第二王女は死に戻る

さくたろう

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第1と最終話 第二王女は幸せになる

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「ヴィクトリカ、お前とヒースとの婚約は解消された。今日の花婿は――」

 そこまで言ったところで、お兄様はくらりと壁に手をついた。顔面は蒼白で呻くように言う。

「何が、起きたんだ。ああ……気分が悪い――」

 レイズナーが、今にも倒れそうなお兄様の体を支える。

「どうされました、陛下?」

「レイズナー、どうして僕は、妹に望まぬ結婚を勧めているんだろうか?」

 時が、また戻っていた。
 お兄様は生きていて、レイズナーも生きている。

 お城も王都も無事で、私の中にブルクストンはいなかった。

 レイズナーはお兄様を支え、ソファーに座らせる。

「よく分からない。さっきまであった頭の中の霧が晴れたようなんだ。
 ああ――いや。僕は、なんてことを!」

 お兄様は目を見張りレイズナーを見た。

「僕は、君に、君の妹に、僕の殺しの罪を着せた! 思い出した、思い出したぞ!」

 困惑のまま、お兄様はレイズナーに言う。

「ここで僕を罰してくれ。恨んでいるだろう。許されないことだ。おぞましい――あまりに――、僕は弱かった」

 お兄様の中にいたブルクストンも、もういなかった。お兄様は、ご自分の言葉で語っていた。

 驚くべきは、レイズナーの態度だった。お兄様から罪を告発されても、驚愕も悲哀もなく、ただ、静かに微笑んだ。

「……陛下、それが真実だとしても、俺とキンバリーに、どうしてあなたを罰せましょうか。あなたは俺たちの唯一の理解者だった。寄り添い、励まし、側にいてくれた。あなたの存在に、あの街で暮らしていた俺たちが、どれだけ救われたことでしょう」

 お兄様に目線を合わせるように、レイズナーは跪いた。

「恨んでなどいません。感謝と尊敬だけが、俺たちがあなたに抱く思いです。あの貴族を殺したのがあなただと知って、その思いは、更に強まりました」

 がくりと項垂れた後で、お兄様は私に目を向けた。

「ヴィクトリカ。すまない。結婚式は中止にする。レイズナーには申し訳ないが、お前がヒースを愛している以上、日を改めて」

「よして!」

 恐怖により慌てて私は叫び、レイズナーの隣に、同じように跪くと、彼の腕を掴んだ。

「私が愛しているのは、レイズナー・レイブンだけですわ! 確かに彼の性格は、貴族社会に揉まれすぎてねじ曲がっているし、本心なんて簡単には見せないけれど、流されている噂はヒースの嫉妬や、婚約を断られたご令嬢達のやっかみによるものだし、アイラやテオを大事にしているし、何より私を愛していて、喜ばせようと躍起になっているんですわ! そんな人、他にいません!」

 この世界のレイズナーが、何も知らなくても。
 同じ思い出を共有できなくても。

 私は彼を愛しているし、彼ほど私を愛してくれる人はいないと確信していた。彼の愛の中で、私は私でいられたのだ。
 
 また、やり直せばいいだけの話だ。
 また、一から二人を。
 
 お兄様は、驚いたように目を丸める。

「お前が望むなら、もちろんいいが……。だがいつの間に、それほど親密になったんだ?」

 レイズナーは苦笑した。

「何度も結婚式を挙げましたから。だろう? ヴィクトリカ」

 今度は私が驚く番だった。

「どうしてそれを知っているの?」

 だってまだ、この世界のレイズナーには何も話していないのだ。だから彼が、時を戻り結婚式を何度も行ったことなど知るはずがない。
 レイズナーは肩をすくめる。

「初めて結婚式を挙げたあの世界で、君に短剣を、贈るつもりだったんだ。劇場で、それが欲しいと教えてくれたから」

 困惑のまま、私は尋ねる。

「記憶が、あるの? 今まで、一緒に過ごした、思い出が……?」

 おそるおそる発した疑問は、弱々しいものだった。レイズナーは笑う。

「ついさっき、俺は命を差し出して君の中に再び入り込み魔法をかけた。それが一番、君の力を使えるからだ」

 レイズナーの手が、私の手を包み込んだ。それだけのことなのに、涙が溢れる。

「だから君の力の一部が、俺の中にも流れ込んだんだ。今まで君が経験してきたことが、俺の中に蘇った」

 こんな奇跡が。こんな奇跡があるのだろうか。あり得ていいのだろうか。

「危ういところではあった。君の力は暴走し、失われつつあったから。微かに残った力と、俺の魔法と、そして二人の魂を持ってした、最後のループだ。もう二度と、起こりえない」

