フェミニンちゃん

三国華子

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スキャンダル?

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「はぁ……。佐藤さんは……恋をしたことある?」
俺は、休みがちな野坂君の代わりに佐藤さんとお弁当食べるようになった。
佐藤さんは鼻血が出やすいけど、とっても話しやすくていい人だ。
野坂君が来る日は、さりげなく離れた所から見守っているけど『趣味だから気にしないで』と二人の間に入ってくることは無い。

「滝川君、ついに自覚したのね……」

「えっ?佐藤さんは俺に好きな人いるの、気が付いてたの?」
佐藤さんってミステリアスだと思っていたけど、もしやエスパー!?

「野坂君でしょ?みんな知ってると思うわ……」
佐藤さんは当たり前のように、そう言うと、お弁当のご飯を口に入れモグモグした。
「なんで?野坂君が俺にメロメロなのは有名な話だけど、俺はいつも『嫌い』って言ってたのに!」

「好きって気持ちは、いくら隠そうとしても滲み出てしまうものなのよ。私の腐女子感が、隠しきれないように……」

それ、同じレベルなの?
は、恥ずかしい!どのくらい滲み出ているのだろう?
「俺と野坂君は、どんな風に見えるの?」
あっ、思わず聞いちゃった!分かるわけないのに!

「そうね……『野坂君からエッチなお仕置きされてヒーヒー言わされてるけど、まだ最後まではしてません』って感じかしら?」

「なんで分かるの!!?」

ドコカで、ご覧になってましたか!?
俺は、顔が急激に熱くなるのを感じた。
「……今のは希望的観測よ、寧ろ心当たり有りそうで、鼻血が出そうだわ」
佐藤さんはハンカチで鼻を抑えながらそういうと、ちょっと心配そうな顔をした。

「あの記事、気にしているの?」
うぅ、そうなんだ。なぜ佐藤さんに、こんな相談しているかと言うと、野坂君が美人女優と仲良さそうにしている写真が、週刊誌にスクープされたんだよ!
野坂君は「撮影で一緒になって、向こうのマネージャーも一緒に、ご飯食べただけだよ」って言ってたけど、相手が今売り出し中の人気女優だからワイドショーとかも取材に来て、野坂君は家に帰れなくなっちゃったんだ。

「野坂君なら滝川君に夢中だもの、心配しなくても大丈夫だと思うわ」
佐藤さん、ありがとう……千里眼の佐藤さんから見ても、野坂君って俺に夢中なんだね。嬉しくて顔、にやける。

「ふふっ、またそんな可愛い顔して。野坂君じゃなくてもメロメロになりそうだわ」
佐藤さんにも俺のニヤケ顔は可愛くみえるらしい……みんな、目が悪いのかな?

でも相手の人が、何か意味ありげなコメントしちゃって、騒ぎがどんどん大きくなってる。野坂君は元々好きな人じゃなくてもエッチできる人だし、何か相手の人が勘違いするような事しちゃったのかな?そんなこと考えたら一気に元気なくなってきた……
「野坂君とは会っていないの?」
佐藤さんが心配そうに覗き込む。俺って全部顔にでちゃうのかな?
「野坂くんは事務所で用意したホテルに居るみたい……家の前にも取材の人いるから……」
「早く会えるといいね……」
佐藤さんの優しさに泣きそうになった。
俺、こんなに野坂君に会えないの辛いなんて思わなかった。
いつの間にか野坂君のこと、大好きになっていたんだな……

家に帰ると、取材の人に囲まれた。
「すいませーん。この家の方ですか?ここは滝川クリスさんのご自宅ですよね?ここに野坂大樹さんもお住まいだと聞いているんですが、中にいらっしゃるんですか?」
何これ、なんでカメラ撮ってるの?俺一般人だから、顔にモヤモヤ付けられて、変な声にされちゃうのかな?
「あ、あの、野坂君はここには居ません。ご近所迷惑になるのでお帰り下さい」
よし、ちゃんと言えた!
「あれぇ、君、滝川クリスに似てるね?弟さん?」
お父さん、子供いるって特に隠してもいないけど、公表もしていないから勘違いしてる。言ったらまた騒ぎになるのかなー?

「関係ないでしょ?帰って」

「ちょっとくらい、話聞かせてよー」
無視して玄関に向かおうとした俺の肩を一人の記者が引っ張った。結構な勢いで引かれて、登りかけていた段差から足を滑らせ後ろに倒れた。

思い切り頭を打ち、一瞬、頭が真っ白になった。
野坂君、お父さん……助けて……

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