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第一章『大規模盗賊団討伐作戦』
十七話「窃盗と待機」
しおりを挟むこの拠点は複数の事象が重なり合うことで非常に発見されづらくなっている。
第一に、入り口が非常に狭く見つかりづらい。遺跡内の廃屋の地下入り口の、端にある瓦礫を少し退かすと細く下に伸びる道がある。出入りの際に不便すぎるため後から遺跡外に通路を作ったが、そちらも木の根と長い草に紛れて目視で見つけるのは不可能である。
第二に、遺跡の特性である。拠点の位置としては遺跡の下、遺跡内ではないため外から探索魔法を使われれば反応してしまう。だが、この「竹林の住まう村」は特殊な遺跡で、遺跡内に生えている魔力抵抗の高い竹の地下茎は遺跡外の地下にまで伸びている。
そもそも遺跡の真下の空間ということで遠くからは探知しにくい上に、もし反応があったとしても竹の地下茎による反応との判別が難しいのである。このような地下空間があること自体知られていない状態では、わざわざその反応を地下茎以外のものかもしれないと疑うことすらないだろう。
第三に、ここがレベル二の危険度の低い遺跡だという点である。冒険者の出入りはその分多い。しかしながら、来る冒険者はほとんどが星ニから星三。
この遺跡にはこれといって高く売れる素材はなく、遺物もあるにはあるが、よく出回るような弱い遺物がごく稀に見つかるだけで、それも冒険者の多さから競争率が高く手に入れるのは難しい。
高ランクの冒険者には旨味が少ないこの遺跡には、訓練目的の弱い冒険者くらいしか来ないのだ。そんな奴らの稚拙な探索ではこの拠点を見つけることは不可能である。
このような特性から、この拠点は身を隠すのに最適な場所となっているのである。
本格的な捜索が行われれば見つかるのも時間の問題となってしまうだろうが、そうなってしまったとしても魔道具で怪しい動きは感知できる。逃げるための時間稼ぎは十二分にできるため、たとえ存在に気付かれても捕まることはない。
(キースも惜しかったなぁ。まー、答えあげたからそろそろ来るか)
だが、リオの手にかかればこんな場所、特定に手こずることさえなかった。
ギルと共に帝都へと向かっていた彼は遺跡に蠢く不審な反応に気がついていた。ユーリスから共有されていたクリアやキースの状況からして、その反応が彼女達が追っている盗賊団だということは明白だったため「ここまで冒険者達を欺くのであれば何か面白いものを持っているかもしれない」と一人拠点へ忍び込んだ。
キースがこの拠点にすぐに気がつけなかったのは仕方のないことだ。彼の本職は「魔道技師」であってシーフでも偵察でもない、それに「魔道具研究発表会」の準備の合間を縫っての討伐作戦参加である。
かなり精神的疲労が溜まっておりコンディションは悪い方だろう。魔道技師にそこまでの能力を求めるのは酷だ。
それにしても、協会の連中が手こずっているのは情けない話である。だがそのお陰でリオが遺物を手に入れるチャンスが生まれた。
リオは、高性能だがキースの作るものには劣る魔道具も、範囲型隠密系の遺物も興味はなかったが、一つだけ、頭領シュゼットが使っているもう一つの遺物が彼の関心を引いた。
(早くしねーとな。キースが来る前に盗っとかねーと)
遺物の場合、盗品であれ闇市の品であれ盗賊が所持していたものは全て協会が引き取る。冒険者がそれを勝手に持ち出した場合は罪に問われ、重い処罰の場合は冒険者資格の剥奪や窃盗罪での逮捕もあり得る。
つまり、「協会に見つかる前に盗む」必要がある。
「ねえリオ。魔封じ外さないでって、なんで?流石に取っときたいんだけど」
魔封じがついている右手をぐるぐる回しながらクリアが小声で問う。
リオは黙ってにっこりと笑っておいた。
クリアが魔封じを外せば盗賊の魔道具にその魔力が反応し、クリアが拘束を逃れたことがバレる。ちゃっちゃと遺物を盗んでずらかりたいリオにとって、盗賊達を警戒させると面倒なのだ。
「クリアはそこでじーっと待ってて?遺物はちゃんと取り返してくるから」
「あ、本当?じゃあ任せるわ。お願いねー」
キース達の討伐作戦を乱すのは本意ではない。この討伐が失敗すればシャルティエ支部はかなり荒れるだろう。その余波がリオまで来ないとは言い切れない。
クリアの様子は拠点に運び込まれてからずっと見ていたため、遺物を盗んだ男の顔も見ている。そこまでの手間じゃない。
なるべく影響少なめで、さっと終わらせよう。一人くらいはヤッても大丈夫か。
そんなことをつらつらと考えながら、リオは暗間に紛れて行動を開始した。
+++
いやー、本当にリオがいて良かった。
どんな遺物が欲しくてここにいるのかとか、それって本来アウトな行為じゃないのとか、色々聞きたいことと言いたいことはあったが、まあ私も人のこと言えないグレーな盗品漁りをいつもやってるからあまり強く言えない。
せっかく彼がやる気なんだから、あんまり気を削ぐようなことは言わない方が良いのだ。急に「やーめた」とか言いかねないから。
ところでなぜ彼はこれだけ堂々と拠点のど真ん中にいてバレていないのかといえば、彼が着ている灰色のパーカー、あれが『隠密パーカー』という遺物だからである。
かなり性能の良い遺物で、魔力をほぼ完全に隠蔽できるほか、視覚や聴覚による認識も若干阻害してくれる。私の「隠密マント』よりちょっとだけ有能だ。
そこに彼の隠密技術が合わされば、そこらの盗賊では彼に気付くことなど不可能なのだ。
リオがいるのであれば私の盗られた『魔力障壁生成用リング』は無事に帰ってくるだろうし、その間心許ない防御面も、流石にリオでもパーティメンバーを見殺しにはしないだろうからいざという時は守ってくれるはずだ。
……とはいえ、防御は無し、魔力が使えないから隠密系の遺物も、というかほぼ全ての遺物が使えない状況のため、不安と恐怖は半端ない。
早く戻ってきてリオ!キースでもいいよ!早く助けに来てぇ!!
…………はぁ。叫んだら盗賊が来るから口パクだけど。
ちなみにギルドへの連絡は私の耳に付いた通信機をリオが触って発動することで発信した。今日は討伐作戦当日だし、すぐに来てついでに助けてもらえるだろう。
誰か本当に早く来て一。早くしないと私死んじゃう。
盗賊に見つかってしまえばで私の死亡は確定してしまうのだ。いや、いざとなればさっと魔封じを外して、遺物で応戦を……無理だ、戦闘センス皆無だし、怪しい動きをした時点で即殺される。
私がいる場所は薄暗く静かで人気もないが、たぶん隣の明るい方には盗賊がいっぱいいる。いつこっちに来て、私の縄が外されていることに気が付かれるか分からない。
そもそもどれくらいいるのかも分からないし、向こうがどうなっているのかも分からない。なーんにも分からないので、本当にただ気付かれないように縮こまっているしかない。
せめて端っこに寄っておこうか……土壁にぴったりと身を寄せ、手足を後ろに回して横になる。
こうすれば多少は暗さで縄ついてないこと誤魔化せるでしょ、たぶん。
あー、なんかほんのり揺れが伝わってくる。上に冒険者がいるのかな。それとも竹が生える時の振動?
どうでもいいけど、こうしてると眠くなってくるな……さっきまで寝てたのに……今絶賛命の危機なのに……
…………ぐう。
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