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ラナ・ギブソン
婚約者
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ここまで話をして、ラナは自分が婚約者のベンに対し、一つもその体調について気にしていないことに気がついた。元よりあの夜会でアーサーにお会いしてから、二人のことを思い出すこともなくなっている。これではどちらが不貞している方かわからない。
「あの、今更なのだけれど、ベン様は無事なの?」
「廃人になっていないという点では無事だけど、牢の中にいる点では無事とは言えないわね。彼自身は今王宮魔術士達によって自白させられている感じ、どうやら彼は全く香水に対しては無知ということね。元よりベル・ルーモアに対して家族に関する感情以外持ち合わせていないようだったわ。香水を使われていたにも関わらず、そうだということは案外ラナを蔑ろにしていたように見える行為も、本人からすれば結婚するまで妹を甘やかしてあげようという兄心だったのかもね。
そうであってもこうなってしまった以上、ラナとの婚約解消は免れないから安心して。」
なんと、一応彼にもラナの婚約者だという自覚はあったらしい。妹としての情があったのなら、悪いことをしたらちゃんと叱らなければならないが、甘やかすばかりだった彼では、兄としても失格だっただろうと思われる。
「それでね、ルデルヒト様にも聞かれるかもしれないのだけど、ラナは元婚約者に会いたい?貴女が望むなら、時間を取れるらしいわ。」
「あの、それは私と彼が話すことで何かの役に立つと言うこと?それがないなら、婚約者であれど、交流は多いとも言えなかったから、特に会いたいとは思わないのだけれど。」
どうせ、不快になるだけだし、とは思ったけれど、黙っておいた。
シンリーはラナの表情を読みとって、首を振る。
「大丈夫よ。多分ラナの気持ちが少しでも彼にあるのなら、と便宜を図るつもりだけだっただろうから。婚約解消のことはあちらに伝えてあるし、貴女に謝罪したい、とは言っていたらしいけれど、被害者はこちらなのだから、ルデルヒト様が許す筈ないわ。」
何故、そこでアーサーが出てくるのか、と考えて、この件の責任者が彼だからか、と思い直す。ラナは自分に都合の良いことを考えている己を恥じた。
シンリーはそれからも暇を見つけては状況を報告に来てくれた。シンリーの兄も随分体調は元に戻ったらしく、今はリハビリに精を出しているらしい。
アーサーといえば、忙しいのかあの夜会以来は会うことはなかったものの、シンリーからの話ではお元気そうに過ごしているらしかった。
ラナは中々会えないでいるアーサーにシンリーは頻繁に会えていることに小さな嫉妬の芽が出そうになったことはあったが、シンリーの「今は最終調整の段階だから、すぐに会えるようになる。」という言葉を信じることにした。
ラナは自分の好みが万人受けするとは思っていない。実際、シンリーの好みはアーサーとは異なるとは言え、近くにいる人に親近感を持ち、それが愛情に変わることもあることは知っている。
「ルデルヒト様の名誉のために言っておくと、彼は遊びで婚約をちらつかせたりはしない人よ。あの男にプライドを傷つけられたラナは自己評価を低く見積もりがちだけれど、貴女は素晴らしい人よ。自信を持って。」
彼女が言う通り、変人扱いのアーサーは全くモテない訳ではなかった。ただそのクールな対応に女性側の心が折れただけ。
ならば、ラナは少し期待しても良いのだろうか?
「ルデルヒト様の笑顔を見られる人はラナを置いてはいないのよ?」
シンリーの言葉通り、それからすぐにアーサーはラナの元に訪れた。
ラナは彼の顔に疲れが滲んでいないことにホッとしながら、迎えると、アーサーはふんわりと微笑んだ。
ラナは今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じる。ドキドキするのは、自意識過剰になっているから。落ち着こうとするけれど、中々ドキドキは去ってくれない。
アーサーはこれまでの不在を詫び、侯爵家との婚約が解消されたことを教えてくれた。
「このタイミングですぐに頭を切り替えられないとは思うのだが、今しかないと思うから伝えることにする。嫌なら断ってくれて構わない。
私と婚約してくれないか。」
「はい、宜しくお願いします。」
「いや、え、いいの?少し考えた方が良くないか?」
「私、ずっとお慕いしておりましたの。あのドレスの色を選んだ時に、貴方が婚約者ならどれだけ嬉しいか、きっと本音が漏れ出ていたのですわ。アーサー様にお会いできない間に考えましたの。もし、アーサー様が私に構うことが同情でないなら、婚約をお願いしようと。
でも、お会いして気がつきました。例え、同情だとしても、貴方が好きです。婚約、いえ、結婚してください。」
ラナは思ったことを余すことなく伝えられて満足した。アーサーは驚いた顔で口をポカンと開けている。真っ赤な顔を隠すように額に手を当てて、落ち着こうとしている様子に、ラナはポカポカと温かい気持ちに支配された。
「クソ……言いたいこと全部言われた。」
アーサーは泣き笑いのような顔でラナに向き直ると、ラナの前に跪き、ラナの手に口付けた。
「貴女を愛しています。私と結婚してください。」
「宜しくお願いします。」
