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第15話 金髪の狂人
しおりを挟むどこか助けを求めるようにも見える、軽く開かれた掌と、白くか細い手首が緩やかに回転し、宙を舞っている光景が、どこか現実離れした様な感覚。
「いやぁぁぁぁぁぁあ"あ"っ!!」
辺りに響き渡る絶叫。
「手がっ!?私の手!?いやああぁっ!!」
「おおい!?うっせーな、ねえちゃん!っっと・・・キャッチ!」パシッ!
あまりの事態に取り乱したルミナの背後から、姿を現した金髪の男が宙を舞っていたルミナの右手を掴む。
握られている剣に付いた鮮血はルミナのもので間違いは無い。
「え、え?・・ルミナっっ!ルミナっ動いちゃダメっ!癒しの術式は、、」
ルミナの横で、あまりの出来事に放心していたマナが駆け寄り、かつて右手があった場所から噴出する鮮血を止めるべく、暴れるルミナを抑えて身体を真紅に染めながら、あまり得意とは言えない癒しの術式を記憶の中から必至に手繰り寄せる。
「あーーちょっと、要らない世話焼いてんじゃねぇっての!炎よ猛り狂え!」
苛立つ金髪男はルミナの血のついた剣を放り捨てると、その掌から極大の火属性魔法を放つ!
「えっっ!うそ!!?」
ヴォォン!
「何してやがんだっ金髪野郎っっ!!」
とっさに転移して、マナと苦しむルミナをネオンで防護!間一髪で間に合い、頭上を轟音を立てて火球の爆発が通過する。以前見たオフェリアの同じ魔法の数倍の威力を、あの瞬間で放ってみせた金髪男の実力を瞬時に理解した。
ザッ!!
「何してくれてんねん、金髪野郎っっ!!」ギィンッッ!!
「あっぶねえ!わはは、わりい助かった!そういや、そいつ殺しちゃマズイんだったわ!」
「なっ!?手で?あほなっ?」
魔法発動後のタイミングを狙って、ジューゾーが斬りかかるが金髪男はその斬撃を左の手の掌で受けた。
その手は異質な鈍い鉛色の輝きを放ち、金属の細かい部品で組まれた精密な機械の様でもあり、また滑らかな動きは鉄で出来た生き物の様でもあった。
更にジューゾーの愛刀ナミノヒラの一刀を正面から受け切ったあたり、その金属が鉄以上の硬度に魔法で強化されている事と思われる。
「・・・なんや?右手が物騒な事なっとるやないか?趣味か?」
「確かにそういう趣味も嫌いじゃないけどね、、、ん?」
「フォスタァァァーーー貴様!イルミナ様をっl!!連なる大氷槍!」
ドドドドッッ!!
ジューゾーと金髪男が膠着状態のさなか、オスタが今まで聞いた事が無いほどの絶叫と共に、十数本の巨大な円錐状のつららが凄まじい風切り音をて立てて金髪男へ向けられる!
「くっ!?」
「あほ!オレも巻き添えかっ!?」
さすがにその圧倒的な物量にジューゾーの刀を離し、一旦距離を取る金髪男。そして巻き添えのジューゾーも慌てて後退し、お互い両陣営にまで下がった。
「オスタ!落ち着け!ルミナさんは大丈夫だ!」
マナの癒しの術式はそれほど高いクオリティではないが、止血までには漕ぎ着け、ひとまずは生命の危険は回避されていた。
レンガに声を掛けられた事で、一旦クリアになる事ができたオスタは、一つ深呼吸をして、金髪の狂人に向き直った。
「やはり・・・リンドブルム・フォスターとはお前じゃったか。」
「オスターー!!いやー久しぶりだな!俺がパラネラから追放された時以来だな!」
「そうじゃな・・・。」
一瞬鋭い視線が緩み、当時の無念さがオスタの心に蘇る。
「あん時はヤバかったなー!!手首の封印錠が取れないまんま上空1万メートルからダイビングだかんな!なははっ!」
「・・・・その状況からどうやって生き延びた?属性魔法も封印錠で使えないはずだったが。」
「そりゃあ簡単よ!封印錠を外したら能力も使えるからな!」
そう言って、金属質な左手をローブから出して継ぎ目を見せる。その傷跡は、まるで、、、、
「落下しながら、食い千切ったよ。自分の両手首を。骨ごと。」
リンドブルム・フォスターは、狂気の笑みを浮かべながら続ける。
「皮膚を、肉を噛み千切って、骨を噛み砕いて。顔面血まみれでさー!封印錠が取れて、千切れた腕の先から属性魔法が使えたのは笑えたね!あとは傷口焼いて、魔法で軟着陸に成功って訳よ!」
「・・・・マジか、こいつ。」
「オレ、しばらく肉喰えへんわ・・・。」
