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27話 調査
しおりを挟む「ふー、ちょっと飲みすぎたな」
師匠の家にお世話になることが決まってから、急遽俺と師匠、ライカでの宴会が始まった。
ライカのご飯は美味しかったし、なによら初めて飲む酒も美味しかった。
『まだ酒を飲んだ事すらないだろ? いいから飲んでみろ!』と師匠に半ば強引に飲まされた時はあせったけど、どうやら俺は酒が強かったらしく、先に師匠が酔い潰れてしまった。
ライカが師匠を寝室まで運んでる間暇だったので、こうして酔い覚ましのために外に出たが、夜風が心地いい。
……それにしても、師匠が片腕を無くしてたのは本当に驚いた。
冒険者の仕事でヘマをしたと言っていたけど、宴会の間もそれとなく詳細の探りをいれたけど、はぐらかされてしまったしな。
結局誰にやられたのかは分からずじまいだった。
師匠の腕を奪うほどの強敵がいるのなら、一度手合わせしてもらいたいものだけど……。
「ここにいらっしゃったんですね」
声の方を振り向くとライカが歩み寄ってくる。
師匠を寝室まで無事運び終えたようだ。
「お疲れ、ライカ」
「シナイさんこそお疲れさまです。それとお酒や食事の代金まで出してもらってすいませんでした。やっぱり家からも出しますよ」
「いいって、いいって。臨時収入があったって言っただろ? それくらい出させてよ」
実際『バグ』を討伐した報酬はたんとあるし、師匠と弟子のために金くらいは出したかったしな。
ただ、俺の奢りって言った瞬間、師匠が『いやったー! おい、ライカ、近所の酒屋で上物の酒を買い占めてきてくれ』って言った時は奢るのをやめようとも思ったけどね。
「ありがとうございます……あと、父がしつこく絡んですいませんでした」
「ははは、まあ、慣れたもんだよ」
酒を飲んでいる間、ひたすらライカの自慢話ばかり聞かされた。
ここまで子煩悩だと、ライカも大変だろう。
「私も、父があんなに楽しそうにしているのを初めてみました」
「……楽しかったのかな」
師匠からしたら、俺は勝手に道場を飛び出て、二十年ぶりに顔を出した師匠不幸者だ。
その上、師匠が奥さんや片腕を失って大変な時になにも手助けができなかった。
恨まれてもおかしくないとおもうんだけどな……。
「……父に最後の思い出を作ってあげられて嬉しかったです」
「……やっぱり、師匠の体よくないの?」
「はい……気が付かれていたんですか?」
「うん、会った時になんとなくね」
もちろん、確証があった訳じゃない。
ただ、玄関で二十年ぶりに師匠に会った時に片腕を失っていたのと同じくらい、覇気の無さにびっくりした。
師匠の事だし、生きることを諦めている訳じゃないんだろう。
ただ、いつでも死ぬことを受け入れている……そんな空気を醸し出してた。
「余命半年だそうです」
「……病気なの?」
「はい。片腕を失った時からみるみる体が弱っていって、病気もかかりがちになっていったんですが……去年ぐらいから、重い病にかかってしまって、それからずっと闘病生活なんです」
そうだったのか。
昔は健康なのが取り柄で、風邪ひとつ引いた事がないって自慢してた師匠がそこまで弱っていただなんて……。
ちなみに師匠に『馬鹿は風邪を引かないだけでしょ』って言ったら頭にゲンコツをもらったっけなぁ。
「剣士が腕を無くすのはショックだと思うけど……一体師匠に何があったんだ?」
「……それが私にも詳しく教えてくれないんです。父が片腕を失った時は腕以外にも全身ボロボロで、しばらく入院していましたし、退院してからも仕事でミスったとしか言わないんですよ」
「なんか気になるなぁ」
なんだか、俺の知ってる師匠らしくない。
見苦しく言い訳したり、腕を失ったショックで暴れ回ったり、そっちの方がまだ納得できる。
この違和感をなんて言えばいいのか……。
「私も、父がこの一件についてはなんだか素直すぎて、腑に落ちないんです」
「っ! そう、それだ!!」
流石は娘、言い得て妙ってやつだな。
そう、今の師匠は素直すぎるんだ。
師匠なら師匠らしく、簡単に現実なんて受け入れずに、もっとみっともなく足掻いてほしい。
「うーん、気になるなぁ……。よし、調べてみるか!」
師匠は頑固だからこれ以上聞いたところで答えてくれないだろう。
それなら自分で納得がいくまで調べてみよう。
「調べるって、何をですか?」
「師匠が片腕を無くした詳しい経緯とか諦めてる理由とかかな。ちなみに、ライカの知ってる範囲でいいから、師匠のミスったってクエストがどんなのだったか教えてくれないか?」
「そうですね……。当時、父はある冒険者パーティーに助っ人として入っていたようですが、魔物の異常なまでの大量発生で近隣の村を守る際に怪我を負ったそうですよ」
冒険者パーティーに近隣の村か……。
なら、その二つから聞き込みでも始めようかな。
「ちなみに、師匠が入っていたパーティーってライカは面識ある?」
もしライカが知り合いなら詳しい話を聞くのもスムーズにできそうだ。
「知ってるも何も、シナイさんも知ってるパーティーですよ」
「俺が知ってるパーティー?」
……それってまさか……。
「『スターロード』……それが、父が最後に加入していたパーティーの名前です」
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