婚約破棄は此方から

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言わせたかった側

「は?え?どういうことですか?公爵令嬢の方から婚約破棄?アントニオ殿下ではなく?」

第一王子アントニオの側近マルケスは、聞いたことが理解できない。

男爵令嬢チェルシーが、アントニオを籠絡したことでマリアベルの公爵家の勢力を削げると密かに目論んでいた最中、公爵家からの婚約破棄に陛下が王命を出したと聞き、混乱していた。

婚約破棄が目的ならその結果は喜ぶべきだったが、そうではない。マルケスの中では公爵家を勢力図から叩き落とさねば意味はない。円満な婚約破棄では困るのだ。皇国の第三皇子との縁組などが通ってしまえば、公爵家の一人勝ちになってしまう。

第一王子のアントニオは婚約破棄について素直に従ったと聞く。何故その際に縋り付かなかった、と憤りを覚えてもアントニオならそんなことは絶対にできないと分かってはいた。マルケスは自分の企みが音を立てて崩れていくような感覚に見舞われる。

マルケスはチェルシーに夢中になってすっかり腑抜けたアントニオを煽てて公爵家を出し抜こうとしたことを後悔した。自分が今更アントニオの側から離れたところで、保身の為に離れたと思われてしまう。

アントニオを救うのならば、此方も同格の相手を探して娶れば良い。チェルシーはこの際捨て、別の大国の王女と、結婚すればまだ取り返しはつくかもしれない。チェルシーはどう転んでもただの男爵令嬢である。公爵令嬢に男爵令嬢が勝つからこそ、一部から熱狂的に支持されたのである。

ただ公爵家にやり返されることを想定しなかった此方の落ち度である。折角集めた下位貴族を中心とした支持を今更また裏切れば、支持はもはや敵となってアントニオはおろかマルケスも共倒れの道しかなくなる。

だからといってチェルシーが王妃になるわけもない。そんなことをしたら国が滅びる。マルケスは自分の計画にはマリアベルの力が必要不可欠であると気づいていた。

彼女の力は欲しい。けれど公爵家の力は削ぎたい。そんな都合の良い未来をマルケスは本気で手に入ると思っていた。

マルケスは公爵家に潜ませた自身の駒が寝返ったことを知った。不意をつかれたとしても、完璧に遅れをとることはない、と判断して送り込んだ信用していた駒を公爵家に取られたことを悟る。

マリアベルの高笑いが目に浮かぶ。同時に自分には見せたことのない表情を新たな相手に見せているのかとふと考える。アントニオが相手ならマリアベルは無表情を決め込んでいただろう。

幼い頃、マルケスには見せていたとびっきりの笑顔をアントニオには見せなかったマリアベル。心の中では少しばかり優越感を感じていた自分を嘲笑うように彼女は恋をして新たな相手に嫁ぐのだ。

マルケスはただ自分がマリアベルの最後の逃げ道になりたかっただけだ。側妃が受け入れられなかった時に逃げ道として自分が妻として娶れば、彼女に感謝してもらえるのではないかと、欲を出した結果の末路であった。

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