衝撃的な話しの内容に、敵側陣営だけではなく、味方側のアダリア陣営からも畏怖の感情の籠ったざわめきが起こっていた。
「リンドブル・フォスター、、、いや通り名は火狩りのフォスターじゃったか?もはや生きては返さん、そのイルミナ様の手をどうする気じゃ。」
殺気に満ち溢れたオスタは自分の愛用の杖に魔力を込めて、更に必殺の一撃を放つ為の準備に入る。
「いやいやいや!!オスターー、ちょっと気になんない?何で両手首噛みちぎって、何で右手がくっついてるのか気になんない?」
「・・・ようやく理解したで。その右手、リオのやな?」
「おっ!?ご名答ーーーー!」
「・・・どういう理屈かは分からんが、、、サツマの国を魔剣で襲撃したのは、、、」
「ご名答。」
「貴様ぁぁっ!!!!!!!!!」
「ちょっと待てっジューゾー!!!!」
故郷を一夜にして廃墟に貶めた罪人に一太刀を入れんが為、渾身の踏み込みをみせたジューゾーに、レンガがその行く手を阻む形で間に入った。
「なんやぁワレっ!?あいつ共々斬られたいんかっ!?あいつがサツマを、、」
「ちょっと落ち着けっ!!周りを見ろ!!!」
「ああん!?」
「・・・レンガ、良い判断だったわね。新しいお客様のご到着よ。」
辺りを見回すと、いつの間にか先ほどの3倍程度の白い軍団が周りを包囲しつつあった。統率の取れたその素早い行動は先ほどまでの部隊とは一線を画すレベルであり、練度の高さを感じさせる。しかもその後から続々と集結してきており、事態は悪化の一途であった。
「ルミナ!しっかりしろ!目を覚ませっ!・・・・ん?あれは?」
「・・・・・・リオ、、逃げて。」
マナの献身的な手当ての甲斐もあり、何とか意識を取り戻したルミナだったが、出血の多さと傷口から発する熱もあり動ける状態ではない。その様子を確認したオスタとオフェリアは、レンガやジューゾー達に指示を出してリオとルミナを囲む様に陣を組み、様子を伺う。
そんな中、アダリア正教徒騎士団の包囲網の中から男性が一人進み出てくる。
「なっ!?・・・あやつは!」
「なに?オスタ知ってるの?何者なの、あの色男。」
「・・・いやーこりゃ参った。。小娘一人捕まえるのに、まさかあんたほどのヤツが出てくるとはな。龍系一族のラグナル・ジークフリード。大佐やったか?」
「・・・・五代目ジューゾー・サツマ殿のお見受け致します。お噂はかねがね、、。」
「はんっっ!辛気臭いやっちゃのぅ。。。」
ジューゾーは愛刀を肩に乗せてややおどけた感じに、ラグナルは背筋を伸ばした待機姿勢。対照的な二人の会話だが、終始その緊張感の張りつめた空気が場を支配している。
「なんてこと、、じゃあこいつらの本隊って、まさか≪ラグナロク≫なの?」
ラグナル・ジークフリードの顔までは知らなくても、その名とアダリア正教徒騎士団随一の精鋭揃い、聖王の剣と呼ばれた「特務部隊ラグナロク」の存在は誰しも聞いたことはあるだろう。まさにその部隊が目の前に敵として展開している絶望的な状況が進行しつつある。
そんな中、もう一人包囲網の中から飛び出してきたかと思うと、レンガ達を一瞥して、キツい目を金髪の狂人に向けた。
「おい!!リンドブルム・フォスター!あれはどういう事じゃん!?」
ラグナルと共に軌道エレベーターに乗ってパラネラに来た、ロシオ・ハルバートであった。
「あん?どうもこうも、イルミナ・オン・タイクーンの捕縛命令の実行中だろうが。」
「・・・そちらでが怪我をされているのが、拘束対象のイルミナ・オン・タイクーン女史で間違いないのか?」
「ああラグナルちゃん。この通りちゃぁんと確保したぜ、≪封印の血族≫。」
そういうと、手に持ったすでに生気を感じられないルミナの右腕に頬を寄せて、恍惚な表情を見せた。
ロシオはその様を見てあからさまな軽蔑の表情を浮かべ、ラグナルでさえ眉をしかめる。
「・・・・フォスター。我々特務部隊が受けた命令は、≪イルミナ・オン・タイクーン≫女史の拘束のみであって、その女史を傷つけ、ましてや右手を切断するなどという命令は出ていない。」
「・・・・・・・。」
「君は、本国中枢から今回の作戦の為に一時的に我が隊に移籍しているとはいえ、私の部下である事に間違いは無い。勝手な行動は慎しめ。」
「・・・・きひ。」
「ん?」
「きひひひひひひひひひひひっ」
ゴオゥゥゥゥッ!!
