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1章 

9芽‘花に必要な物

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 喉元には血など一滴も付いていないこぼれもなく微かに小刻みに揺れその刃先には鏡の様に写し出すひたいに汗を流し尻込みする顔つきの男たちの素顔がよく見える。翔の周りを鳥籠とりかごのように囲う、周りから見ると翔はさながら罪人である。ただその重たい甲冑かっちゅうを着る男たちは中々足を踏み出さない。その喉元に剣先が当たってしまうのではないかと言う距離でぷるぷると動かしては深呼吸しそれを何度も繰り返す。拷問ごうもんの他でもない。
 「何をしているのだ!!貴様らは!さっさとれ!」
 何故かその言葉に応戦するように翔は目を閉じて諦めたかの様にその剣に首を差し出すと、一思いにやってくれと言い出す始末。元々あの時に天国か地獄に行っていたのだ。それが早いか遅いかだけだ、それか此処ここが地獄なら全てに合点がいくのだが、翔の思いもしない行動に剣を突きつける騎士たちは慌てる様な「お前がやれ」と押し付ける始末、それもそのはず今剣先に居る翔は何も罪を犯していない反逆者でもなければ罪人でもないただの人間なのだ。そんな人間を斬って殺すなどこちらの方が罪に問われてしまうのではないかと、しかも歳は自分よりも若い青年だ何故此処で若い芽を摘まなくてはならないのかその葛藤かっとうの中で今周りにいる大人たちは人殺しの譲り合いをしているのだ。無惨で滑稽こっけいな物だ。
 「もういい、私が殺る」
 そう言いながら王の使いであるアニスがつやのある黒い手袋を外しながら殺意を躊躇ちゅうちょなく出しこちらに寄ってくる。翔は鎖をつけられているわけでもなく抵抗することは出来る筈が膝をつき瞳を閉じたままである。がそんな中一人の男がその腰元につけている立派な大剣を近付くアニスに突き立てる。その光景にアニスは動きを止める。
 「なんのつもりだ?ヒュドール、」
 その本物の剣を持つ男は先程にっこりと笑い掛けながら翔に植木鉢を渡してきた大柄で強面な男。肺に空気を入れて声を通す
 「待ってください!!陛下!この者は此方に来てまだ間もない。少し時間を置けば勇者としての力が芽生えるのではないのでしょうか?」
 このスレイ王国の国王セドウスは至って無言を貫き通す。だがヒュドールと言う男は食い下がらないそのまま上げている剣を下ろし床に捨てるとこの広い床に手をつけ膝をつきその大きな頭を地面に擦り付け
 「陛下よ!この私めが修練をつけますゆえ、それに勇者なのであれば皇芽おうばいをめざめるかもしれません。」
 「そんな物、神話の中での話であろう。貴様であろうと勝手な真似は許さぬぞ。ヒュドール」
 彼は地に頭をつけたままである。
 「どうかご賢明な判断を。」
 「ふん。失望したぞ王国騎士団長も偉くなった者だ。腹が立つ‥‥ヒュドール諸共もろとも殺れ」
 今度は無事に立つ事に成功するとその短い手を横に払い騎士たちに命じる。今彼たちはこの青年を誰が殺すかのくじ引きをしていた最中であったのに追って下すように自分たちの上司までを殺せと言われてはその強張こわばった感情に更なる嵐が巻き起こる、次第に周りは困惑の渦だ。一人は呼吸が荒くなる物もおれば、その騎士としての命であろう剣を手から滑り落としてしまう物もいる中至って翔は目を閉じて落ち着いた態度をとっている。
 「何をしているだ!私の声が聞こえぬのか!殺せと言っているのだ!殺せと!さもなくば貴様らも全員‥‥」
 セドウスは今にもその破裂しそうな顔で翔とヒュドールの周りを囲む騎士たちに怒鳴りつけるとその広い空間の中で怒号が反響する。セドウス自身も目的をわすれてしまったのか殺すことが目的になっているのか怒りで道を逸れてしまっていた。そんな中アニスは大きく手を広げて叩くと周りは催眠でも掛けられたかの様にあたり一帯は静まり返り、周りを囲む物たちは身動きすらやめた。手を叩く音で翔は瞑っていた目を開け、周りをキョロキョロと見渡す。アニスは少し笑みを浮かべ先程脱ぎ捨てた手袋を拾い羽目直すと。
