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第二章
51 荒野の対決
「ガイン!後ろから黒竜が来てる」
「その様だな……」
ガインも気配を感じていたのか、腰の剣に手をかけたところだった。
(わたし、黒竜より速く飛べないの!)
ニーノが必死に速度を上げるが、遠くに見える黒い点はどんどん大きくなっているように見える……
「よし、一旦下に降りよう」
人影のない荒野を見つけると、ニーノは高度を下げて岩場に着陸した。
「俺が黒竜の相手をする。クリスはみんなを連れて岩影に隠れていてくれ」
「そんなっ、いくらガインでもあんな大きなドラゴン相手にするなんて無理だよ!」
「早く行け!!」
そうだ、黒竜はすぐそこまで来ている。みんなを安全な所に移動させなきゃ……
俺達は大きな岩が重なり合ってできた隙間に逃げ込んだ。ここならば上空からでも見えない筈だ。
身を隠して暫くすると、突然物凄い突風が吹き、岩の隙間からも風が吹き抜けた。
全身に鳥肌が立つような禍々しい気を感じる。黒竜が来たのだ……
「どういうつもりですかな?ガイン殿。我が国の先王とその妃を拐かすとはルーシアに対する宣戦布告と見なしても宜しいのですかな?」
黒竜にはグリードと魔術師達が乗っていた。魂のない黒竜に細かい指示を出すには、魔術師が側にいる必要があるのだろう。
―――だが丁度いい。
魔術師の動きを封じれば、黒竜はただのハリボテなのだから……
「もしルイが正当な最高権力者であるならそういう事でかまわんが、不当な手段で玉座を汚したお前達を誰も認めはしないだろう」
ガインは頭を獣化して威嚇したが、黒竜の背中の上は影響が及ばないのか、グリードは余裕の表情だ。
「先王達を返して貰お……」
言いかけたグリードは、その場にガインの姿が無いことに気がついた。
「なっ!」
「どうした……? 続けろよ」
『威嚇』が通用しないのであれば、物理的に抑え込めばいい。ガインは一瞬で黒竜の背に飛び乗っていた。
背後から声をかけられ振り向こうとしたグリードは、既に自分の首筋に長剣が突き付けられていることに気がつき、二の句を失う。
「この剣を引かれたくなければ、黒竜を解放しろ」
「ふっ……勝ったつもりか?人質を捕ったのはお前だけでは無いようだが……」
「なに!?」
岩場に目をやったガインの目に飛び込んで来たのは、岩の上で剣を片手にノインの首根っこを掴む王の姿だった。
王の足元には、クリスが倒れている……
「この剣を引けば、あの小さな狼も串刺しになるぞ………」
「な、なぜだ……?」
「こんな事もあろうかと、陛下には事前に魔術を掛けておいた。さあ、お前たち、ガインを拘束しろ!」
魔術師は三人がかりで、ガインを後ろ手に縛り付けると、気が大きくなったのか、ガインを黒竜の背から蹴落とした。
拘束が外れず受け身を取れなかったガインは頭から落下した。フラフラしながらもノインを助けようと何とか立ち上がり、必死で岩場に向かうが、背後のグリードから非情な言葉が放たれた……
「潰せ黒竜!」
「おとうたま――!!」
ドーンッと大きな音がして、ガインは黒竜の下敷きになった。
「うがっ!!」
大きな衝撃と共に血を吐き出したガインは、そのまま白目を剥いて動かなくなってしまう……
「おとうたまー!!」
王に腹を打たれ気絶していたクリスが目を覚ますと、ノインが大声でガインを呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げると黒竜の鉤爪の間から人化したガインの頭が覗いているのが見えた。
「ガインッ!!」
叫んだクリスの喉元に王の剣先が突き付けられる。
見上げたクリスの視界に入って来たのは、王の左手に吊り下げられたノインと、クリスに向けられた剣を持つ右腕に噛みついた獣型のサミアンだった。
「あぁ!なんで?王様!ノインを離して!」
「無駄よ、魔術で操られているわ!」
クリスの呟きに、エリザベートが答えた。王は、完全に意識を乗っ取られているようだ。
その時、空からレパーダが急降下してきて、黒竜を弾き飛ばした。
しかし黒竜の背中は衝撃も軽減させるのか、グリード達は大きなダメージを受けていないようだ。
そして、そのまま体当たり攻撃を続けるレパーダに、黒竜も反撃を開始した。
「キェェェェーッ!!!」
黒竜が奇声をあげると、全身に不快な波動が流れ、一帯の風景すらも歪ませた。
人間よりもドラゴンに効果が高いのか、レパーダやニーノが苦しそうに首を振っている。
どうしよう……
俺はなんて非力なんだ。家族の危機に何も出来ないなんて……
「サミアン、こっちに来るんだ。そこは危ない」
「ウゥゥゥッ」
サミアンがこんなに牙を剥き出しにしているところを見たことがない。
俺が気絶している間もノインを助けようと一人で頑張っていたんだ!
魔術師は黒竜に守られている……
ならば、黒竜から倒すしかない。けど、どうやって?
でもまずは、ノインとガインを助けなきゃ!
「ノイン!人化だ!」
「キュ? ガウッ!」
宙吊りのノインが人化すると、首の撓みと被毛を失い、王の右手から滑り落ちる。
「よし!いい子だノイン!」
ノインをキャッチし、王の腕に噛みついたサミアンを抱えると、ガインの元へ駆け寄った。
「ガイン!起きて、ガイン!!」
ガインは頭と口から血を流して意識を失っていた。
「うっ……うぅぅ……く…」
俺の声に反応したガインだが、呼吸がおかしい。肺に損傷があるのだろうか?
「かまわぬ、一家揃ってあの世に送ってくれるわ!」
グリードの言葉を合図に、目の前の黒竜が大きく翼を広げ、牙を剥いた。
「キェェェェーッ!」
どうしよう……俺にはケガをしたガインを運べない……
絶望的な状況に、諦めの言葉しか浮かんでこない……
しかし、ガインは違ったようだ。
ガインの身体が熱くなり、完全な狼の獣型になった……
「お前たち、俺に捕まれ……」
ヨタヨタと身を起こしたガインは、最後まで俺たちを守ろうとしていた。こんなボロボロの体で……
ノインとサミアンがガインの背に乗り、俺もガインにしがみつくと、ガインは、跳ぶように走り出した。
後ろからの黒竜の攻撃を避けながら、右へ左へと進路を変える。
しかし後ろに乗ったサミアンのリュックに牙がかかり、サミアンごと引き上げられた。
「サミアン!!」
「タミアン!!!」
ノインもガインの背から飛び降りてしまい。ガインは仕方なく足を止めた。
「サミアン! リュックを外すんだ!」
「嫌です!!この中にはセレスティオが居るんです!」
あぁ……そうだ……
なんで、そんなもん持ってきたんだよ……
その時、宙吊りのサミアンに後光が射すように黒竜の牙の隙間から光が放たれた……
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