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伯爵夫人の葬儀
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デイビス・モリス伯爵は、夫人の葬儀中、唐突に前世を思い出した。愛する人を送るのは、二度目だ。前世のデイビスは、女性だった。
前世で亡くなったのは夫で、彼は人助けをした結果、巻き込まれて死亡したのだった。
デイビスは前世の亡くなった夫と、目の前で既に動かなくなった妻の遺体を前にし思考が止まった。
伯爵夫人はあんな最期だったのに関わらず、穏やかな表情を浮かべて眠っている。そういえば、前世のデイビスは、夫を愛しすぎていて彼が亡くなったことを中々受け入れられなかった。だから、あの時も上手く泣けなかったのだ。
それは今の自分と同じだと呆けた頭でぼんやりと思う。伯爵夫妻は政略結婚だったが二人の関係はまあまあうまくいっていたと思う。子供さえ出来なかったが、まだ結婚して三年目だと考えるとこれから、といったところだった。
巷では三年子供が出来なかったら、夫は浮気する、と言ったことが噂されていたとしてもデイビスにその気はなかった。
男には浮気する者としない者がいる。デイビスは後者だ。妻以上に美しい者はいるにはいるが、妻以上に愛してる者はいない。
妻は胸に短剣を刺された状態で見つかった。彼女は誰かを招いた形跡があり、別邸の使用人の言から、彼女の元親友エミリ嬢の関与が疑われている。
彼女は妻と同じ女学園出身で演劇部の後輩だった。妻はその端正な顔と女性にしては高い身長から男性役に選ばれることが多く、相手役には可愛らしい顔のエミリ嬢が選ばれていた。
私は何度か婚約者の勇姿を見に訪れたが、彼女の部内での人気は単に役者としてだけではなく、女学園内で神聖化されるまでに及んでいた。
学生時代の妻には中世的な魅力があり、それが若い少女らに突き刺さったと考えられる。
ある意味彼女は魔性の女性だった。
政略結婚ではあったが、女学園を卒業した彼女とはすぐに結婚したわけではない。
彼女の希望で当時女性では珍しかった学園を卒業した者がより高度な教育を受けられる高等院へ進学したのだった。デイビスは彼女の聡明さを知っていたが、世間は賢い女性に対する偏見があった。
高等院に進む男子には、「賢い」やら、「誉」やらを口にするのに、それが女性になると、途端に「いつまでも遊んで」となる。勉強内容は同じだと言うのに、この違いは何だろう。
デイビスも、妻が高等院を卒業するまでは、周りに気を遣われたり、妻の我儘を聞いてばかりではいけないと、叱責されたりもしたが、賢い妻が将来一緒に伯爵家を盛り立ててくれることの何が恥なのか、彼らの言葉の一つも入ってくることはなかった。
前世女性だったデイビスは、大学というところに通っていた。それを思えば、高等院に行くぐらい、大したことではない。
周りの人達からは、余計な詮索をされながらもモリス伯爵家は幸せ一色であった。妻が高等院を卒業してすぐに、私達は結婚し、漸く三年が経とうという時に妻が亡くなった。
デイビスはこれまでの妻を振り返って思う。どうして、妻はこんなふうに殺されなければならなかったのだろう。
彼女が最近、何かを悩んでいた様子であったことは知っていた。子供はまだか、と言われていたこともそうだが、確かにエミリ嬢との仲も拗れていたようだとも聞いていた。
だけど、彼女の命を奪うほどのことだったのだろうか。
呆然と佇むデイビスに、参列者の多くは同情的だ。同時にまだ若い伯爵が独り身になったことで、不謹慎ではあるが、彼の後妻を狙う者も、現れた。彼女達は、子のいない儘に亡くなった夫人に深く感謝した。
妻の我儘を叶えた伯爵は、これまで我慢することが多かったご令嬢達の、憧れだったのだ。
デイビスが望む、望まないに関わらず、参列者の多くは、胸に邪な思いを抱えていた。本当に心の底から夫人の冥福を祈ったのは伯爵家関連を除くと、何人いたのだろうか。
葬儀が無事に終わると、伯爵は一人寝の寂しさに耐えなくてはならなかった。忙しくとも家に帰れば妻の寝顔が見える。いつもは凛々しく大人びて見えた妻の寝顔は歳よりも少し幼く頼りなげに見える。彼女の寝顔を見られる特権はデイビスにしか許されないものだったのに、あの日からは永遠にその機会は奪われてしまった。
なら、夢の中でなら、と願い、眠ればそこには前世の自分と、見慣れない男。それが前世の自分の夫だと気づくも、なす術はない。彼もいつの間にか自分の目の前から消えていく。
どうして自分はいつも、愛する人を先に無くしてしまうのだろう。悲しくて目を覚ましたデイビスは自分が泣いていることに気がついた。
