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第二章
48 遠足じゃないんだよ!
しおりを挟む「どうしよう、ガイン…… もう半分以上来ちゃったよ」
「ああ…… 一刻も早くルーシアに到着せねば、エリザベートの身も危ないのだが……」
二人は、気持ち良さそうにお昼寝中だ。トランクの中が暖かくて眠ってしまったのだろう。
「レパーダ、知ってたんだろ?」
(ふふっ、ごめんなさい。サミアンに『内緒だよ』って可愛くお願いされちゃったの)
出発前の違和感はこれだったのか!
(大丈夫、おチビちゃん達は私が守るわ!)
「レパーダがそう言うなら心強いけど……」
レパーダとの会話をガインに伝えていると、サミアンがむにゃむにゃ言いながら目を覚まし、トランクが開いている事に気が付いて、ビクッと体を震わせた。
「ふわぁぁぁ! ノイン、大変です、起きてくださいっ!」
耳と尻尾をピーンと緊張させながら、前足をパタパタしてノインを起こす。
絵に書いたような慌てぶりだ。
サミアンの前足をうるさがって目を覚ましたノインは、俺とガインの顔を見て、ピョンっと立ち上がった。
「おはようごぢゃいまちゅ、おとうたま、おかあたま!」
悪びれる様子もなく、尻尾を全開で振るノインと、申し訳なさそうに尻尾を丸めるサミアンが対照的で、この計画の首謀者が誰なのか、一瞬で悟った。
「なんで止めなかったの?サミアン」
「黒竜に拐われた時も、お母様と一緒に行きました。何かお役に立てる事もあるかと思って!」
そうだ、あの時サミアンを守ろうと必死だったけど、サミアンも俺を守る為に必死で頑張ってくれた。
(褒められて嬉しそうにしてたもんなぁ……)
「ノインはどうして? 大好きなサミアンお兄様を危険に晒すことになるんだよ!」
「はぅっ!……タミアンごめんなたい」
謝るの、サミアンにだけかよっ!
まったく図太い神経だ。……流石、俺の子。
「兎に角、来てしまったものは仕方ない。二人とも俺から離れるな」
「はい、お父様!」
「ガウッ!」
人型になり、荷物から服を取り出すサミアンの手元に、大きなツルッとしたものが見える……
「サミアン、セレスティオも持ってきちゃったの?」
「はい、お出掛けの準備をしていたらピカピカ光るので、リュックに入れてきました」
「ガウガウ」
セレスティオ入りの黄色いリュックを背負ったサミアンと、獣型のまま、いつもの赤いリュックを背負ったノイン……
遠足じゃないんだよ?
これから、敵地に赴くと云うのに緊張感無さすぎじゃね?
でもまあ、いい意味で肩から力が抜けた。
敵意むき出しで行っても、火に油を注ぐだけかもしれない……
流石に空から乗り込むわけにもいかず、旧ライヒア邸に住む狼に馬を借りて王宮に向かった。
王宮の真上を低空で飛んで、ガレニアからガインが来たことを伝えていたので、門前には既に高官が出迎えに来ていた。
「ガレニア共和国のガイン大統領ですね。王がお待ちです」
『王』ってことは、まだクーデターは起きていないんだよね……
エリザベート様も無事ならいいけど……
二年ぶりのルーシアだ。
ガレニアとは違う、モザイクタイルの美しい装飾もなんだか懐かしい。
前回ゆっくり見学したいと思っていて叶わなかったけど、今回も見学する暇は無さそうだ……
通されたのは以前ニーノの降り立ったバルコニーだった。そしてそこで俺達を迎えたのは、黒いローブの男達に囲まれたルイとグリードだった。
(なんで!? こいつら幽閉されてる筈なのにっ!)
「クリリン…… 二年前より更に美しくなったな……」
忘れてたよ、その名前。つか思い出させんな!!
「王と王妃はどうした? なぜお前がここにいる?」
馴れ馴れしいルイに不快感を露にしたガインが問い掛けると、ルイは不敵な笑みを浮かべた。
「今は私がこの国の王だ。先王と王大妃は、離宮に移った…… そうだよな? グリード」
「はい……先王様達は、トレアの離宮でのんびりされておいでです」
ウソくさっ!!
