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第一章
12 黒い狼
しおりを挟む「おかあたまー!!」
テラスに行くと、サミアンが弾むボールの様な勢いで、胸に飛び込んできた。
「おはようサミアン、いい子にしてた? 昨日はごめんね」
サミアンは俺の胸に顔を擦り付け、高速でしっぽを振っている。
(そんなに振ったらもげちゃうよ!)
俺と同じ部屋で生活するようになってから、ずっと同じベッドで寝ていたので、昨日はきっと、よく眠れなかったのだろう。
「クリス様……よかった。いつも通りですね」
ノイも安堵の表情を浮かべている。あの時サミアンをいち早く連れ出してくれて助かった。
「ノイもありがとう。心配かけたね」
テーブルには朝食が用意されていて、なぜかそこにはミゲルが着席していた。
俺の姿を確認すると立ち上がり、心臓の辺りに手を当て、頭を下げた。これは目上に対する挨拶と聞いている。副族長って偉くないのかな?
「おはようございます。クリス殿」
「おはよう『クリス』でいいよ、俺も『ミゲル』って呼ぶし」
「………」
(黙っちゃった!なんかまずかったかな?)
ミゲルが居るのに、ガインが居ないのはおかしいと思って辺りを見回すと、10メートル程離れた木の下に、真っ黒で大きな狼が寝そべっていた。
(まだ狼のままなんだ!!)
呆然としながら眺めていると、ミゲルがニヤニヤしながら話しかけてきた。
「何をどうしたら、ガイン様が人化出来なくなるのですか?」
何だろう? この人、言葉は丁寧だけど、絶対面白がっているよな!?
「わからないよ。発情した俺にガインが薬打ってくれて、そのまま寝ちゃったから……」
ミゲルが目を見開いて驚いている。何かおかしなこと言ったかな?
「発情期に、何もしてないのですか!? 朝まで?」
「……うっ、くっついて寝たけど……」
「ぷっ、くくっ、あははははっ!」
ミゲルが突然大声で笑い出した。
ノイも顔を横に向けて隠してるけど、茶色の毛玉が震えている!
なんで? おかしい!?
「『くっついて寝たって』ふっ、くくっ、老夫婦かよ!」
(小声で言っても全部聞こえてるし!)
オメガの発情期は『ヒート』と言って、普通は3か月に一度くるらしい。抑制剤を服用すれば、抑えられるみたいだけど、今回はまだ体調の安定しない俺が早めのヒートを起こしたことにより、事前準備が間に合わなかったようだ。
番の居ないオメガは、無作為にフェロモンを撒いてしまうので、危険を避ける為、抑制剤を持ち歩いているらしい。番契約を結ぶと相手しか誘引しなくなるので、身の危険はだいぶ少なくなる。
オメガのみが危険なのかというと、優秀なアルファの前で敢えて発情する輩もいるので、どちらが危険とは一概には言えないようだ。
ミゲル曰く……「私とガイン様の周りはフェロモンテロリストだらけでした」……ということだ。
それほど強く作用するので、一度ヒートが起きてしまえば、本能を我慢するのは至難の業だ。
だとしても、本能を抑えすぎて獣化が解けなくなるなど前代未聞らしい。肝心のガインは話に加わろうとせず、俺に気を使ってなのか、木の下で伏せたままだ。
いつの間にか俺の膝から飛び降りたサミアンが、トコトコとガインの所まで行き、しっぽを振っている。自分と同じ姿なのが嬉しいみたいだ。
(サミアン、お揃い好きだからなぁ)
大きな黒い狼と、小さな白い狼が向かい合う姿は可愛い。ガインまで可愛く見えるのが不思議だ……
(昨日のお礼……言わないとだよな。ガインが狼になっちゃったの俺のせいだし……)
俺が近づくと、先に気がついたサミアンが駆け寄ってきた。
ガインの横に座り込み、サミアンを膝に載せるが、ガインは俺から目をそらすように、顔を向こう側に向けてしまっている。
近くで見ると、凄く綺麗な狼だ。黒い被毛は艶々として、締まった筋肉の上で波打っている。
「怖くないのか?」
ガインが、顔を背けたままボソリと呟く。
「大人しくしていてくれれば……」
「そうか……」
「あの……触ってもいい?」
「っ?…………ああ」
フワフワの被毛に触れると、見た目よりも柔らかく、サミアンをそのまま大きくしたような感触だ。
顔は背けたままだが、大きなしっぽがタシタシと地面を叩いている。
「あの……昨日は……ありがとう……」
「ああ……番ならば当然だ……」
番ならば……か。大事にされていることは分かるけど、今までそんな繋がりのない生活をしていた俺としては、その価値観が理解できない。もし番じゃなかったら、ガインは俺のことなんて、何とも思わないんだよな?
散々冷たくしておいて、俺はガインに何を望んでいるんだろう?
「人化、できないの?」
ガインのしっぽが止まった。
「安心しろ、今日中には戻るだろう」
ガインはゆっくり立ち上がると、テラスに向かい歩き始めた。
掌に、ガインの感触が無くなってしまい、少し寂しく思った。
俺も番だから求めてしまうのかな?
後を追い、テラスに向かおうと歩き出した俺の上空に大きな影が現れた。
上を向いた俺は、驚きで目を見開いた。
この世界で目覚めた時に見た、
空飛ぶトカゲだった。
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