結局勝つのは……

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残念な婚約者候補

「私には愛する人がいる。だから君を愛することはできない。」

婚約者候補の顔合わせの段階でそんなことを言い出す方に私は失笑で対応しました。彼はその笑顔の意味をどう捉えたのかはわかりませんが、至極真面目な顔で続けました。

「だけど、ちゃんと君を大切にするつもりだ。安心してほしい。」

安心も何も、貴方とのお話はここまで、ですけど。

よっぽど彼の実家の権力が父にとって魅力的なら話は別ですが、多分そんなことにはならなさそうです。

敢えて言葉にしなかったのは、私の優しさのつもりでした。

「貴方は、どういう経緯で今日は此方に?」

話の噛み合わなさから、ご自分がまだ婚約者ではないことを知らないのかと思いましたがそうではありませんでした。

自分が候補者にすぎないとわかっていながらも、もし自分をそれでも選ぶのなら覚悟しておいてほしい、と言いたかったようです。

それほどまでにご自分に自信があるのは結構ですが、何故そんな思考に?

「いや、彼女に、君に選ばれるのは私だと聞いて。彼女は愛人でいいから、と健気にも身を引いてくれようとしたから。」

何故か少し照れながら、彼女とやらの会話を告げる彼を気味が悪いと感じました。

彼女は、私の実家の権力をご存知だったようです。でもいくら仕方がないとはいえ、自分の恋人を差し出してまで私の実家のお金を奪おうとするなんて、健気とは程遠いと思うのですが、どうなのでしょう。

「貴方の愛する方というのは、ミシェル・カノン子爵令嬢で合っていますか?」

「ああ、やはり君達は友人だったのだな。彼女が、君なら私を預けても安心だと言っていたから。」

彼はとんだお花畑思考のようです。ミシェル嬢と私が友人の筈がありません。平民だと散々馬鹿にされ、前々から何かとちょっかいをかけてきた彼女とは、知り合いではあっても、友人などでは決してありませんでしたから。


彼女との出会いは、実は学園に入る前でした。彼女は、私の婚約者候補の愛する方として、私の前に現れたのです。どこかで聞いた話ですよね。

当時の私と今の私では違うことが一つあります。当時の私は婚約者候補になった彼を愛していました。幼い頃から何度か交流のあった彼と漸く婚約、というところで、彼女を愛しているから、君を愛することはできない、と先程のように告げられたのです。

私は深く傷つきました。私達の婚約を喜んでいた両親に思いの丈をぶちまけて、彼の家ごと潰すぐらいには。カノン子爵家を没落させるぐらいには怒り、悲しんでいたのです。

学園に入ると驚いたことに、平民のクラスに本来なら居ないはずの貴族令嬢がいました。没落した子爵家は貴族クラスの学費を払えず、平民クラスに娘を通わせることにしたようです。

彼女はことあるごとに、私を目の敵にしました。そして、彼女は新しい婚約者候補として名前の挙がった彼を目掛けて、数年前と同じことを私に仕掛けてきたのです。





彼女の狙いは何なのでしょう?
また潰されたいのでしょうか。

彼との顔合わせの後で、悩んでいた私に答えをくれたのは、元公爵令嬢のマリアンヌ様でした。

彼女とも考えると長い付き合いになります。彼女は私が傷ついた時に側にいてくれた人です。彼女は学園に入る前に既に大公夫人となられていました。大公様に近づく女性達を軒並み蹴散らされ、公爵家の権力を最大限に使い、社交界のトップに君臨されています。


「それにしても、彼女の嗅覚とやらは大した物ね。やはり彼女の背後に誰かがいると考えた方がしっくりくるのだけれど、貴女は違うと思うのね。」

「はい。確かに最初は、私も彼女の背後に誰かがいて、狙う相手を指示しているのかと疑いましたが、今回はあの、ご長男の方だったのです。多分指示でしたらその後に来られた次男のディーン様を狙われたと思うのですが。」

元々、政略結婚の意味などあまりわかっていないであろう彼女のことだ。相手の家がうだつの上がらない長男より優秀な次男を後継に、長男を婿入りさせようと画策していたことなど知りもしないのだろう。

彼女の計画では伯爵家を継いだ恋人に嫁いだ平民の嫁の実家の金で悠々自適な愛人生活をするつもりだったのだろうが、実際には、平民に婿入りした元伯爵家の長男に自由になるお金などあるとは思えない。

婿入りした時点で愛人がいるなど、いくら彼を愛していてもごめんだというのに。おかしいと、思わないのだろうか。

「思い込みの激しい人間って一定数いるものね。そういう人達ってうまく踊ってくれるから憎めないのだけれど。」

にっこり微笑むマリアンヌ様は美しい。話している内容は酷いものだけれど。

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