黄金と新星〜一般人系ギルドマスターのなるべく働きたくない日々〜

暮々多小鳥

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第一章『大規模盗賊団討伐作戦』

二十二話「煙幕と誤算」

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 幹部二人がやられた。
 他の仲間達もあらかたやられ始めている。

 シュゼットはさっと周りに目を配り、己の劣勢を理解した。この二人の冒険者と対峙した時にああ大口を叩いたものの、シュゼット一人では勝てるかどうかは五分五分……いや、少し厳しいだろうということは感じ取っていた。

 少しやり合ってみて分かったのは、キースの存在がかなり厄介だということだ。
 純粋な力押しの戦闘タイプならまだ良かった。キースは魔道具による味方へのサポートと敵の妨害を得意としている。しかも頭が良く戦況をよく理解している。

 シュゼットは始めから、この正面衝突で冒険者全員を倒せるとは思っていなかった。
 冒険者側も準備を整えてきている。いくらこちらの準備も万端で、シュゼットも自分の強さに自信があるとはいえ、シュゼットは自分が誰よりも強いとは思っていない。上には上がいる。そして、冒険者側はそのを連れてくる可能性が高いと管戒していた。

 そのため、シュゼットは折を見て自身と数名で逃亡する予定であった。
 流石にここまで仲間がやられ、さらに連れて行こうと思っていた幹部二名までこうあっさりとやられるとは思っていなかったが。

 シュゼットはにい、と笑みを深める。

 拳大の玉を取り出すと地面に叩きつけた。

「! え、煙幕……」

 シュゼットを中心に煙は瞬く間に洞窟全体へと広がった。
 この煙幕は魔力を含む石の砂塵を混ぜてある。探索魔法も妨害してくれる代物だ。

 シュゼットは南へ向かって走り出した。
 冒険者達は煙幕を張る直前に魔道具で確認した位置を頼りに避けていく。鉢合わせたとしてもシュゼットに一対一で勝てる冒険者はあの二人以外にはいない。走りつつ追加で煙弾を撒き、煙を濃くする。

『ボ、ボスが煙幕を、張りました!今晴らすので、落ち着いて、ください!』

「俺はボスを追う」

「お、お願いします」

 ルグがシュゼットが逃げた方角へ走り出す。

 キースはリュックをまさぐると膝ほどの高さはあるだろう箱型の魔道具を取り出し、ボタンを押した。
 中央のプロペラが回りだし煙が吸い込まれていく。

「これじゃ、遅いかな……」

 キースもシュゼットを追いかけつつ、所々に同じ魔道具を設置していく。

「ぐぁあっ!」

 冒険者を大剣で弾き飛ばし、シュゼットは南にある遺跡内へと繋がる出口へ向かう。
 北の出口に集めた荷物と仲間は余裕があれば北から逃げようとしていただけだ。損害が大きい今、あの荷物を持って外にも待ち構えているであろう冒険者達の包囲網を抜けるのは無理だ。

 南の通路付近に必要最低限のものはまとめてある。
 逃げる数人には煙幕が張られたらそこへ集まるように言ってあるが、どれほど集まるかは分からない。最悪シュゼット一人で逃げるつもりだ。

 そもそも、その内の一人であるビジャンは冒険者達が入ってくる少し前から姿を見ていない。確か捕らえた女の様子を見てくると言った後からだ。あの女を置いていたのは通路の横にある空洞だ。そこを見ていなければ置いていく。

 洞窟の南側までやってきて、ゾクリとした感触に襲われた。

 今までで感じたことのないほどの莫大な魔力。
 バッと横を見る。そこは通路の隣に空いた空洞だ。
 煙幕がそこまで流れ込んでいるのか、中の様子は煙に遮られて分かりづらい。だがこちら側と比べるとぼんやりとだが見通しが立った。

 二つの金色が浮かんでいた。

 否、金色の瞳を持った女がこちらをじっと眺めていた。

 驚き中の様子を探ると、女の横に冒険者が二名、そして地面にビジャンとベイドが倒れ、縛られていた。

「くそっ」

 二人を助ける余裕はない。強烈な不安が心を支配し、出口へと急ぐ。壁にぽっかりと空く穴の奥には、細く狭いたて穴のような道がある、はず……

「なっ……!?」

 その道は、何本ものによって塞がっていた。

 この道はほとんど遺跡内に入っている。ちょうど降りてきたところ辺りがその境目である。
 遺跡の特徴として、竹が急成長して地面から生えてくる。この竹は遺跡内であれば外も廃屋の中も窪んだ洞窟の天井さえも、地下茎が通っていればどこからでも生えてくる。それはこの通路とて同じであった。

