それは私の仕事ではありません

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少しの後悔と撤回

新人騎士のサリナ・リンゼットは、正直エミリアについてそこまで嫌っていたわけではない。確かに迷惑をかけられたりしたことはあるし、自分達とは違う信念を持っていることからあまり近づきたいとは思わなかったが。それでも数少ない女性同士、鍛錬しながら少しずつ騎士として成長していくものだと思っていた。

今回の件でも、巻き込まれた彼女を救い出す方向だと聞いた時には、ホッとしたし、失敗したらどうしようとギチギチに緊張していた。

「緊張するな。伝わる。」
リオンとはこれまで話をしたことはあまりなかったが、言葉は短いし、ぶっきらぼうで無表情で、偉そう。こんな奴だとは思わなかった。見た目が他の人より綺麗だと密かに思っていたからか、ガッカリ感が半端ない。

「ごめん。何か色々考えちゃって。」
ブラウザー先輩が付かない、と言うだけでさらに不安が募るが、マルク夫人は優しく慰めてくれた。

男性の騎士の方は、若い子には優しいそうだ。チャラい男だと思っていたのだが、実際には随分と、想像とは真反対の人物だった。

マルク夫人から前もって話を聞いていたのか、態度は友好的だったが、此方がまだ若いからなのか侮るような態度を取った。常日頃からブラウザー先輩に、「侮ってくる相手ならラッキーだ。」と言われているサリナにとって、彼の力量を見極める指標となったことは、良かったと言える。

知らないやつに侮られるのは悔しい事ではあるが、そう言う人には隙ができるから、いくらでもやり返すことができる。

「女騎士なんて、侮られてからが勝負なんだから。」

何度も言われた言葉が身に染みる。

ただ、この騎士に限っていえば、隙を見せてくれたところで此方が勝つ事などないぐらいに見える。

リオンも彼を気にしているし、任務を遂行することに少し不安を感じながらエミリアを探すことにした。



エミリアにずっと感じていた思いは彼女を見つけた瞬間、盛大に飛び散った。

彼女は逞しい騎士に助けを求めたかと思うと、リオン扮するご令嬢を突き飛ばして、恥ずかしげもなく泣き叫んだのだ。特に何かをされている様子でもないので、不思議だったが、リオンは表情が更に失くなって、ただ眺めている。

助けを求めるなら、騎士としては鬱陶しくとも、振り解く訳にもいかず、男性騎士は暴れるエミリアを抱き止める。

若い女の人が好きだと言う騎士は、エミリアを連れて先へ進む。

リオンは舌打ちをしたあと、ブツブツと何かを呟いた。エミリアは突き飛ばした此方側を得意げに見遣り、その姿に二人は「ああ、エミリアはこういう奴だった。」と悟った。

「何か心配して損した。」
サリナの独り言にリオンは頷きで返すと、もうエミリアのことは考えても無駄だと思い直したらしい。

騎士は丁重にエミリアをもてなすと、マルク夫人に彼女を渡してもう一度此方に帰ってきた。

「何だ、知り合いか?」
少し疲れた様子の二人。
「元騎士なんです。さっきの。」
「ああ、随分と力が強いと思えばそういう訳か。邪魔になりそうなのが居なくなってよかったと思おう。もう一人は灯祭りから来るんだろう?多分彼方の方が危険だからな。早く合流しよう。」

エミリアを邪魔になりそう、と称されてリオンは少しスッキリした。

「灯祭りが危ないってどういうことですか?」

「ん?いや、それがわかっていたから、君達の上司は彼方に戦力を割いたんじゃないのか。」

「いえ、マルク夫人に対して失礼な態度を取りそうだったから、そうでない人を此方にしただけです。」

「偶然なのか?いや……騎士の勘という奴か。なるほど。君達の上司は女騎士か?」

「はい。」
「強いのか?」
「はい、多分。」

「んー、なら、本当に危険だな。」

エミリアに見せたような余裕のある表情から一転して、焦ったような顔をする。彼は少しだけ歩幅を変えると早すぎるぐらいのスピードで歩き出した。

慣れない格好ではどんどん差が開いていく。新人達はそれでも頑張ってついてきた。男は立ち止まりはしなかったが、それ以上は足を早めたりはしなかった。

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