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第二章 結婚は始まりに過ぎない
隠したかったもの
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分厚い資料を横目に、リカルドは目の前の仕事を機械的にこなしていく。
遺跡の内部については、これといって新しい発見はないにしろ、残された痕跡を注意深く調べている最中だ。
あの少女の言うことを、信じれば、この国はあるべき破滅の未来から外れ、平和な未来に向かっているように思う。
まさか、愚王だと思っていた父のやらかしが、良い方に転がるとは。人生はわからないものだ。
王妃が少女を信じるのが、早すぎる気はしたが、これ以上尋問を続けたところで、得られるものはないように思えた。
少女は、何と言うか、隠し事などは出来なそうで、少しつつくと、自分からペラペラ話してしまう。
リカルドが気になるのは、シシーの表情だ。元々、淑女教育の賜物か、表情が出にくい彼女が、話を聞いていて唯一顔を曇らせたのが、平民女性の話が出た時だ。
嫌なことを思い出させてしまった。
せっかく、ようやく仲良くなってきたのに、余計なことを。
リカルドとジェスは一卵性の双子なので、どうしても見た目は似てしまう。リカルドは自分の顔を見るたびに、シシーがジェスのことを思い出して、傷付いたりしないかと、不安だった。本人は、ジェスに恋愛感情がないと口にしていたが、一度気になると、気にしないようにしていても、気にしてしまう。
自分でもウジウジしているな、と思う。だが、シシーに対しては心配症になってしまうのを止められないでいた。
執務室に入ってきたのは、テオドール・マクヴィス。騎士団長の甥で、少し前まで公爵家で従者として働いていた。今はリカルドの側近として、仕事を手伝ってくれている。
「やはり魔王と言う存在の確認はできておりません。ただ、遺跡、とは言っても、サリュー家ではないのですが、いくつかの家で同じような遺跡が見つかっており、その中の一つが、サリュー家の状況とよく似ていることがわかりました。」
テオドールは、遺跡の内部を紙に移したものを広げて、説明を始める。
「遺跡をたまたま見つけたのは、マヌイ家とクーガー家です。マヌイ家は護衛が、クーガー家は当主のペットが見つけました。
マヌイ家の遺跡には、サリュー家と同じように認識阻害魔法がかけられていましたが、クーガー家には別の魔法が。」
テオドールが急に口を噤み、大きく息を吐く。
「クーガー家には、禁忌魔法の使い手がおります。彼曰く、練習に使ったと言っておりますが、これは……判断を仰ぎたく。」
リカルドは眉間に皺を寄せ、資料の続きを確認した。
「クーガー家の遺跡には、無数の……遺体?」
「亡くなった後の状態を保持するための、魔法だそうです。どなたも、不審死ではないようですが。」
クーガー家の当主は変わり者で有名だ。息子の魔力は膨大で、量だけだと、リカルドと良い勝負といったところだろう。
「遺跡は彼が作ったと言うことか?」
「いえ。彼は状態保存の魔法を試した後、遺体を処分していたのだそうです。それは遺跡のある辺りではなかったそうですが。」
「利用された、と言うことだな。見つかった時に衝撃があるように。元々、見つけて欲しかったのは、クーガー家の遺跡ではないのか?その準備をしていたのに、あの少女のせいで、先にサリュー家が見つかってしまった。
……そうなると、もしかしたら、隠したかったものは、まだ隠されていないかもしれないな。」
テオドールはリカルドの呟きを聞いた後、すぐに執務室を出て行った。
隠したかったものが、あるならば、どこに隠したいと思うだろう。
遺跡の内部については、これといって新しい発見はないにしろ、残された痕跡を注意深く調べている最中だ。
あの少女の言うことを、信じれば、この国はあるべき破滅の未来から外れ、平和な未来に向かっているように思う。
まさか、愚王だと思っていた父のやらかしが、良い方に転がるとは。人生はわからないものだ。
王妃が少女を信じるのが、早すぎる気はしたが、これ以上尋問を続けたところで、得られるものはないように思えた。
少女は、何と言うか、隠し事などは出来なそうで、少しつつくと、自分からペラペラ話してしまう。
リカルドが気になるのは、シシーの表情だ。元々、淑女教育の賜物か、表情が出にくい彼女が、話を聞いていて唯一顔を曇らせたのが、平民女性の話が出た時だ。
嫌なことを思い出させてしまった。
せっかく、ようやく仲良くなってきたのに、余計なことを。
リカルドとジェスは一卵性の双子なので、どうしても見た目は似てしまう。リカルドは自分の顔を見るたびに、シシーがジェスのことを思い出して、傷付いたりしないかと、不安だった。本人は、ジェスに恋愛感情がないと口にしていたが、一度気になると、気にしないようにしていても、気にしてしまう。
自分でもウジウジしているな、と思う。だが、シシーに対しては心配症になってしまうのを止められないでいた。
執務室に入ってきたのは、テオドール・マクヴィス。騎士団長の甥で、少し前まで公爵家で従者として働いていた。今はリカルドの側近として、仕事を手伝ってくれている。
「やはり魔王と言う存在の確認はできておりません。ただ、遺跡、とは言っても、サリュー家ではないのですが、いくつかの家で同じような遺跡が見つかっており、その中の一つが、サリュー家の状況とよく似ていることがわかりました。」
テオドールは、遺跡の内部を紙に移したものを広げて、説明を始める。
「遺跡をたまたま見つけたのは、マヌイ家とクーガー家です。マヌイ家は護衛が、クーガー家は当主のペットが見つけました。
マヌイ家の遺跡には、サリュー家と同じように認識阻害魔法がかけられていましたが、クーガー家には別の魔法が。」
テオドールが急に口を噤み、大きく息を吐く。
「クーガー家には、禁忌魔法の使い手がおります。彼曰く、練習に使ったと言っておりますが、これは……判断を仰ぎたく。」
リカルドは眉間に皺を寄せ、資料の続きを確認した。
「クーガー家の遺跡には、無数の……遺体?」
「亡くなった後の状態を保持するための、魔法だそうです。どなたも、不審死ではないようですが。」
クーガー家の当主は変わり者で有名だ。息子の魔力は膨大で、量だけだと、リカルドと良い勝負といったところだろう。
「遺跡は彼が作ったと言うことか?」
「いえ。彼は状態保存の魔法を試した後、遺体を処分していたのだそうです。それは遺跡のある辺りではなかったそうですが。」
「利用された、と言うことだな。見つかった時に衝撃があるように。元々、見つけて欲しかったのは、クーガー家の遺跡ではないのか?その準備をしていたのに、あの少女のせいで、先にサリュー家が見つかってしまった。
……そうなると、もしかしたら、隠したかったものは、まだ隠されていないかもしれないな。」
テオドールはリカルドの呟きを聞いた後、すぐに執務室を出て行った。
隠したかったものが、あるならば、どこに隠したいと思うだろう。
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