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第15話 怪しすぎる男たち

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「あれは、キンバリー・グレイホルム嬢ね? 隣にいるのは、公爵だわ」

 彼女の隣にいるのは若く独身で、評判のいい公爵だ。劇場にいたのもこの組み合わせだし、もしや恋人同士なのだろうか。
 地方貴族の令嬢だというだけでは王女の婚約パーティには出席できないけれど、公爵の同伴だと考えれば納得だ。

 レイズナーに視線を移すと、劇場での時と同様、鋭い視線でグレイホルム嬢を見つめていた。その視線に、わずかに慈愛の情が浮かんでいることに、私は計り知れない衝撃を受けた。

 疑念が膨れ上がり、必死に押し込める。
 そしてもう一人、見た顔があるのに気がついた。

 グレイホルム嬢に近づいていく男の姿。間違いなく、劇場でレイズナーにより閉め出された男だった。

「あの人……」

「蝿のような奴だ」

 レイズナーは苦々しげに言う。
 
「ここにいるんだヴィクトリカ」

 言い残すと、その男に向かって大股で歩いて行く。男がグレイホルム嬢に近づく前に呼び止め、短い会話をした後で、連れ立って樹木と建物の陰に隠れてしまった。
 
 私が大人しくここにいると、本当に彼は思ったんだろうか。
 そっと近づき、腰高ほどの近くの茂みに隠れると、すぐに声が聞こえてきたが、こちらに気付いた様子はなかった。

「なぜお前がここにいる、エルナンデス」

「キンバリーにお願いしたんだ。一度でいいから貴族の屋敷を見たいって。かなり渋っていたが、例のことをちらつかせたら、従者に紛れて連れてきてくれた。お前と違っていい子だな、彼女は」

 エルナンデスと呼ばれた男は嫌な笑いをする。一方のレイズナーの声はには、焦燥と怒りが含まれていた。

「この屋敷の物を盗んだりしてみろ、ただじゃおかんぞ」

「この屋敷の物? いいや、俺が欲しいのはもっと即物的なもんだ」

「金なら腐るほどくれてやっただろう」

「いいや金だ、まだ足りない。俺の望みは、永続的にお前から金を引き出すことだ。例の件をバラされたくなかったら、貴族達と商売ができるよう口添えしてくれ。お前ならできるだろう、レイズナー?」

 私は自分の口を塞いだ。そうしなければ、悲鳴が漏れてしまいそうだったからだ。
 レイズナーは、何の件でか知らないが、エルナンデスとかいう男に強請られている。それについて、グレイホルム嬢も無関係ではないらしい。

「俺もそれほど、奴らに信用されているわけじゃない。それに、死に物狂いの努力をしてこの地位を手に入れたんだ。お前もそれをすればいい」

「冷たいこと言うなよ、俺たち、家族みたいなものじゃないか。あの最低の貧民街を必死に生き抜いた仲間だろ」

 はは、とエルナンデスが笑った。

「まあいい、俺から手を引こうなんて考えるんじゃないぜ。過去の罪と、キンバリーとの関係を秘密にしておきたいんだったら、今まで通り金を渡してくれりゃあいい。それを伝えるためにこのパーティに侵入したんだ。お前は最近、会ってもくれないから」

 肝心なところが分からずもどかしい。

 じゃあな、とエルナンデスが去って行く気配がした。レイズナーが歩き出す音は一向にしない。
 数分待っても足音は聞こえず別方向へ去ったものかと思い立ち上がったところで、こちらを見るレイズナーと目が合った。その瞳は、氷のように冷たい。

「盗み聞きは楽しかったか」

 気まずさと罪悪感と、たった今聞いた話を問い詰めたい衝動があった。

「彼は、誰なの」

「話は今夜しよう、君の部屋に行くよ」

 それだけ言うと、彼も去って行ってしまった。
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