 「ヒュドール殿がここまでする理由がこの青年にも何かあるのでしょう。ヒュドール殿にこの物を任せるのはどうでしょうか?陛下」
 「え?」
 翔は声が漏れてしまった。
 「何をお前まで勝手な事を言っているのだ!」
 セドウスはムキになっているだけなのかもしれない。殺さなければ気が治らないらしいまだ殺人者の方が帰って優しく思えてしまう彼自身もこんな事をする為に勇者を召還したとは思えない。その言葉を無視してアニスは「ただし、」と口を開けて喋り続ける。
 「猶予ゆうよはそこまで与える事は出来ないのでね。‥そうですね‥‥‥このトロイアス大陸には十の国が存在します。それにちなんで十日与えましょう。それまでに君に力がないと判断すれば‥‥‥‥‥あなたたちは‥‥‥わかりますね?」
 なんとも自分勝手な注文をする物であるがその与えられた猶予の中で何か力を証明しなければならない。現時点では何も持っていないのは嘘になるがあの出来事を話せばまた厄介な事になり変えない横を見ると床に擦り付けていた頭を上げヒュドールは「ありがとうございます。」と一言いいこの殺伐とした空気の世界を連れ出す様に翔の肩を引っ張るとそのままこの部屋を後にした。
 
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 その場所は先程いた気が参ってしまう様な空間とは様変わりし先を見ようとも行き止まりが見えない、窓を差し込む光だけがこの長い廊下を照らす、横を見るに翔の身長の二倍はあるのではないかと像の様な物が石の柱とともに等間隔で仁王立ちしている。杖の様な物を持ってるの物もあればその拳に何かをつけている像もいる、当然ながら長い剣を持っている像も、その像の出来前は今にも動きそうな程に迫力がある。そしてこの廊下は全体的に暗い。
 この長い廊下を二人、かたわらではその銀色に光る甲冑をこまめに揺らしては音を鳴らす。その音は翔の足音など聞こえないほどに
 「あの‥‥ヒュドールさんって言ったかな?ありがとう。」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
 至ってヒュドールは彼の顔を見ず前だけ歩き続けて当然無言である。
 怖いよ。本当に何?この人さっきまであんなに喋ってたよね。振り返ってみれば俺の言葉にだけいつも返ってくるのは無言だったよね。嫌っている?俺のこと?とゆうより此処からどうしたものか、死刑を回避できたのは幸運ではあったがここからどうやって力を証明するか、合気道なんて披露したって鼻で笑われるのがいいところだろ。最悪ふざけているのかとまたあの王様の怒りに触れて仕舞えば等々天国だ。
 その森閑しんかんとした空気で翔は頭を動かして悩ませているとふと光りが差し込む窓の前に足を止める。その窓越しに見えるのは元々いた世界とは全く持て別物、その飲み込まれる青い空の下にはレンガの建物が敷き詰められる様に連ねており、そのレンガの色は日焼けでもしたのか赤色にも茶色にも見えるそんな色のレンガで作られた道にそんな街並みに存在感を表す三つの高い建物が各所に重鎮している。翔は興奮気味に前のめりに窓に両手を触れ少し奥を見つめるとそこには噴水がありその周りは広場の様な場所であった。そこには子供たちが何かを持って遊んでいるではないか。そんな平和の象徴達がたわむれていると少し手前に目を向ける。そのレンガの道で何やら屋台を出してはこの平和な空気に黄昏てこの国の市民達が賑わっていた。
 「すげぇ。本当に違う世界なんだな。此処って、」
 この光景を見ていると少し違和感を覚えたが気にする程のものではないと思い考えるのを止める。気がつけば外に目をやられヒュドールの背中は小さくなっているではないか。少しぐらい待ってくれても良かったのではないかと翔はため息をこぼす。いそいそとその男の後ろを付けていると急に立ち止まったのだ、急にブレーキをかけられて仕舞えば翔は止まることができずその固い鎧に頭を打つと尻餅をついてしまった。でこに手をつけて
 「イタタタ‥‥‥」
 「着いたぞ、中に入ってくれ。」