ラナははしたなくも飛びついてしまった。アーサーはいつもクールなのに、恥ずかしいと顔が赤くなるらしい。
アーサーとの婚約は既に伯爵家では決められたことであったようで、皆が祝福してくれた。
「あの、今更なのだけれど、ベン様は無事なの?」
「廃人になっていないという点では無事だけど、牢の中にいる点では無事とは言えないわね。彼自身は今王宮魔術士達によって自白させられている感じ、どうやら彼は全く香水に対しては無知ということね。元よりベル・ルーモアに対して家族に関する感情以外持ち合わせていないようだったわ。香水を使われていたにも関わらず、そうだということは案外ラナを蔑ろにしていたように見える行為も、本人からすれば結婚するまで妹を甘やかしてあげようという兄心だったのかもね。
そうであってもこうなってしまった以上、ラナとの婚約解消は免れないから安心して。」
なんと、一応彼にもラナの婚約者だという自覚はあったらしい。妹としての情があったのなら、悪いことをしたらちゃんと叱らなければならないが、甘やかすばかりだった彼では、兄としても失格だっただろうと思われる。
「それでね、ルデルヒト様にも聞かれるかもしれないのだけど、ラナは元婚約者に会いたい?貴女が望むなら、時間を取れるらしいわ。」
「あの、それは私と彼が話すことで何かの役に立つと言うこと?それがないなら、婚約者であれど、交流は多いとも言えなかったから、特に会いたいとは思わないのだけれど。」
どうせ、不快になるだけだし、とは思ったけれど、黙っておいた。
シンリーはラナの表情を読みとって、首を振る。
「大丈夫よ。多分ラナの気持ちが少しでも彼にあるのなら、と便宜を図るつもりだけだっただろうから。婚約解消のことはあちらに伝えてあるし、貴女に謝罪したい、とは言っていたらしいけれど、被害者はこちらなのだから、ルデルヒト様が許す筈ないわ。」
何故、そこでアーサーが出てくるのか、と考えて、この件の責任者が彼だからか、と思い直す。ラナは自分に都合の良いことを考えている己を恥じた。
シンリーはそれからも暇を見つけては状況を報告に来てくれた。シンリーの兄も随分体調は元に戻ったらしく、今はリハビリに精を出しているらしい。
アーサーといえば、忙しいのかあの夜会以来は会うことはなかったものの、シンリーからの話ではお元気そうに過ごしているらしかった。
ラナは中々会えないでいるアーサーにシンリーは頻繁に会えていることに小さな嫉妬の芽が出そうになったことはあったが、シンリーの「今は最終調整の段階だから、すぐに会えるようになる。」という言葉を信じることにした。
ラナは自分の好みが万人受けするとは思っていない。実際、シンリーの好みはアーサーとは異なるとは言え、近くにいる人に親近感を持ち、それが愛情に変わることもあることは知っている。
「ルデルヒト様の名誉のために言っておくと、彼は遊びで婚約をちらつかせたりはしない人よ。あの男にプライドを傷つけられたラナは自己評価を低く見積もりがちだけれど、貴女は素晴らしい人よ。自信を持って。」
彼女が言う通り、変人扱いのアーサーは全くモテない訳ではなかった。ただそのクールな対応に女性側の心が折れただけ。
ならば、ラナは少し期待しても良いのだろうか?
「ルデルヒト様の笑顔を見られる人はラナを置いてはいないのよ?」
シンリーの言葉通り、それからすぐにアーサーはラナの元に訪れた。
ラナは彼の顔に疲れが滲んでいないことにホッとしながら、迎えると、アーサーはふんわりと微笑んだ。
ラナは今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じる。ドキドキするのは、自意識過剰になっているから。落ち着こうとするけれど、中々ドキドキは去ってくれない。
アーサーはこれまでの不在を詫び、侯爵家との婚約が解消されたことを教えてくれた。
「このタイミングですぐに頭を切り替えられないとは思うのだが、今しかないと思うから伝えることにする。嫌なら断ってくれて構わない。
私と婚約してくれないか。」
「はい、宜しくお願いします。」
「いや、え、いいの?少し考えた方が良くないか?」
「私、ずっとお慕いしておりましたの。あのドレスの色を選んだ時に、貴方が婚約者ならどれだけ嬉しいか、きっと本音が漏れ出ていたのですわ。アーサー様にお会いできない間に考えましたの。もし、アーサー様が私に構うことが同情でないなら、婚約をお願いしようと。
でも、お会いして気がつきました。例え、同情だとしても、貴方が好きです。婚約、いえ、結婚してください。」
ラナは思ったことを余すことなく伝えられて満足した。アーサーは驚いた顔で口をポカンと開けている。真っ赤な顔を隠すように額に手を当てて、落ち着こうとしている様子に、ラナはポカポカと温かい気持ちに支配された。
「クソ……言いたいこと全部言われた。」
アーサーは泣き笑いのような顔でラナに向き直ると、ラナの前に跪き、ラナの手に口付けた。
「貴女を愛しています。私と結婚してください。」
「宜しくお願いします。」
ラナははしたなくも飛びついてしまった。アーサーはいつもクールなのに、恥ずかしいと顔が赤くなるらしい。
アーサーとの婚約は既に伯爵家では決められたことであったようで、皆が祝福してくれた。
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