婚約破棄は此方から

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言われた側

第一王子アントニオは驚いた。婚約破棄は此方から言おうと思っていたにも関わらず。

「理由は」
「私の不貞ですわ。ですから私が有責の破棄になります。」

公爵令嬢マリアベルが頬を赤らめて恥ずかしがる様子にアントニオは絶句した。婚約して十年余りになるが、彼女のそんな表情を今の今まで見たことなどなかったからだ。

「慰謝料については陛下に相談しましたの。そうしたら、要らないと仰って、とはいえ、十年余りも婚約者として殿下を縛り付けていた身としては何もないのはいけないと思い、ならば、と此方をお持ちしましたの。」

既に陛下まで話が通っていることに愕然とする。陛下が認めるほどの相手と言えば限られてくる。

「此方は、殿下が男爵家に便宜を図っていた証拠です。私に贈ったと嘘を付いてご令嬢にたくさん貢いでいた証をお持ち致しましたの。私、実はもし、婚約破棄を突きつけられたら、と考えて貴方の不貞の証拠を集めていましたの。まさか、此方が先にこうなるなんて、わかりませんでしたから。

ですから供養として、差し上げますわ。これを使う時がなくて、良かったです。」

ニコニコと幸せそうな笑顔に血の気が引いた。

これは慰謝料と言う名の脅しである。アントニオには受け取るしか選択肢は残されていなかった。


アントニオは自室に戻ると、ため息をついた。まさか自分が婚約破棄をされる側になるなんて。

婚約を破棄する気ではいたと言うのに、婚約がなくなった途端、自分の居場所が分からなくなった。マリアベルは名言しなかったが、彼女の相手はシャンテ皇国の第三皇子だろう。

彼女と同じクラスで委員会でも生徒会でも親しくしていた第三皇子ルキウス。すれ違う際には、度々アントニオに嘲るような笑みを見せていた。あの男とマリアベルは学園では一定の距離を保って側にいた筈だったのに。

シャンテ皇国は、我が国より遥かに大国で、恋愛結婚でも政略結婚でもマリアベルなら不足はない。うだつのあがらない自国の王子と婚姻させるより皇国とのとっかかりの方が、価値はある。

アントニオは自分が愛する男爵令嬢が王妃になるのは無理だと思う。だからこその婚約破棄で、彼方が縋れば側妃にしてやると告げる気でいた。

彼女は自分を愛していると言う根拠のない思い込みを、今になって世迷言だとわかるぐらいに元婚約者は恋をしていた。

自分とは違い誠実な彼女は、彼と付き合う前にちゃんと婚約を破棄してくれた。

アントニオは考える。男爵令嬢との婚姻も今なら許されるだろう。だけど、もうその気はなかった。どちらにしろ自分は王子では居られないし、きっと男爵令嬢は王子でない自分に興味はないだろう。そんな気がした。

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