 この場所を発見した時、通路は塞がっていた。なんとか竹を取り除き、地下の空間を見つけて拠点にした。ただ放置しておくとすぐに竹で塞がってしまうため、シュゼットはとあるでそれを防いでいた。

「っ、あの、金眼……!!」

 遺物は見つけにくい場所に設置していた。ここまで竹が生えているということは、数分前に盗まれたのではなさそうである。
 となると、あの女が盗んだとしか考えられなかった。ビジャンも厄介な奴を連れてきてくれたものだ。いや、それすらあの女の手の内だったのかもしれない。

 あの女と冒険者が手を組んでいる可能性は高い。この拠点が早く発見されたことも、あの女が何かしたに違いない。

「! くっ、」

 背後から魔法による礫が飛んでくる。
 大剣で防ぎ振り向くと、追ってきたルグの他にも何名かの冒険者が集まってきている。
 なけなしの煙幕を追加で投げるが、この距離の近さでは意味がない。

 冒険者を振り切って北の出口まで逃げるのは難しいだろう。煙幕ももう無い。
 竹を切って取り除くか。だが、魔力を含んだ硬い竹はシュゼットの大剣でも切れづらい。

 ……ならば、ここにいる冒険者どもを全て斬り伏せるのみだ。

 自らの敗北を悟りつつ、シュゼットはニヤリと笑って剣を構えた。



 +++



 なんか煙が流れ込んで来てるんだけど……大丈夫かな?みんな……

「拘束完了しました、マスター」

「あのなあ、寝る前に拘束くらいはしといてくれんかマスター」

「え?……あは、ごめんね」

 それはリオに言ってくださいな。

 でもリオがいたことはあまり知られない方が良いだろう。もういないってことは、欲しいもの持って帰ったってことだろうし……万がーリオの盗みがバレた時、それを容認した私まで怒られそうだから、知られないに越したことはない。

 数分前、ゆさゆさと身体を揺すられて起きてみると、メイナとバルダンが私を呆れた目で見つめていた。いつの間にか討伐が始まっていたようだ。
 リオの姿は既になく、手には『魔力壁生成用リング』が、そして傍らには私を攫ったうちの二人が気絶した状態で転がっていた。

「ん……こりゃ、認識妨害の煙幕だな。探知が上手くいかん」

「盗賊達が逃亡を謀ったのでしょうか。大丈夫ですかね?」

「うーん……」

 まぁ、キースがいるなら大丈夫でしょ。
 二人は真っ先にここに来たため状況はよく分からないらしいが、探知してみたところは順調そうだったという話だ。
 二人ともソロで星三まで上り詰めた実力者だし、探知探索に優れているから間違いないだろう。

 私は煙幕があってもなくても外の様子は分からない。どうなってるんだろう……じぃっと入り口の穴を見つめてみるが当然何も分からない。煙幕で見えないし。

 とりあえずここにいれば安全そうだし、討伐終わるまでここで待ってようかな。

「私はここにいるけど、二人はどうする?ここにいてもいいし……というかいて欲しいけど……向こうの応援に行くならそれでもいいよ」

 できれば私を守るためにどっちかは残って欲しいのだが、あんまりわがまま言って討伐作戦の足を引っ張るのは不本意だからね……
『魔力壁生成用リング』もあるし、討伐の間くらいは一人でも生き残れそうだから、隅っこで気配を消していれば何とかなる。たぶん。

「そうですね……とりあえずキースさんに連絡を入れてみます。たぶん応援に向かうとは思いますが……」

 だよねえ。

「ここでサボってる訳にもいかんからな」

 真面目だねぇ。

「マスターもどうだ?今からでも参加すれば報酬はもらえると思うが」

「いやー、私は別にお金に困ってないし攫われてきただけ……っ!?」

 ドン、と近くで大きな音がし、振動が伝わってきた。

「すぐそこでキースさん含め数人の冒険者が盗賊団のボスと交戦中です!すぐに来てほしいとのことです!」

「じゃ、気が向いたら来な、マスター」

「いってらっしゃーい、頑張ってねー」

 私は行かないよ。
 逃げようとした敵に冒険者達が負けるはずがない。キースがいるなら決着もすぐに着くだろうし、勝利は間違いない。うん。

 ……頑張れ、みんな!私にはここで応援していることしかできません!!
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