 ん?俺の部屋なのかあんな仕打ちをつけられて部屋などある方がおかしいだろ。まさか俺を此処で殺すつもりだったのか、そのまま翔は頷くとその部屋に入る。ヒュドールも後を追い入って来ると、「そこに座ってくれ」と大きなソファに指を刺す。翔は言われるがままちょこんと座るとヒュドールはその重たい甲冑を脱ぎ、もう一度扉に戻ると鍵を中から閉めた。また黙りこくったまま翔の座る広めのソファに近づくと
 「すまなかった!!急にこの世界に呼びだしては挙げ句の果てに君を殺そうとしたのだ、私の部下達も悪気があったわけではないのだ。本当に‥‥すまなかった!!!」
 今翔は、その大柄な男に土下座されている。人にそんな事される経験などない翔は困った表現を浮かべ「頭を上げてくれ」と慌てたようにその男に告げる。この光景としてはあまり不思議ではない事彼自身は謝罪される側の人間であることに間違いわない。頭を下げられて当然の事だが、只、今頭を下げて擦り付けている人間には一切の迷惑など被っていないのである。どちらかと言とこのヒュドールには、お礼を此方から言わなければないらない。それに謝罪をするので有れば頭を下げるべき筈の人間は他にいるのだから。その男の頭を軽く平手でチョップすると、
 「大丈だから、それにアンタ偉いさんなんだろう?そんな簡単に頭を下げるもんじゃないよ。」
 「そうか‥‥‥感謝するよ。君は出来た人間だ。」
 ヒュドールは立ち上がりながら膝についた汚れを払いながらたたえてくれる。先ほどは一点に出来損ないと言われていたのだが‥翔は「そんなことよりも」と話を変える。
 「まずはこの状況をしっかりと説明してくれないか?馬鹿な俺でも分かるように、」
 「そうだな‥‥」
 彼は少し暗い表情のまま驚くべき事を翔に伝える。
 「今この国にいや、この世界に勇者など必要なかったのだ。そして敵国が攻めて来るのも真っ平嘘だ。まずリヅル・ゴールドとは敵対などしていない。」
 彼から飛び出す言葉に翔はまた白紙に戻ってしまった。
 「この国の王は先代とは違い傲慢なのだ。その城壁の外にある自然を葬っては勝手に領土を拡大し、他国への侵略すら考えていたのだ。だが見ての通りこの国には大層な戦力などおらず、しっかりと剣を握って戦えるものなど私を含め二人しかいない現状だった。君も見て感じて分かっただろ。私の部下は殺しとゆうものに慣れていないのだ。でもそれでいい。そんな状態で他国に攻め入っても返り討ちに会うのが目に見えている。だからこうしてこの世界にとって重要な肩書をもった勇者を呼び寄せたのだ。」
 ヒュドールは暗い面持ちで長々と事の経緯を解説してくれる。その言葉に怒りなど出て来ず呆れるばかりであった。そんな事のために勇者とゆう駒を使おうとしたのかと、そんな考えが同じ人間に出てくるなど恐怖すら感じる。
 ただその王様は、勇者を召喚する術を知らず立ち往生おうじょうしていたらしくそのまま時が過ぎればいいと思っていた矢先、ここ最近来た商人を名乗る男がその方法を知っていると王に訪ねてきた。最初は王も信じようとしなかったそのまま追い出してくれればよかったものをある日、人が変わったようにその商人を王の側近にしたのである、その商人の名はアニスと言う男であった。そして彼らはその召喚の儀式を始め、最初の方は上手く事が進んでいたのだが何者かの陥入かんにゅうによりそれは妨げられ一度目は失敗に終わってしまった。彼らは懲りずにもう一度試みるもまた失敗の兆しが見える彼達は諦めかけたところに翔がやってきたのだ。
 「ハァァァァァァァ」
 生まれて初めてこんなにも長いため息を吐いてしまった。この話が本当なら少しばから合点がいく。やはりでも引っかかる元々勇者とゆうやつが呼ばれたのなら話も全てうまくまとまるのだが俺は至って普通の人間、勇者の様なその世界の民を守る術など持っていない。自分を守るので必死なのに。翔はその話を聞き状況を把握し理解した。だが新たな疑問が波打つ様にやって来るのだ、アニスは何故その方法を知っていたのかそれにどうやって?その方法はヒュドールも知らずあの王室の中で二人でやっていたらしく終わるまで中には入れなかったらしい。
 「‥‥たがら君は此処から逃げるんだ。」
 ヒュドールは意味のわからない事を口に出した。
 「何で?」
 「何故って?って君はこのままでは殺されてしまう。そんな事あってはならないんだ君は何も悪い事をしていない。それに生きていれば元々いた世界に帰れる術を見つけれるかもしれないのだぞ。」