絶対嘘だろ? ってか王子も騙されてない?
「ならば、トレアに伺わせていただこう。私は先王と王大妃に用があって参ったのだ。いらっしゃらないのであればこの王宮に用はない」
「どういったご用件ですかな?」
「大した用件ではない。子供が生まれた報告に参ったまでだ。ここにいるノインを連れて伺うと連絡しておいたのだが、行き違いになってしまったようだ……」
戦意があれば、子連れでは来ない。
リュックを背負った緊張感のない子供たちに、グリードも真意を推し測っているようだ。
まあ、分かる訳がないよね、うっかりついて来ちゃっただけだもん。
グリードとガインのにらみ合いが続く…… 黒幕はグリードなのだろうか?
もはや新王ルイより、その言動の影響力は上に思える。
この二年の間に、何があったのか分からないが、以前より自信に満ち溢れているように見えた。
「ならばお送りいたしましょう。トレアまでの道程は危険です。まだあちこちで内乱を制圧できておりませぬゆえ……」
そんな危険な道程を先王と王大妃は通って行ったと?
胡散臭すぎる。なんでルイは信じているんだ!?
――――そこまでバカなのか?アルファなのに?
「心配は無用だ。私どもには白竜がいるのでな……」
ガインが冷静にそう言うと、グリードは明らかに顔色を変えた。
「どうしても行くと言うなら、留め置くまでです。……多少手荒な手をつかってでも」
まあ……予想はしてたけどね……
ガインと目を合わせた俺は、にこりと笑って小さく頷いた。
「やっちまえ!」って合図だ。
「そうか……ならばこちらも力ずくで出て行くまでだ」
ガインは頭を獣化させ、周囲に『威圧』を放った。
うぅぅ、ガインの『威嚇』は普通のアルファの三倍くらいの威力があるから、味方も多少、影響受けるんだよな……
サミアンとノインも震えちゃってるし。
「くっ……ルイ様!」
「えっ?あっ、ああ……」
ルイも『威嚇』を放って抵抗するが、ガインとショボめのアルファでは、格が違う。
そんなもんで、防御できる訳がない。
しかしルイを盾にすることにより、後ろに控える黒ローブ軍団は、いくらか動けるようになったようだ。
(完全に利用されてるじゃん!)
そして、なにやら呪文を唱え出すと、どこからともなく黒竜が出現した。
(えぇぇっ!なんで!? どこから来たの?)
「ガイン……どうしよう」
いつ見ても禍々しくて、恐ろしい。二年前の恐怖を思い出して、体が震える……
そんな俺を安心させるように肩を抱いたガインは、耳許に顔を寄せ囁いた。
「レパーダを呼べ。ここから跳び移る」
俺は頷き、頭の中でレパーダに呼び掛けた。
「レパーダ!助けてっ!!」
その瞬間、上空から落雷のようなスピードで、白い光が落下してくる……
「あれ……? ここはどこ?」
「レパーダの上だ……よく礼を言っておいてくれ」
俺も子供達も何が起こったのか分からなくてキョトンとするばかりだ。
「何が起こったの?」
「レパーダが迎えに来たから、お前達を抱えて飛び乗った……」
当たり前の様に話すガインを、俺達はアホ面で眺める事しか出来ない。
(あの一瞬で!? どういう動体視力なの?)
「サミアンとノインは見えた?」
二人は、シンクロしたように首を横に振る……
それどころじゃないけど可愛い……
「お父様はやっぱりカッコいいです!」
サミアンが目をキラキラさせて、ガインをうっとり見つめると、隣のノインは愕然となった。
いやいや、流石にまだガインには敵わないでしょ……
「恐らく、王と王妃はトレアに行っていないだろうな……」
「えっ? じゃあどこに?」
「一番可能性が高いのは、王宮内だ。どこかに幽閉されているのかもしれない……」
「ニーノちゃんならエリザベート様の居場所分かるんじゃない? ねぇレパーダ、ニーノちゃんはどこ?」
(ニーノもどこかに閉じ込められているのかもしれない……生きている事は間違いないと思うけど、昨日から声が聞こえなくなったの)
「少し調べて作戦を練った方がよさそうだな……」
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