黄金と新星〜一般人系ギルドマスターのなるべく働きたくない日々〜

暮々多小鳥

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第二章『冒険者新人研修会』

三十話「後輩と予言」

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「あー……たぶん、指輪のことは私の情緒不安定が原因だと思うから……大丈夫だよ、たぶん」

 協会からギルドに戻るまでの道中、ユーリスはずっと下を向いて考え込んでいた。

 私だって、あんなこと言われちゃうとちょっと気味悪いけど……ユーリスを心配させるのは不本意だし、思い当たる節もあるし……

「……うん、今日の姉さんは冒険者辞めるとか言い出してたし、ちょっと気分が沈んでるのかなとは思ってたから、僕もそれが原因だとは思う。一応その銀髪の人物のことも調べてみるから……」

 ぽんとユーリスが私の両方に手を置く。

「姉さん、辛いことがあったら僕に言ってね。本当に冒険者を辞めたいなら僕は止めないし、僕が養うから。僕はいつでも姉さんの味方だからね」

「あ、うん、ありがとう……」

 ……情緒不安定が原因だとしても、相当悩んでると思われて心配されてるな、これ。
 確かに冒険者辞めたいとは本気で思ったけど、そこまで深刻に思い詰めてはいないんだけどなぁ。

 とりあえず今は辞めるより先に無能脱却を目指さなければ。

 ユーリスはギルドハウス三階の事務室へと向かい、取り残された私は吹き抜けになっている二階から一階のロビーをぼーっと眺めていた。

 まぁ、今日も別に、やる事ないし…………
 執務室に戻ればいいんだけど……今は読みたいゴシップ誌も小説もないし、戻っても寝るだけだからなぁ。仕事は、うん、多分あるけど、あるんだけど……しなきゃいけないんだけど……

 リオはたぶん、今も執務室にいる。今朝はソファで寝てた。キースはここ数日研究室に篭りっぱなしだ。討伐作戦の時にかなーり無理して色んな人と話してたからね……ちょっと前では考えられなかったような成長だ。でもその反動でまた引き篭もっちゃった。発表会の準備も忙しいって言ってたかな。
 メルちゃんは今日取材があるって言ってたし、アンナは魔道研究所の人に捕まって引っ張られていったでしょ……
 ギルは……どこにいるんだろう。まぁ、どこかで誰かと戦うか訓練でもしてるんだろう。

 やっぱり、私以外のメンバー達はかなり忙しそうにしてるんだよなぁ。

 こんなに暇そうにしてるのはギルドメンバー全体でも私だけなのでは……

 あ。

「あ、おーいスピカー」

 ロビーにちらほらといる冒険者達の頭の中から遠くからでも目立つ白髪を見つけ、上から声をかける。
 名前を呼ばれた彼女は上を仰いで私を見つけると、にこ、と笑って上まで上がってきてくれた。

「お久しぶりです、クリア先輩」

「うん。この間はうちのパーティについて行ってくれてありがとうね」

 白い髪に白い肌、赤い瞳を縁取る金色の輪。
 我がギルドの星五冒険者にして占いと補助魔法を得意とする占術師のスピカだ。

 先日、私とキースを除いた〈黄金の隕石〉と共にレベル五の遺跡「真宵の薔薇園」に行き、素材回収の依頼を受けていたのも彼女である。

「いえ、元々私が行きたいと思っていた遺跡だったので……非常に勉強にもなりましたし……」

「でも、大変だったでしょ?自由人ばっかりだから……途中逸れたりもしたらしいし……帰りもなんか、大変だったんでしょ?」

 先日、酒場でパーティメンバーから聞いた話は各々説明下手か酔っ払っているかで支離滅裂になっておりよく分からなかったが、いつもの様子からして予定通りに依頼の進行ができていたとは思えない。

 どうせギルが我慢できずに敵へ襲いかかったり、リオが勝手に消えたり、アンナが迷子になったりしたんだろう。

 帰りが遅くなったことについては…………

「いえ!あの、トラブルはつきものですし……〈隕石〉の皆様は……えーと……ご自分のペースを大切にされる方々ですが、依頼には真面目に取り組んでいらっしゃいましたし……」

 全力で後輩に気を使われてるじゃん。

「帰りは、あの、「例の組織」関連でしたから……」

「……例の組織」

「はい、例の組織……」

 …………うん。

 わからんよ。「例の組織」って何よ。どこの共通認識なのよ。
 メンバー達もみんな口を揃えてそう説明するんだけども。

「例の組織が……えーと、いたんだっけ?」

「実際にいたのは数人だったのですが……かなり町への被害が大きかったのです。例の組織の被害はかなり、厄介ですので……」

「あぁ……」

 そうなの。厄介なのね……例の組織……

 とりあえず後でユーリスに聞いておこうか。ユーリスなら私でも分かりやすく説明してくれるだろうし。

 流石にスピカには聞けない。こんな良い子で素直な後輩に、あまり情けない姿を見せたくはない。
 まぁ、もう手遅れ感はありますけどもね……

「えーと……あ、そうだ。急なお願いで申し訳ないんだけどさ、私のこと、占ってくれないかな?簡単にで良いんだけど……」

「あ、はい。もちろんです。えぇと……では、水晶を使いますね」

 スピカはありとあらゆる占いに精通している占術師だ。その的中率はかなりのもので、予言と言っても過言ではないらしい。
 私の普段占ってもらっている感覚からすると、大体七割くらいは当たる。二分の一の超えているのだから適当ではないということだ。すごい。

「えー……うーん…………」

 スピカは水晶玉を取り出すと両手に乗せて持ち、じっと眺めながら唸っている。

「うぅ……これは……」

 おお?

「……これから先、荒れます。たぶん」

「……荒れますか」

 これはあまり、良くないということだよね?

「なんか……ナイフ……?と、金色……に、気をつけていただいて……」

「ほう……」

 ナイフね。刃物は危ないからね。
 金色……金色のものに気をつけろってこと?

「うぅ、すみませんクリア先輩。どうしても先輩関連のことはよく見えなくて……曖昧な答えになってしまって……」

「いやいや、占いってそういうものなんでしょ?それにスピカの占いはよく当たるから」

「必中にならず申し訳ないです……」

「スピカの占いはすごいよ?役に立ってるよ?」

 真面目というか、責任感が強いというか……どうも自己肯定感の低い子なのよね。
 占いなんて必中させるようなもんじゃないって。

 でも、そっかぁ。荒れるのかぁ。

 さっき不穏なこと言われたし、新人研修会も不安だったから聞いてみたものの、あんまり良くなさそうな占い結果になってしまった。
 ……まあでも、所詮は占いだものね……うん、こういうのは気持ち半分で頭の片隅に入れておくくらいが丁度良いよね……

「占ってくれてありがとうスピカ。今度またスイーツでも奢るね」

「少しでもお役に立てていれば嬉しいです。私にできることでしたら、またいつでもおっしゃってください」

 そう言って控えめに微笑んだスピカは、私に深くお辞儀をしてから下へと降りて行った。

 ……さて、私も執務室戻ろうかな……ナイフと金色が危ないって言うんなら、部屋に閉じこもってるしかないね。うん。

 私の目は金色じゃないし、金色のものもそうそう無いし!刃物には常日頃から気をつけてるし!
 でも占いといえどもユーリスにはちゃんと相談しておこうね!……ちょっと怖いし。
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