涙を流したことで、彼女の死を受け入れているような感覚になる。まだ認めたくない、嫌だ。そう強く思うと、彼女が生き返ったりしないだろうか。
前世で亡くなったのは夫で、彼は人助けをした結果、巻き込まれて死亡したのだった。
デイビスは前世の亡くなった夫と、目の前で既に動かなくなった妻の遺体を前にし思考が止まった。
伯爵夫人はあんな最期だったのに関わらず、穏やかな表情を浮かべて眠っている。そういえば、前世のデイビスは、夫を愛しすぎていて彼が亡くなったことを中々受け入れられなかった。だから、あの時も上手く泣けなかったのだ。
それは今の自分と同じだと呆けた頭でぼんやりと思う。伯爵夫妻は政略結婚だったが二人の関係はまあまあうまくいっていたと思う。子供さえ出来なかったが、まだ結婚して三年目だと考えるとこれから、といったところだった。
巷では三年子供が出来なかったら、夫は浮気する、と言ったことが噂されていたとしてもデイビスにその気はなかった。
男には浮気する者としない者がいる。デイビスは後者だ。妻以上に美しい者はいるにはいるが、妻以上に愛してる者はいない。
妻は胸に短剣を刺された状態で見つかった。彼女は誰かを招いた形跡があり、別邸の使用人の言から、彼女の元親友エミリ嬢の関与が疑われている。
彼女は妻と同じ女学園出身で演劇部の後輩だった。妻はその端正な顔と女性にしては高い身長から男性役に選ばれることが多く、相手役には可愛らしい顔のエミリ嬢が選ばれていた。
私は何度か婚約者の勇姿を見に訪れたが、彼女の部内での人気は単に役者としてだけではなく、女学園内で神聖化されるまでに及んでいた。
学生時代の妻には中世的な魅力があり、それが若い少女らに突き刺さったと考えられる。
ある意味彼女は魔性の女性だった。
政略結婚ではあったが、女学園を卒業した彼女とはすぐに結婚したわけではない。
彼女の希望で当時女性では珍しかった学園を卒業した者がより高度な教育を受けられる高等院へ進学したのだった。デイビスは彼女の聡明さを知っていたが、世間は賢い女性に対する偏見があった。
高等院に進む男子には、「賢い」やら、「誉」やらを口にするのに、それが女性になると、途端に「いつまでも遊んで」となる。勉強内容は同じだと言うのに、この違いは何だろう。
デイビスも、妻が高等院を卒業するまでは、周りに気を遣われたり、妻の我儘を聞いてばかりではいけないと、叱責されたりもしたが、賢い妻が将来一緒に伯爵家を盛り立ててくれることの何が恥なのか、彼らの言葉の一つも入ってくることはなかった。
前世女性だったデイビスは、大学というところに通っていた。それを思えば、高等院に行くぐらい、大したことではない。
周りの人達からは、余計な詮索をされながらもモリス伯爵家は幸せ一色であった。妻が高等院を卒業してすぐに、私達は結婚し、漸く三年が経とうという時に妻が亡くなった。
デイビスはこれまでの妻を振り返って思う。どうして、妻はこんなふうに殺されなければならなかったのだろう。
彼女が最近、何かを悩んでいた様子であったことは知っていた。子供はまだか、と言われていたこともそうだが、確かにエミリ嬢との仲も拗れていたようだとも聞いていた。
だけど、彼女の命を奪うほどのことだったのだろうか。
呆然と佇むデイビスに、参列者の多くは同情的だ。同時にまだ若い伯爵が独り身になったことで、不謹慎ではあるが、彼の後妻を狙う者も、現れた。彼女達は、子のいない儘に亡くなった夫人に深く感謝した。
妻の我儘を叶えた伯爵は、これまで我慢することが多かったご令嬢達の、憧れだったのだ。
デイビスが望む、望まないに関わらず、参列者の多くは、胸に邪な思いを抱えていた。本当に心の底から夫人の冥福を祈ったのは伯爵家関連を除くと、何人いたのだろうか。
葬儀が無事に終わると、伯爵は一人寝の寂しさに耐えなくてはならなかった。忙しくとも家に帰れば妻の寝顔が見える。いつもは凛々しく大人びて見えた妻の寝顔は歳よりも少し幼く頼りなげに見える。彼女の寝顔を見られる特権はデイビスにしか許されないものだったのに、あの日からは永遠にその機会は奪われてしまった。
なら、夢の中でなら、と願い、眠ればそこには前世の自分と、見慣れない男。それが前世の自分の夫だと気づくも、なす術はない。彼もいつの間にか自分の目の前から消えていく。
どうして自分はいつも、愛する人を先に無くしてしまうのだろう。悲しくて目を覚ましたデイビスは自分が泣いていることに気がついた。
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