8 / 64
第一章『大規模盗賊団討伐作戦』
六話「問題と問題」
しおりを挟むレイリィとのお茶会の翌日。討伐作戦も明後日と迫る中、執務室で椅子にのけぞってうたた寝していると我らが万能秘書、【快刀乱麻】と名高いシーファが部屋にやってきた。まあ私が勝手に心の中で呼んでるだけなんだけど。
「マスター……」
「……やあシーファ。ご機嫌はいかが?私はちょうどこのギルドの将来について考えていたところで心は希望に満ちあふれているよ!こうやって天を仰ぐと考えがまとまってくるのだ!!」
「苦しい誤魔化しはしないでもよろしいです。それよりマスター、悪い話と悪い話、どちらからお聞きになりたいですか?」
流石シーファ受け流しが冷たい。それと二択が二択になってないよ。
「えーっと、じゃあ、悪い話から?」
「はい。冒険者協会からのご連絡です。盗賊団討伐の件ですが、偵察の結果予想以上に大規模かつ強力な盗賊団であることが判明した為、討代隊の人数を増やしたいとのことです。協会側でも追加依頼を出すようですが、ギルドからも数人追加してほしいそうです」
「うわ……まじかー」
「まじです」
折角働いて人員の選抜をしたというのに。そもそも、うちもそこまで大きなギルドじゃないからそんなに人いないよ。みんな忙しそうだしさぁ。
もっかいシーファに人員の絞り込みしてもらわないと。
「で、悪い話は?」
「セブンさんから今朝連絡がありました。マスターには繋がらなかったそうで」
「たぶん寝てたなぁ」
「帰ってくる途中に寄った町でトラブルがあり、帝都に帰ってくるのが遅れるそうです。具体的には二週間ほどになる予定だとおっしゃっていました」
「……まじか」
「まじです」
最悪じゃん……
セブン……つまり弟達〈黄金の隕石〉の到着が遅れるということは、ギリギリ帰ってくるだろうと討伐隊に選んだメルが討伐に参加できないということ。つまり、最高戦力がいなくなり、討伐隊の戦力がガタ落ちするということである。
これはたぶん、想像以上にやばい。
何せ、冒険者協会がやばいと言っているのだ。念には念を、若干過剰戦力になるくらいの戦力を確保しておかなければ、安全は保証できない。
冒険者という職業はその仕事柄当然、一般の人よりも危険にさらされている機会は多い。
魔獣や盗賊団と戦うことはもちろん、冒険者の本分である遺跡探索には多大な危険が伴う。遺跡の中にいる魔物は強いし、凶悪なトラップもある。少しでも気を抜けば、それが命取りとなるのだ。冒険者達だってそれを重々承知した上で、冒険者をやっている。それは当然のことではあるが、それでも私は周りに怪我人や死人が出るのは気分が悪い。
私自身が危ない目に合うのは嫌だ。それと同じくらい、パーティメンバーや、ギルドメンバーが危ない目にあうのは嫌なのだ。
当たり前な感情に思えて、冒険者達はそのへんの感覚が鈍っている奴が多い。
「どどどうしようシーファ、メルちゃん絶対間に合わないじゃん。うちのギルドに行けそうな強い子まだいたっけ!?というか、追加って何人追加するの?」
「予定では、五名ほど……できれば星四以上を一人は選出するのが好ましいですが、皆さん帝都には居らず……一人、リウさんがいるにはいるのですが……」
「ですが?」
「有給です」
「有給……」
有給???
冒険者に有給制度なんてあったっけ???
「マスターがギルドの福利厚生はしっかりするようにとおっしゃったんですよ。他のギルドで有給があるところはほとんど聞いたことがありません。ちなみに先程駄目元で連絡してみましたが全く繋がりませんでした」
「過去の自分が憎い……」
というより全く覚えてない……
いや冒険者に有給なんて絶対いらないでしょ。なくそうよそんなの。
シーファは執務室に置かれている自分の作業机の隣に、来てからずっと足元に置いていた大きな箱を置いた。それから何かしらの資料と通信機を取り出すと、それを素早く見ながら誰かに連絡を取り始めた。
多分、他の事務員の人達と協会の方の担当者だろう。通信機に取り付けられている通石には様々な色があり、あれは確かシーファの内部連絡用と協会連絡用だったはずだ。
「星三、星二冒険者の中でも実力の高い者達を選出しましょう。それと……マスター、何か、お考えがあってのことだとは思うのですが……状況が状況ですので……」
シーファは作業の手を止め、私に視線を向けた。
覚悟と、迷いと……あとはちょっと悔しそう?
仕事が万能なクールビューティー、シーファ・フレリィヤがここまで悔しそうにするのは珍しい。
彼女は基本仕事はいつも完璧にこなし、このギルドの経営だって最悪彼女の腕一本だけでもつつがなくやっていける程だ。私は「ギルドマスター」でなければ出来ないこと以外はほぼしていない「お飾り」のようなものである。
そんな彼女が、まるで私に手助けを乞い、自らの無力を悔いるような表情をしている。ように見える。
何度か言いよどみ、やはり悔しそうに眉を寄せながら、シーファはついにこう、私に言った。
「マスター、ギルドハウスにいるキースさんの、討伐隊参加をお願いできませんか」
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる