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ヘタレ

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サイオンはローズに後ろを向かされる。戸惑いながら、その通りにすると、ローズの告白が唐突に始まって、びっくりした。

しかもサイオンに向かってドキドキしたり、緊張したりすると言う。
それは、自分もだ。ローズがそばにいるだけで幸せだし、緊張するし、変な汗をかく。

好きだ、と一言も言ってはいない。けれど、それはこちらから言うべきだ。

ローズの話が終わったらちゃんと言おうと思う。けれど、終わってからも中々顔が見られない。きっと真っ赤な顔をしているはずだから。

サイオンは色恋にずっと興味がなかった。だから学生の頃、恋愛にうつつを抜かす友人の気持ちはよくわからなかったし、女性は素敵だと思うものの、根本的な部分ではよくわかっていなかった。

ローズの顔をじっと見つめてしまう。ここでキスの一つでもしたらいいのに、ただ見つめてしまう。近づいて抱きしめる。これが精一杯だ。

後ろの方で、何か言いたげな瞳がある。
ヘタレとでも言いたそう。
と言うか、今呟いた気がする。
ローズの近くにいつもいる侍女が、不甲斐ないサイオン呆れているのがありありとわかる。

もう少し隠せませんかね。いや、悪いのはこちらだ。

抱きしめるのをほどいて、ローズの手をとりくちづける。

これだけで精一杯。

「ローズ嬢、貴方を大切にします。」

ローズ嬢が、顔を赤くしている。何だ、この羞恥プレイは。

お互いにいっぱいいっぱいな自覚があり、酸素が少なくて、クラクラするので、日を改めることにする。

最近ドキドキしすぎて、死ぬのではないかと思う。

こんな状態で結婚なんて本当にできるのだろうか。誰かに相談しなければ。

こんなとき、相談できる人が一人もいないと気づき、絶望を感じる。自分から売り込みに来る人はいるものの、そんな人に話せば、翌日にはいい笑いものだ。

けれど、競い合いとかではないから、自分たちのペースで歩み寄れば良いわけで、ああなってしまうのが、当然だと思う。だってついこの間まで、お互いに興味すらなかったのだから。

結婚までにドキドキまでは来たのだから、キスぐらいまではしておきたいのだけど、どうしたらいいか誰か教えてほしい。

あんな可愛い婚約者に、これ以上ヘタレな私がどうやって何ができるか、教えてくれないだろうか。

侍女の隣に見慣れない男がいて、サイオンを残念なものを見るような目をされた。その男こそが、最初に取り入ろうとしたレオンその人だと、サイオンは気がつかなかった。





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