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第二章

43 急成長

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「お……おもいでちゅ……」

「……ん? えーっ!サミアンずっと抱っこしてたの!?『ベッドに寝かせていいよ』って言ったのに!!」

本を読む俺の傍で、ノインの寝かしつけをしていたサミアンが、真っ赤な顔で呟いた。
(いつから我慢していたんだっ?)
サミアンからノインを受け取り、ベッドに寝かせると、暢気に鼻をフスフスさせて丸くなる。
もふもふの被毛もすっかり生え揃って、益々ガインっぽくなってきた。

「ふふっ、ノインはサミアンが抱っこするとすぐ寝ちゃうね……」

獣人の子は成長が早い。小さく生まれて、どんどん大きくなる。
三歳のサミアンも、見た目は人間の四歳児くらいだけど、ノインの成長速度が勝っていて、今まで通り、長時間抱っこ出来ないみたいだ。

「昼間はノインのお世話で、夜はセレスティオのお世話じゃ大変だね」

「テレチュティオはピカピカちてるだけなのでへいきでちゅ」

卵のセレスティオは誕生までは、まだ時間が掛かるみたい……
レパーダに「卵どうする?」って聞いたら、ドラゴンは子育てしないから「放っておいていいわ」って言われた。
ドラゴンの親子は、どんなに離れていても心が通じるから、どこに卵を産み落としても、関係が保たれるそうだ。
……よく分からないけど、レパーダがそう言うなら、そうなのだろう。

放っておいていいと言われたセレスティオだけど、サミアンは添い寝を続けている。サミアンが傍に居ると、ほんのり光るから、喜んでいるようにも見える。
過保護なドラゴンになりそうだ……



「おいで、サミアン」
「おかあたま」

ノインが寝てしまえば、俺とサミアンの時間だ。
トテトテ嬉しそうに駆け寄ってくると、俺の右足にキュッと抱きついてふにゃっと笑う……
さっきまでのお兄ちゃんの顔とは違う子供らしい表情に、俺もついつい笑顔になる。

「絵本でも読もうか?」
「はい!テレチュティオのおはなちがいいでちゅ!」
「サミアンは黄金竜のお話が大好きだね」
 
俺も妊娠中に頑張って、文字が読めるようになった。
文字は一種類なので、日本語より簡単だ。
「黄金竜の物語」は、ルーシアの黄金竜がモデルになっているみたいだけど、どこまでがフィクションで、どこからがノンフィクションなのかは分からない。

 人間の国に住む、心優しいオメガの少年フィリップが、黄金竜から、渇いた大地を緑の大地に変える力を貰って、人間だけじゃなく獣人達も救っていくお話だ。
最後は王子様の目に留まり、結婚する。

ルーシアの王子というと「ルイ」を思い出すので、俺にはハッピーエンドに思えない……


「テレチュティオはどこに行っちゃったんでちゅか?」

「うん……」

俺は返答に困ってしまった。
実は俺も気になって、レパーダに聞いてみたのだ。

サミアンの大好きな『黄金竜のセレスティオ』は、死んでしまったらしい。

だが、その亡骸は魔術師の手により甦った。
それが俺達を連れ去った黒竜だ……

俺達は黒竜のせいで、死にそうになった。
キラキラした目で絵本を眺めるサミアンに本当の事は言えなくて、適当な事を言って誤魔化した。

「サミアンの卵の中にいるのかもしれないよ」
「テレチュティオが、テレチュティオでちゅか?」
「ふふ、そうだったらいいね」
「はい!おかあたま!」

咄嗟に言った嘘だけど、それが本当なら素敵だなと思った。

「キュウ、キュウ」
「あっ!ノインが起きまちた!」
本を読み終わるタイミングを見計らったようにノインが起きた。

「お腹すいたのかもしれないね」

そう言いながら抱き上げると、ノインの体が熱い。それに何か苦しそうだ。
(熱?、まさか病気!?)
「おかあたま?」
「サミアン!ガインにお医者様を呼ぶように言ってきて!!」

「わ、わかりまちた!!」

サミアンが急いで部屋を出ていく、おそらく部屋を出ればガインに会う前にノイやシンに伝わるだろう。

「ノイン…… 頑張って、今お医者さん来るからね」

ノインの体を撫でながら暫く待っていると、サミアンを抱いたガインがやってきた。

「大丈夫か? 今シンが医者を呼びに行っている」
「うん……熱があるし、なんか苦しそうなんだ……」

ガインがノインを覗き込んで、軽く背中を撫でると「おやっ?」という感じで、眉間の皺を緩めた。

「……クリス、大丈夫だ。心配ない」
「へ?」

(なんで? 苦しそうだよ?)

三人が見守る中、ノインの体から被毛が消え体の形が変わっていく……

(えぇぇぇ! 人化ぁ!?)

ベッドの上には、ホカホカの赤ちゃんがいる。
黒いケモ耳とフサフサの尻尾を残したスペシャル可愛いバージョンだ。

「人化って半年かかるんじゃないの? まだ3ヶ月だよ?」
「うむ……俺も3ヶ月で人化したようだから遺伝かもしれない……」
人間の赤ちゃんだとしても、生後半年といったところだろうか?
ノインは目を開き、俺達に気が付いて、口を開いた。

「バブッ」

(赤ちゃんって本当に『バブッ』って言うの? ザ・赤ちゃんかよ!)

「ガインにそっくりだー」
「とっくりでちゅ!」
「……そうか?」

なんか、目付き悪いし……
俺の遺伝子どこにいったんだろう?

サミアンの喰っちまいたくなる可愛さとは違うけど、このふてぶてしい感じも、これはこれで可愛い……

みんな違って、みんないい?


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