 ただ翔は、首を横に降る。
 「何故だ?君は見るからに勇者とゆう明確な力など持っていないのだろう。此処にい続けるのは得策ではないのだ。私が後ろ盾している村があるのだそこに君は逃げてくれ。」
 そうかも知れない。こんな所にいるよりはその場所に身を細めていた方が賢いのだろう。だがあの世界に戻る術が見つかっても俺はあの時に死んだのだからどうしようもできないじゃないか。それにその村に逃げたって追っ手が来てはその村の人たちにも迷惑をかけてしまうことになりかねない。そんな事をしてしまった日には頭が上がらないのだ。それを説明するため此処に来てしまう前の出来事をヒュドールに打ち明けた。一つを除いて、
 その出立を聞いてヒュドールはテーブルを挟む様に置いてあるもう一つのソファに腰をかけると
 「君も災難だったな。でもよく此処まで怒らずに来れたね。君は神様か何かかな?」
 とヒュドールは少し笑みをこぼしながらテーブルに置いてある冷めた飲み物を口に運ぶと前方に座る翔は徐に席を立ち大きな窓の方に足をおごかす
 「だから何遍なんべんも言ってるだろ?人間だよ。疫病神はついてるかもな。」
 その窓を室内から覗くに先程の光景とは違いこの建物の裏側なのか建物はそれほど多くはない、この自分がいる建物の影に隠れてしまうぐらいの数。その窓を開けるとバルコニーになっており外に出られるのだ。久々の風が頬をあたり心が落ち着くのが分かる。遠くをみるに何もない草原が広がり目を凝らしているとその先には小さな建物がある。そのバルコニーの手摺に肘をつきその手に顎を乗せて、この広がる光景を眺めながらふと思い出す。
 「敦紫は無事なのかな、それに結局、結朱華にはプレゼント渡せなかった。とゆうか買ってもないのか。どうしようもないな俺は」
 その風当たりがいいバルコニーに一人の青年が呆れた様に苦笑いを浮かべていると後ろからヒュドールもやって来た。
 「これは驚いた、このテラスにはあまり風が吹かないのだがな、こんな風が吹くこともあるのだな。」
 「何を言ってるだよ。建物が高いと風が吹くのも当然だろ。」
 この部屋に住んでいるヒュドールはこのバルコニーに余り出ないのだ。出たところで意味がないからそれに高い場所であるため風が吹いたとしても殴る様な強さの風だけこの眠たくなる様な心地のいいような風がこの場所に流れるのは初めてであった為少し驚いたのだ。そして少し暗い顔をしている青年に
 「君は一人じゃないからね私がついているしっかり稽古をつけてやろうではないか。」
 「大丈夫だよ。無理しなくてもそれに独りは慣れてるし。」
 そう言えばこんな事を零花さんが言っていた様な気がする。無事なのかなどうせなら‥‥
 「君は魔法が使えないのだね?」
 ヒュドールは空気が読めないのか現実に戻して来る。当然翔は魔法など使えないが、あの事故の出来事が魔法なら話は別だがあれは一体何だったろうか。こんな事を話せば帰ってめんどくさくなるので少し濁して聞いてみることに
 「なぁヒュドールさんよ。例えば何か物に触れてその物自体が影響を与える魔法なんてあったりするのか?」
 「そんな魔法な様な魔法はこの世にないよ。あるのか?君がいた世界には?」
 翔も見てニコッと微笑む。そんな物はない、とゆうか魔法が元々いた世界にはないのだから
 「ないよ、そんな物。」
 「そうか、この世界の魔法とは何もない場所に何かを生み出す事ができるのが魔法だ。現に此処のあたり一体にも魔力が散っているのだそれを見て感じて操り、この様に」
 そうゆうとヒュドールは大きな手を胸の辺りまで持って来るとその手の上にはなにもなかったのにも関わらず水の玉の様なものが出来上がって来る。正しく不思議な光景だ、少し憧れてしまう。その光景を見て鏡の様に翔も真似してみるのだが手の上には何も出て来ないそれに何も見えない。がっかりしている翔に追い打ちをかける様に、ヒュドールは
 「こんな事もできるんだよ」
 そう言うとヒュドールは手にある水の玉を空中に浮かせ、宙に浮いてある水玉を中指で軽く弾くとその水玉は遥か上に飛び上がりそして指を鳴らす上空にあった水玉はそこで花火の様に弾け飛ぶとこの自身らの上空には微かに小さな虹を作りあげた。