「・・・ちっ!」
「うおっ!?何考えてやがるじゃん!味方も巻き込む気じゃん!?」
「ぐあああっ!?熱いっ!助けてくれっっ焼ける!!」
突然、気味の悪い笑い声を上げ始めたリンドブルム・フォスターは、周りのアダリア兵の数人を巻き込みながら身体の周りに巨大な炎の竜巻を生みだし、その狂気の火炎を膨らませていく。
「あいつ!?何がしたいんや?」
「リオネル様!イルミナ様とマナを連れて、離れておってくだされ!」
ヴォォォン!!!
大量のネオンを発現させて出来る限りのメンバーを覆うが、、、
「おい!レンガ!侍衆にその魔法シールドが掛かっていないぞ!?」
「うっさいコジューロー!万能じゃねーんだ、そこまで責任持てるか!そこは避けろよ侍なんだから。それに魔法シールドじゃねえ、転移粒子、≪ネオン≫ってんだ!」
「んなっ!?ジューゾー様以外に呼び捨てにされる覚えは、、、、」
「コジューロー!!さっさと侍衆に前衛を指示して!リオネルとイルミナの保護が第一優先よ!」
自らの扱いに大いなる疑問を持ちつつも、侍衆に指示を出して相手の混乱の隙に陣形を立て直す事が出来た。周囲を包囲されつつも、リオネルとイルミナ、マナの3人を中心に保護し、それをレンガ、オスタ、オフェリアの3人が囲み、更にその外側を侍衆と、それを率いるジューゾー、コジューローが前線に構える形となっている。
その間にもリンドブルム・フォスターを包む巨大な火炎竜巻はその勢力を増し、家屋やそこかしこに飛び火して延焼がとどまる所を知らない。
火炎竜巻の風が更に強く舞い上がり、フォスターはその風を操り中空に浮かび始める。
「ラグナル・ジークフリード・・・・きひ!」
「・・・・・・。」
「おまえら、、、ラグナロクも、、、この壮大な作戦の駒でしかない事を忘れるな。」
「・・・・壮大な作戦?」
「そうだ、、このオレは、、、中枢から派遣された特務を担う存在!そして、この右手が必要不可欠だという事を覚えておけ!」
そういうとローブから右手を出して高々と突き上げる。よく見ると、その右手の手首より下の部分に何かの呪術的な文様と、縫い目らしきものが見え隠れして、その結合が人為的なものである事が伺える。
「古より伝わる純粋な魔法の結晶、強大な魔力のシンボルとして世界に受け継がれし数々の≪魔剣≫しかしその力の解放は、封印の血族にのみ扱える秘儀として伝えられ、かの一族が力を独占する形となっていた
!」
「きひひひ、我がアダリア正教国はその力の解放の術を手に入れたのだよ!」
「あーそれがそのキモイ腕の正体か。」
「きひ!?」
燃え上がる炎の中のフォスターが、自慢げに語る壮大な計画に、緊張感の無い声で突っ込むレンガ。そしてフォスターは思わず奇声をあげて話しの腰を折られた相手を忌々しく睨みつける。
「だまれっっっ!貴様の様な下賤な輩が何を転移回るハエが!」
「はあ?確かアンタもオレと同じ転移者だったと思いますけど?はぁぁぁ????」
「レンガっ!?挑発しちゃダメェっっ!!」
売り言葉に買い言葉、バカにした態度で明らかにフォスターを挑発するレンガに驚いたマナが、慌てて制止に掛かる。せっかく敵の内部で荒れてくれてるのだから、そのまま時間を稼いで少しでもルミナの回復に充てたい。
「貴様も転移者だと・・・?どうりでおかしな術を使う。それが転移後の先天的な力か?属性は何を持っている?」
レンガが転移者だった事実は、フォスターの興味を引いただけでは無く、ラグナロクの二人も驚いたようで注目を引き、こちらを注視し始める。
「属性は、、、、転移粒子が属性だ!7大属性の適正は、、、無かった。。」
「きひっ!だーーーーーーーーっはははははは!無能者か!?よくそれで大きな態度が出来たな!?」
「て、転移者で何の属性適正も持ってないなんて、初めて聞いたじゃん。じゃあ、何でこっちの世界に来たのか。。すこし同情するじゃん。。。」
「!!・・・・・適正が、、無いだと?」
