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当て馬

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マリアは、第二王子の婚約者であるライラ伯爵令嬢を宥めるのに苦戦していた。アーサーの名前を出して、少しは焦れば良いと思ったら、あろうことかもう別の令嬢とイチャイチャ しているのである。とはいえ、まだ婚約関係は続いているので、当て付け、だと思われる。

しかも新しい女が良くなかった。悪名高いティアラ子爵令嬢で、王子どころか、色々な男性に色目をつかい、まるで女王のように振る舞う。

一度、公爵令嬢である立場から、マリアが諫言することがあったが、開き直りとも言うべき態度で、全く会話にならなかったのである。よりにもよって、あんな女性を連れて歩くなんて。第二王子も大したことないわね。

マリア自身、第二王子とライラ嬢の仲睦まじい様子に憧れを抱いていたこともあり、第一王子よりも、贔屓目で第二王子を見ていたのだが、幻だったようだ。

アーサーもといローズに、ティアラ子爵令嬢のことについて尋ねると、幼い頃には交流が少しはあったのですが、と申し訳なさそうな返事が返ってきた。

「幼い頃のことで良いからおしえてくださらない?」
ローズが話し出したのは意外な事実だった。
「それ、第二王子はご存知なのかしら。」
「さあ、でも最近よく一緒にいらっしゃるし、ご存知なのではないかしら?」

マリアは、第二王子はご存知ではないと思ったし、ライラ嬢も同意見だった。だって彼女を連れているのを、こちらが気にすると思っているのだから。

ライラ嬢と妖しく笑い合った後はさっきまで飲んでいたお茶がことさら美味しく感じられた。

「今度第一王子と第二王子とティアラ嬢を招いてお茶会でもしようかしら。」
ふと呟いた言葉に、ローズは無邪気に反応したが、ライラ嬢は含み笑いをして、
「ぜひ、私も参加させていただきたいわ。」と返事した。

「勿論です。ライラ嬢がいないと始まらないのですから。」

馬鹿な王子どもには、ちゃんと反省していただかないと。

ローズの無邪気な様子を見て、彼女には全く非がない訳ではないだろうけど、私を騙す気はなかったのだろうと、思い、安堵した。マリアの初恋のアーサーが、王子を誑かし、マリアを騙した訳ではないと、素のローズに会って確信した。

悪いのは、王子で、彼女ではない。
第二王子はわかっているかしら。貴方も同じことしてる自覚はおあり?

ライラ嬢は、少し前の私なの。貴方が真実を知らなくても、ね。
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