剣の極地に至る者〜山で二十年修行したアラフォー剣士は、魔法世界で無双する〜

18話 肉弾戦

　
「星魔法……『星に願いを』」

　手のひらから剣柄、刃を通って剣先へ魔力を通していく。
　そして、魔力は剣から地面に書いた魔法陣に伝わっていく。

　ゴランの魔法と最初に相対した時にすぐ理解した。
　相性は最悪。
　私の持つ攻撃魔法じゃゴランにダメージは与えられないと。

　だから作戦を変更した。
　ゴランの言う通り、シナイさんが来るまで時間を稼ぐ手段も考えた。

『流星ミーティア』の出力を抑えながら、ヒットアンドアウェーで戦えば、たぶん時間稼ぎは十分可能だっただろう。

　だけど、それじゃあダメだ。

　私は強くなると決めた。
　いつまでも強い人に守られるままじゃ嫌だから。

　ふと、父の言葉を思い出す。

『格上に勝つ方法？　そんなの簡単だ。頭を使え。地理を使え。策を使え。武器を使え。秘策も愚策も卑怯も反則も、使える物全部使って、勝つ確率を1パーセントでも引き上げろ』

　その時は、卑怯な手を使うくらいなら負けてもいいと思ったけど、今は違う。
　私は……絶対に勝つんだ！！

　残り少ない魔力を全て出し切るために、集中を高める。

「こ、この魔法は！？」

　私とゴランの足元の魔法陣が光りだす。
　……良かった、何とか発動できた。

　その証拠に、ゴランの鉄魔法は解除され、生身の体が露あらわになる。

「なんだ、これは！？　魔力が練れない？　魔法が使えないぞ！？」
「『星に願いを』……効果は魔法陣内の人物の魔法を禁止する魔法だ」

「魔法を禁止する魔法だと！？」

　その通り。
　もちろん、発動には色々と条件がある。

　まず魔法陣を手書きで書かなければいけない上、魔法発動時には対象と自分、二人が魔法陣内にいなければならない。

　互いに魔法が使えない状態で勝敗をつけるには、残る方法はひとつ……魔法禁止の近接戦のみ！

　つまり、この魔法は魔法を禁止する魔法であると同時に、肉弾戦を強制する魔法でもある。

「さあ、決着をつけようか」

　私は剣を構えてゴランに向き直す。
　私が剣を持っているのに対して、ゴランは丸腰。

　魔法陣を書いているのを気づかせないために、鋼鉄化しているゴランに何度も斬りかかったせいで刃はかなり傷んだけど、それでも武器を持つ私が有利なのは変わらない。

　見る人が見たら卑怯と言われるかもしれないな。

「お前……正気か？　魔法が使えなかったら武器を持っている自分の方が有利だとでも思ったか？」
「ああ。形勢は既に逆転してるだろ？」

「……甘すぎるだろ。オッ……ラァッ！！」

　そう言うなり、ゴランは地面を殴りつける。

「っ！？」
「悪いが、オレは魔法を使わなくても強いんだ。冒険者時代、最前線で戦っていた男の実力を見誤ったな」

　なるほど、その体格は見かけ倒しじゃないってことか。
　ゴランが殴った箇所はヒビが入っている。

　直撃したら、私の骨なんてあっさりと折られるだろ。
　……当たればね。

「力自慢なのはよく分かった。……来い」
「後悔するなよ」

　ゴランが一歩一歩と近づき、互いの間合いに入る。

　……そして！

「死ねぇ！！」

　大ぶりの右フックがくる……と見せかけて。

「オッラァァ！」

　本命は左のアッパー。

「……っ！？　くそがっ！！」
「フェイントをかけるなら、もっと力の重心を均等にしないとダメだな。左に力が入り過ぎててバレバレだ」

　私は簡単にゴランの拳を避ける。

　攻撃をあっさりと回避されたゴランは無防備な姿を晒してしまう。
　今ならどんな剣技も当てられるだろうけど、このボロボロの剣を使って一撃で決着をつけるのは難しいかもしれない……。

　だけど、一度攻撃を受けたら敗北してしまう状況で、こんな好機はもう来ないかも。

　それなら……！

「ロックス流剣技……『八華繚乱はっかりょうらん』！」

　同時に八回、剣撃をくらわせるまで！！

　両手両足、両肩。
　そして、額と腹部に斬撃と突きを繰り出す。

「ぐっ、ぎっ、がぁぁぁ！？」

　八剣撃の全てがゴランに命中し、悲鳴と同時にその場に立ち尽くす。
　剣は万全の状態とは程遠かったため、斬り殺すまでにはいたらないが、ダメージとしては十分だろう。

　私も最後の力を振り絞って放った剣技……これで倒せなかったら私の負けだ。

　頼む、このまま倒れてくれ。

「ご、の、クソ……アマ、がぁっ！」

　ゴランが私への恨み言を言いながらゆっくりと一本ずつ距離を詰める
　そして……私の横を通り過ぎながら倒れ込む。

「……よかった」

　ギリギリ……本当にギリギリの勝利だ。
　ゴランが倒れるのとほぼ同時に私の魔法も解除される。

　だけど、格上相手に勝利することができた。
　……シナイさんに褒めて貰えるだろうか。

『すごいじゃん！　まさか本当に勝つなんて！！』
『流石は俺の弟子だな。自慢の弟子だよ』
『やるなー。見直したよ！！』

「ふふっ」

　シナイさんに言われる言葉を妄想していたら、思わず笑みがこぼれてしまう。

　……だけど、それが失敗だった。
　勝ったと思って気が緩みすぎていた私は、ゴランの気が失っているのを確認するのを怠ってしまった。

「死、ねぇぇ！！」
「……っ！？」

　突然ゴランが起き上がりながら襲いかかってくる。
　油断していて、私は反応が遅れてしまう。

　よく見ると、ゴランの数が若干だが回復している。
『星に願いを』が解除したタイミングで、私にバレないようにこっそりと回復魔法で治癒をしたのか。

　だめだ、回避も防御も間に合わない……。

　すいません、シナイさん。
　私……負けました。

　すぐに来るであろう衝撃に備えて反射的に目をつぶるが、いつまで経っても痛みも障害もこなかった。

「最後の詰めが甘かったな。……まあ、でも、おまけで合格点くらいはあげよう」

　聞き慣れた声がして、私はゆっくりと目を開ける。

　……あぁ、やっぱりこの人はずるい。
　私のピンチの時には必ず駆けつけてくれるんだから。

　シナイさんは、私とゴランの間に立ち、ゴランの拳を受け止めてくれていた。