案の定の反応を見せるフォスターと、敵ながら同情を見せるロシオとは対照的に、今まで感情を出さなかったラグナルだけは、その場にいた誰とも違う反応を見せていた。
「きひひい、ひい。まったく笑わせやがる。早大な計画・・・お前とは違うオレの真の力、魔剣の解放。アダリア正教国が魔法技術を駆使して手に入れた技術が、オレとの適正を得たのだ。」
「っ違う!!貴様らは、我が祖国ユーリカから王族たち血族を拉致し、血なまぐさい人体実験を繰り返してまで力を欲した悪魔だっ!!」
「・・・それ、ほんまか?リオネル?」
「ああ、俺が幼い頃に正体不明の軍によってユーリカは制圧された。なぜか近隣諸国からの援軍は来ず、当時ユーリカの宮廷術士だったオスタによって俺はサツマへ、イルミナはパラネラへと密かに逃がされたが、相当数の王族と、巫女の、、封印の血族達がアダリアに送られた事が後になってわかった・・・。」
「そぉう!力を欲した結果だよ?もちろん、材料がしっかり揃ってたからじっくり研究出来たおかげ。でも無駄にはしてないよ、肉塊一つも無駄なく研究に使ったからねぇぇ、きひ。」
「最低ね・・・・・!」
ゴウッ!
話しを聞いていたオフェリアの手に持った火炎槍に力が入り、刃先の炎が一段と強く燃え上がる。
「・・ん?」
「・・・あら?ようやく準備が出来たみたいね?」
レンガとオフェリアが、何かの風切り音が遠くから聞こえてくるのに気が付いたタイミングで、アダリア軍側からもざわつき始める。人型の何かが、、、、こちらに向かって、、、きた!
ヒュゥゥゥゥゥ・・・・・ン・・・・ズドォォォンッ!!
「ぬぅ・・全く。調整もままならんのに、飛ばしよって。老人を労わって貰いたいもんじゃ。」
「か、カスリのおっちゃん!!!」
「おお!?なんや・・こいつ!?・・・いや後ろからぎょーさん来てるで!」
ズドォン!ズドォォン!ズドォン!
「着地、成功!!やったぜ!レンガーーー遅くなってスマン!」
「・・・・・・待たせたな。レンガ。」
「ロイド!!マシュー!!待って、、、、た、、ぜ?」
棟梁カスリを筆頭として、アダリア軍とは反対側から金属製の全身鎧を身にまとった20人弱の集団が姿を現した。全身鎧は所々から蒸気、魔気を噴出しながら稼働し、精製された魔石などが動力源として組み込まれた「魔導機構」とよばれる類の高度技術を駆使して作られた建築ギルド楔特製の「パワードスーツ」である。
「おおい、レンガ!なんだよ歯切れのわりぃリアクションだな!これかっちょいいだろ?オレ専用だぜ!!」
「ふっ・・・・・・・オレ、専用だ。」
「せ、専用機、、だろうな。」
なぜ微妙なリアクションかというと、魔導機構製の真新しい全身鎧の背中に、おおきく「ロイド・ナガタ」「マシュー・ライト」と名前がプリントされ、全身真っ赤なナガタと全身真っ青のマシューが妙に似合う様が何とも言えない。
それとは対照的に、武骨で鉛色の金属鎧のイメージをしたパワードスーツのカスリが、ルミナと治療をしているマナに気が付き駆け寄る。
「なんと!?ルミナっ!マナ、どうなんじゃ具合は!」
「ルミナの右手を、、、、あいつが、、。出血は止まったけど、私の術式なんて応急処置にしかならない。早くしっかりとした治療をしないと!」
その様子を聞いた楔のメンバーたちの怒りの感情に呼応するように、一斉にパワードスーツの戦闘リミッター解除を知らせる魔導機構の駆動音が一際大きく辺りに響く!
「・・・どうやら、アダリア軍の味方って訳やないみたいやな。」
「ほう、あんたがジューゾーの5代目か。・・・サツマのキモノが様になっとる。」
ジューゾーとカスリはお互いにニヤリと不敵な笑みを浮かべ、相通じるものを感じたようだ。
「これでようやく全員集合、、いざ決戦ってことだな。」
レンガの言葉に皆が頷き、それぞれがこれから始まる決戦に心を引き締める。
応援ありがとうございます!
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