬉しい。だけど、俺は『剣士』だ。『魔剣士』のライカに教えられることなんて無いと思うけど」
『魔剣士』の戦闘スタイルは見たことはないけど想像はつく。
その名の通り、魔法を使いながら剣で戦う剣士のことだろう。
俺も長年の修行のおかげで、魔法じみた剣技はいくつか使えるけど、それは所詮剣術の範囲。
俺なんかの弟子になるより、今の戦闘スタイルを磨き続ける方がいいとは思うんだけどな……。
なんなら、俺が魔法を教えてもらいたいくらいだ。
「そんな事はありません! ……今の私の剣の技術では冒険者として通用しないから、渋々魔法を習得しただけなんです。ですが、シナイさんの剣技を見て確信しました。この人こそ、私が目指す到達点であると!!」
すっごく過大評価されている気がする。
そんな立派な大人じゃないんだけどなぁ……。」
「俺、無職だよ?」
「関係ありません!」
「住むところもないし」
「私の家に住んでください! 父と二人暮らしなので部屋は余ってます!!」
「金もないし、職もない」
「養います! これでもシルバーランクの冒険者なんで、同世代に比べて蓄えはそこそこあります!!」
この子、大丈夫!?
俺のダメなとこ伝えても、即座に返してくるんだけど。
将来、ろくでもない男に寄生されたりしないよね?
おじさん、なんだか心配になってきた……。
「他に何かありますか? 私はシナイさんがどんなことを言ってきても受け入れますし、絶対に弟子になりますからね!」
いつの間にか、ライカが俺の弟子になるのは決定事項のようになっている。
「ライカの気持ちはよく分かったけど、確かめたい事があるんだけどいいか?」
「はい! なんなりと!!」
「それなら、悪いけど手を見せてくれ」
そう言うと、俺はライカの左手を掴む。
「きゃっ!? い、いきなりどうしたんですか!?」
急に触ってしまったから驚かせてしまったかな?
一回り以上歳上のおっさんに触られたら、気持ち悪いよな。
だけど、どうしても確認しないといけないことなんだ。
「……いい手をしているな。努力している手だ」
二十歳の少女のものとは思えないほど、豆だらけの手。
きっと、毎日毎日、休む事なく剣を振り続けてきたんだろう。
俺もライカと同じような手をしてるからよく分かる。
これは間違いなく『剣士』の手だ。
「あの……そろそろ恥ずかしいです」
「あっ、ごめん!」
俺は謝らながら手を離す。
ついつい、見過ぎてしまった。
剣に関わる事だと周りが見えなくなるのは気をつけないとな……。
だけど、おかげで分かった事がある。
それは、ライカが剣に対して真摯であることだ。
最初は弟子をとるなんて断ろうと思っていた。
だけど、ライカのこれまでの努力の蓄積を見たら、無碍に断ることも出来なくなってしまった。
ライカが剣に本気だってことを知ってしまったからね。
「分かった、俺ができる範囲で良ければ剣を教えるよ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!!」
「でも、弟子になったからって堅苦しく考えなくていいからな! 呼び方も今まで通り名前呼びでいいし」
「分かりました! ありがとうございます、シナイさん!!」
ライカが嬉しそうに返事をする。
……この笑顔を見れただけでも、引き受けてよかったって思ってしまった。
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