親が決めた婚約者ですから

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失踪した伯爵家

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イザベル嬢を迎えに来たのは、長姉のセーラ嬢だった。公爵家嫡男の婚約者として既に若夫人と呼ばれている長姉はイザベル嬢を一睨みするだけで、大人しく帰らせた。

アルマ嬢によると、このセーラ嬢は、末っ子を可愛がる父にも、イザベル嬢にも苦言を呈することのできる常識人だという。

彼女はアルマ嬢にも、勿論隣国の王女であるオーブリー殿にも礼を尽くし、辺境伯家にも謝罪をし倒して帰っていった。

面識はなかったのだが、帰り際に呼び止められたリチャードは、変装を解いていないにも関わらず、父の働きについて感謝され、ただ感嘆した。

最初にイザベル嬢を見ているから感覚が麻痺していたが、本来王弟殿下の娘なら此方の方が正しい姿に違いない。

他の誰よりも偉いと思っていただろうイザベル嬢はセーラ嬢の姿を見るなり、蒼白になって、ガタガタと震えていた。イザベルの侍女が一瞬嬉しそうな顔をしたのも見逃さなかった。

セーラ嬢はリチャードに声をかける前にある封筒をアルマ嬢に渡していた。中を改め、礼を述べる二人の姿に惚れ惚れしてしまう。ご令嬢にしては背の高い二人は堂々としていてとても麗しい。

セーラ嬢の侍女と護衛は、イザベル嬢に比べて少人数だったが、少数精鋭なのか纏う空気がイザベル嬢の周りの人間達と全く違った。

彼らが去ってから、アルマ嬢に呼ばれたリチャードはある書類を渡される。

「セーラ嬢からのお手紙よ。貴方に、と。」

先程話す機会があったのに、何故その時に渡さなかったのか疑問に思ったものの、渡された手紙を開けようとすると、横から現れた手で制された。

「アルマ嬢?」
「まだ読まないで。少なくとも、この話が片付くまではまだ。」
「内容は、ご存知で?」
「ええ。セーラ嬢に手紙を願ったのは私だから。それで、貴方に聞きたいことがあるの。」

手を止めて、もう一度アルマ嬢に向き直る。

「貴方はあの失踪した伯爵家についての資料を見て、何かおかしいと思わなかった?」

侍女の件とはまた別だと言う意味だろう。確かに何点か確認したいことはあったものの、自分の思い違いだと勝手に思い込んでいたのだが。

「伯爵家の家名に覚えがあった気がして。でも一度しか会ったことのない人物だから覚え間違いだと思っていた。もしかしてその話?」

「ええ、貴方の覚え間違いでもなんでもない。伯爵家には以前娘がいたはずなのよ。でも貴族名鑑には載っておらず、伯爵夫人には出産歴はない。彼女は何者だったのか、わからないの。」

伯爵家の人間が全て居なくなって、それから現れる不可解な謎。

「貴方の記憶の中の彼女は、伯爵令嬢であると名乗った?どんな容貌をしていて、どんな話をしたか覚えている範囲で教えてくれない?」

手紙は気になるものの、昔、たった一度だけ話したご令嬢の存在を思い出し、小さくため息をついた。

その反応は予想外だったのだろう。話したくなさそうな此方を気遣うような、そんなアルマ嬢に、なるべく私情が入らないようにリチャードは話し始めた。
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