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20話 父と母
しおりを挟む俺とライカは、ゴランを含む盗賊団『デッドエンド』の連中を縛り上げ、ひとつの馬車に閉じ込めて王都まで連行することにした。
盗賊達は全員命に別状はないけど、俺にボコボコにやられたことで完全に戦意を失っているようだから、逃げ出すようなバカなマネはしないだろう。
ちなみに、マネホーシは俺の実力をみるやいなや、態度を180度変え、初対面の時かそれ以上に遜りながら『シナイさんも人が悪い! それほどお強いなら早く言ってくださればよかったのに!』と、笑顔で話しかけてきた。
その上、殺風景だった俺とライカの馬車には絨毯や座布団がひかれ、居心地の良さが三倍くらい向上した。
流石は商人、対応の切り替えが速いな……。
何はともあれ、この近辺で悪さをしていた盗賊達は壊滅することができたし、これで当分、王都までは快適な旅ができそうだ。
それに、道中ライカには色々と聞きたいこともできたしな!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都への道のりを再開するなり、早速気になっていた事をライカに切り出す。
「いやー、それにしてもライカが師匠の娘だなんて驚いたよ」
「私も驚きました。まさか父がよく言っていたお弟子さんがシナイさんだなんて。……こんな偶然あるんですね」
ライカの剣技を見た時は驚いた。
『八華繚乱』……ロックス師匠が最も得意としていた連続剣技。
ライカの放った剣技の剣筋、型、佇まい、その全てが師匠の剣技と遜色ない……どころかそっくりだった。
今思うと、なんでライカが師匠の娘って可能性を考えられなかったんだろう。
それに、ライカに対して既視感があって当たり前じゃないか。
ライカの雰囲気というか、纏っている空気感が師匠にそっくりだ。
しかも見た目は母親であるセルフィさん似だし。
あ、でも、目元だけは師匠似かな。
「師匠もセルフィさんも元気? 師匠……は置いといて、俺はセルフィさんにもすごくお世話になったんだ」
「……実は母は私が物心つく前に病気で亡くなってるんですよ」
「えっ!? セルフィさんが!?」
そんな……。
両親がいない俺は、ロックス師匠とセルフィさんに親代わりに育ててもらっていたから、俺にとってセルフィさんは母親みたいなものだった。
酒、博打、女が好きでだらしなく、剣の腕以外はてんでダメな師匠と、なんで結婚したのか分からないってくらい、セルフィさんは優しくて素晴らしい女性だったなぁ。
そんなセルフィさんがもう亡くなっていただなんて……。
どうしよう、ショックが隠しきれない。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、ごめんな。セルフィさんは俺にとっても母親みたいな人だったから、ちょっと動揺しちゃったよ」
「そうだったんですね。母も、シナイさんにそこまで慕われていて幸せだったと思います」
そう言うと、ライカは優しく微笑む。
ああ、ライカの笑った顔がセルフィさんと面影と重なってみえる。
本当に自分がバカすぎるな。
山にこもり過ぎて、大切な人の顔も忘れてたのかって責めたくなる。
セルフィさん……ライカは顔だけじゃなく、貴女に似て心も綺麗な女性になりましたよ。
「……って、そういえば師匠が道場を畳んだっていってたよね!? あの剣バカがそんな事をするとは思えないんだけど……。何があったの?」
ロックスという男の人間性は我が師匠ながら尊敬できないけど、剣に対しては誠実で正直な人だった。
そんな人が自分の道場を畳むだなんて……そりゃあ俺が修行に行く前は、弟子は俺しか残っていなかったし、金もなかった。
でも、あの人なら道場を閉めるって判断だけはしないって断言できる。
それこそ、周りに辞めるよう勧められても、子どものように駄々をこねて周囲を困惑させる姿まで鮮明に思い浮かぶ。
「父は……いや、これは私の口から言うべきことじゃないかもしれません。多分、父も自分からシナイさんに伝えたいと思えますし」
「そっか。娘のライカが言うならそうなのかもね」
正直、道場を辞めた理由はすごく気になるけど、無理に聞き出すのも悪いしな。
それにライカの口ぶりならセルフィさんと違って生きてはいるようだし、そこを知れただけでも安心した。
まあ、殺しても死なないような人だし、生きてるなら大丈夫だろう。
どのみち王都で要件を済ましたら師匠に会いに行こうと思っていたし、それまでの我慢だな。
「なら、俺が山にこもって修行してからのライカと師匠の思い出話でもしてよ」
王都に到着するまではまだまだ時間がかかるし、盗賊が登場するようなイベントもそう起きないだろう。
「そうですね……父は、お調子者で短絡的。おまけに短気で我儘で自己中。つまり、一言でまとめるとダメ人間です」
おっ、おう……予想以上に師匠は自分の娘から酷評を受けているな。
ただ、俺の師匠のイメージとも一致しているから否定することもできない。
「おまけにお酒やギャンブルに目がなくて、女性にはすぐ鼻の下を伸ばします」
うん、知ってる。
「……ですけど、剣と母にだけはいつも真剣ですし、その点だけは尊敬しています。再婚もしないで男手ひとつで私を育ててくれたことも感謝していますしね」
……うん、それも知ってる。
師匠は女性に弱いけど、本気で愛していたのはセルフィさんだけだったもんな。
師匠はだらしなくて、よくセルフィさんに怒られていたけど、それでも二人は仲が良かったし、悔しいけどお似合いだった。
そんな二人が並んでいる姿をもう見られないってのは悲しいなぁ。
「あっ、そういえば、私が子どもの時こんな事があったんですよ! 実は……」
そう言ってライカは楽しそうに師匠との思い出を話し始める。
……なんだかんだライカも師匠のことが好きなんだな。
よし、悲しむのは今はやめよう!
ライカが師匠とセルフィさんの娘なら、俺にとって妹も同然の存在だ。
旅路はまだ続くから、この機会に本当の兄妹のような関係になれるよう頑張ろう!
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