 「すげぇ、」
 翔はその虹に目を奪われてしまうが、フフっと笑い声が聞こえ目を下に向けるとヒュドールはドヤ顔をしているのだ。また翔は肩を落としてしまう。
 「クソ、悔しいけどすげぇな、これが魔法か」
 「そうだよ、この世には六つの属性があるのだ。私が使えるのは水‥‥そして私は使えないが火、風、土、闇、光、がある。まずそもそも魔法が使えないのはあまり珍しくない事なんだ、気を落とさないでくれ、」
 そう言う事らしいこの世界では魔法が使えると言うのは、この世界に舞っている魔力が見れる者は意外と多いのだがそれを操るとなると別の話らしいそれが出来てやっと魔法が使えると言う仕組みらしい。現に俺には何も見えないからな当然なのであろう。それに、
 「そう言えば、さっきの腹黒執事が言っていた‥‥あの‥‥なんだっけ?リ‥‥なんとかって奴」
 「あぁ、リゲイトの事かあれは流石に私もビックリしてしまったよ。だが君のいた世界にはそんな物なかったのだろう?ならば至極真っ当な事だ。」
 この世界にはリゲイトと言うこの世界にいる生物が必ず持っているとされている能力、その能力には多種多様な力があり、家を建てる、料理を作る、武器を作る、はたまた絵が上手いだの、走るのが早いなど、歌が上手いだの、そのほかにも無限大数の力が個々に一つ所持していると言う物。そこまでそれが必要な事なのかはさっぱりだ。だがそんな能力を人に危害を加える様な使い方をする輩がいるとゆう事も忘れないでほしい。
 そして翔自身はそのリゲイトも所有しておらず魔法も使えないときた。そんな自分をこれからどうやって力の証明をしていけば良いのか甚だ疑問ではあるが、もう一つ気になっていた事があった為ヒュドールに問いてみる。
 「なぁこの世界には武術はあるのか?」
 ヒュドールは頭を傾げて「ぶじゅつ?」と答える。その世界にはその様な物はなく、自分の身を守るために魔法を使い、剣を手に取り、はたまたリゲイトを使いとまあ武術の助け入る隙はない様だ。ただ他の国には体術に優れている人間もいると聞いたのでそこには顔を出してみたいと思う翔であった。
 「翔殿は、これから稽古をする羽目になってしまうが構わないのか?今からなら遅くないんだぞ。」
 「だからいいって、それにヒュドールさん。ちょっと手を貸してもらっても?」
 何故?と言う言葉を吐きながら疑いもなく手を刺し出した。翔はその大きな手に握手をするとそのまま腕を振り引っ張る様にこちらに腕を引き寄せた。普通なら自身の体よりも遥かに小さい男がこんな事をしても何も起きないそれに踏ん張る事だって出来るはずなのにヒュドールは握手をされた途端力が全く入らなくなってしまっていた、そんな状態で引っ張られてしまうと前に倒れそうになる。そして翔は体をひらりと横に移動させてそのままヒュドールはバルコニーの石の床にうつ伏せのままダイブしてしまう。その落下直後には悲痛な叫びが小さく聞こえてきた。
 「それが君の世界の魔法なのかな、中々厄介だね。これなら力の証明になるかもしれないよ?」
 「魔法じゃないさ、ただの武術さこれは。それに人を傷つけるための物じゃないからな。」
 矛盾が生じてしまった。今まさにヒュドールはその大きな体をむくりと立ち上がらせると顔を見るに鼻血が出ていた。それもそのはずだ顔からこの石の床に叩き落ちのだから、
 「今君がやっている事はその言葉に該当しないのかな?」
 頭を抱えよろけながら手摺りに肩を貸しては出ている鼻血を袖で拭く。
 「そうだな八つ当たりだ。すまん!」
 そんなどうしようもない言い逃れを笑って許してくれる
 空を見るにその日は瞬く間に色を変え燃える様な赤さになっていると段々その夕日は姿を消そうとしている夜になるのも時間の問題だ。彼らもこのまま外に居続けると体を冷やしてしまうと言う事なので中に入り、翔が住む様に指定された部屋へと案内された。
 そして彼は案内してくれたヒュドールにお礼をゆうとそのまま大きなベットにダイブする。疲れているのであろう。すぐさま翔はその瞳を閉じて眠ってしまった。今日の出来事がどうか夢である様にと切に願いながら
 
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