まさか私としたことが

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間違えてしまいました

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「申し訳……ありませんっ、でしたーー!!」

侯爵夫人のお付きのメイド、イライザは、今必死になって命乞いをしている。彼女を見下ろしているのは、主人であるアンジェリーナ。侯爵家に嫁いで以来、二年間使用人と侯爵から冷遇され続けている悲劇の女主人である。

「あら、どうしたの?珍しいこともあるのね。」

イライザはただのメイドである。侯爵夫人のお付きのメイドになったというのに、何を勘違いしたのか侯爵に冷遇されている夫人につい先ほどまでやりたい放題していたただの平民にすぎないメイドである。

皆イライザのことを気が触れたと思っているのかもしれない。が、正にそんな感じだ。気が触れた方がマシだった。

何故だか、イライザはこの物語を知っていた。これは所謂ザマァ系と言われる物語の世界なのだ。

イライザは自分が今いるこの世界を外側から見たことがあり、この後、侯爵夫人のご実家から人が来て、侯爵夫人を助けるのであるが、その時使用人は皆殺しになることを先程思い出したのである。

「ふふ。貴女がどうやって知ったかはわからないけれど。わかったわ。私の為に働くなら貴女は殺さないでいてあげる。でも、私貴女にやられたことを覚えているの。だから、わかるわよね?」

「は、はい。わかります。」
イライザはすぐに部屋を出ると、お付きの侍女達に夫人の対応は自分が一手に引き受けると申し出る。

本来ならメイドの仕事ではないが、だからこそ辱めになるのだと理解しているのか侍女はそれを許した。

侯爵は夫人のご実家を侮っていた。勿論私達も。だけど実は隠された秘密が夫人にはあったのだ。

夫人と言うか、夫人の兄というか、一族というか。

イライザは死にたくない、という一心で夫人のコマとなることを選んだが、実際それが悪手であったことを後悔することになるとはまだ気がついていなかった。ひとまず、助かったのではないか、と見当違いな安堵に心を支配されていたのである。

アンジェリーナはそんなイライザを穏やかな笑みで眺めていた。彼女の笑みは、儚げに見えるが故に誤解を招いていたのだが、実のところは、ただの愉悦である。取るに足らない者が、必死に命乞いをして束の間の時間を手に入れたからと言って、彼女に訪れる未来を避けられた訳ではない。

「本当に可愛い子だわ。」

イライザの怯える姿は、アンジェリーナの気に入った。

「きっと私だけじゃなくて、兄も気にいるのでしょうね。」

アンジェリーナは良いことを、思いついた。イライザにとっては恐怖でしかない思いつきは、アンジェリーナの笑みを深くし、一見、微笑ましい風景に見えたのである。

「ねえ、貴女。一足先に家に帰ってもらえない?」

イライザは夫人に言われたように夫人の実家に職場を移した。驚くことに夫人の仕事は早く、いつのまにかイライザは既に侯爵家の使用人ではなくなっていた。

「貴女は私のものになったの。」

アンジェリーナの笑みにイライザは寒気を覚えた。一瞬だけ、ここで死んだ方がマシだったのではないかとの考えが過ぎったが、そんな筈はないと思い返した。

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