大恋愛の後始末

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婚約者の姉が駆け落ち

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「シェイラ、お前とマートンの婚約は解消になった。」

大公家の婚姻式にと向かった父が顔色悪く、屋敷に戻って来たと思ったら、シェイラを呼び出した。父が告げた言葉に、シェイラは小躍りしそうになって、やめた。

表面上はしおらしく、理由を尋ねると、父の眉間の皺が深くなる。

「あの女がやりおった。ジュリエット・グレイズが、やらかしおったんだ。よりにもよって今日!使用人と逃げるなど……!」

シェイラは歓喜した。父の怒りの矛先であるジュリエット・グレイズは、シェイラの婚約者であるマートン・グレイズの姉で、今日大公子息のライアン・スペードと、結婚する予定だった。

彼女は「恋愛至上主義」を掲げて、婚約者の有無に関わらず、様々な男性と浮き名を流した自称「恋愛の女神」で、その行動力で、大公子息との結婚まで漕ぎ着けた。

彼女は、自称「大恋愛の末に射止めた」「悲願の」大公子息の花嫁だったので、婚姻式さえ出来ればなりをひそめるのだと、勝手に周りが信じ切っていた。

だが、実際には、大公子息を捨てて、庭師の男と駆け落ちしてしまった。

シェイラは婚約者の姉に直接会ったことは数えるほどしかない。血のつながった弟の婚約者に彼女の興味を惹くものはなかったのだろう。シェイラの家族について、少し聞かれただけで、その後の交流も何もなかった。

だから、彼女にはシェイラについて、弟の婚約者という情報しか伝わっていない。

逆にシェイラには、ジュリエットの為人が存分に伝わっていた。彼女は感情を隠すことが出来ない。自分の容姿は誰よりも美しく、どんなご令嬢も自身の下に見ている。

誰かが彼女よりも美しく着飾り、目立とうものなら、すぐさま近づき、些細な嫌がらせをしては、追い出す。

婚約者を愛する者ならば、ジュリエットに見つからないように地味な装いをさせるか、己を犠牲に目を逸らせるかで、よって夜会の最中に、ジュリエットの周りには男性で溢れることになる。

彼女は女王様気分で優越感に浸れ、男性達は婚約者を守れる。そんな彼女が結婚するのだからと、社交界は騒めき立った。

大公子息ライアン・スペードは、最初の婚約者とは死別している。幼馴染の子爵令嬢で、可愛らしい爽やかカップルとして有名だったらしいが、体が弱かったようで、学園に入学前に亡くなったという。


ジュリエットと、ライアンが婚約者になった経緯はよくわからないが、ジュリエット側の情報によれば、初めて会った日から、恋焦がれ、愛を囁かれたと言うから、婚約の打診は大公子息側からあったのかな、と思う程度であった。

ライアン・スペードは女の趣味が悪いのね。

シェイラの印象はその一言に尽きた。




ジュリエットの弟、マートンはそんな姉にそっくりな男だった。
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