「そしたら――!」

 私の声は、懇願するかのようだった。

「そしたら、私の力は全て失われたということ?」

「全てというわけじゃないさ。だが、国を滅ぼすだけの、もっと言えば城を崩壊させるだけの力は、もうないはずだ」

 レイズナーの手が、私の頬に触れた。

「君は、まさしく奇跡の王女だ」

 彼の瞳に吸い込まれそうになる。
 状況を飲み込めないままでいるお兄様の目の前で、私たちはキスをした。
 
 体を離した後で、私は言う。

「私、さっきの世界で、とんでもないことをしてしまったわ」

 レイズナーはまた笑う。

「問題があるのか? 時は戻って、何もかも無かったことになった。皆生きていて、何一つ不自由はない」

「それでいいのかしら?」

「無問題だろ」
 
 彼の笑顔が愛おしくて、今度は私から口づけをした。

「こんなに幸せで、なんだか奇跡のように思えるの」

 私は言う。

「疑問だったんだけど、どうして時が戻る日か、今日の結婚式だったの?」

「俺が君の側にいるのが、この日だけだったから――」

 それに、とレイズナーは付け足した。

「君と何度も結婚できるのは、俺にとってこの上ない幸福だからだ」

「これからは、ずっと一緒にいられるわ。あなたは私を存分に守ることができるし、私だってあなたを、心ゆくまで守り抜くことができるのよ。だって結婚するんだから!」

 レイズナーの体に勢いよく抱きつく。
 受け止め、床にしりもちをつきながら、彼は言った。

「だけど、解決しなくてはならない問題が山積みだ。アイラとハンのこと、ポーリーナとヒースのこと、それにキンバリーやエルナンデスのことだ」

「そうね、本当にそうよ! だけど私たち、一度はそれらを全て解決しているのよ? 絶対に大丈夫だわ!」

 彼の体温を感じる。
 それがこんなに嬉しいことなんて。

「私、やっと幸せを見つけた」

 心の思うまま、私はまた、何度も何度もレイズナーに口づけをした。
 
「構わないさ。君たち二人が幸せそうで、僕だって嬉しいんだ――ほんの少しだけ、目のやり場に困るだけさ」

 お兄様の呟きに、私たちはやっと赤面した。そして少し冷静になった私は、自分の変化を感じ取る。

 テーブルに置かれたメモ用紙をちぎると、それを二つ折りにして宙に放った。

「ヴィクトリカ……驚くことばかりだな――」

 紙でできた蝶を目で追うお兄様は、そう呟いた。
 私の手から放たれた魔法は、紙に束の間の命を吹き込んだ。
 
「私、魔法が使えるようになったみたい……」

 文字通り、レイズナーと私の存在は境界線がなくなるほど混じり合い重なり合った。私の中にはレイズナーがいて、彼の魔力が流れ込んだ。

 レイズナーが魔法を宙に放つ。魔法は光りとなって、それは蝶に重なった。
 蝶はひらひら舞い続け、私が窓を開けると、空に向けて飛び出した。

 白い紙は太陽の光を反射して、それ自体が輝いているようだった。美しい光景だった。
 レイズナーがそっと呟く。

「魔法は、本来、こうあるべきだ」

 世界は、本来、こうあるべきなんだ。

 レイズナーが私の肩を抱き、紙の蝶に目を遣った。
 お兄様も窓辺に寄り、同じように空を見た。

 お城にいた参列客達も、その蝶を見つめて微笑み合った。

 そうしていつまでも、私たちはその魔法を見つめていた。まるでこれから先の幸福を噛みしめるように。


〈おしまい〉
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感想 3

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みんなの感想(3件)

nebcad
2022.11.25 nebcad
ネタバレ含む
2022.11.25 さくたろう

こちらまでお読みいただきありがとうございます・・・!
お仕事に影響がありませんように!

過剰とも言える愛が私のツボなのです。レイブンがここまで盲目的にならなければ、ハッピーエンドにはならなかったかもですね。

解除
お祭り気分
2022.10.31 お祭り気分

完結おめでとうございます。
ループの謎解きや推理小説的な物語でした。😃
一緒に謎解きをしたみたいで面白かったです。
次作もよろしくお願いします。😄🍵

2022.10.31 さくたろう

感想ありがとうございます!個人的に推理小説好きなので、すっごく嬉しいです!
次も頑張ろうと思えました。

解除
ちゃっぴ〜
2022.10.31 ちゃっぴ〜

伏線に次ぐ伏線で、先が気になり一気に読みました💨
少しずつ明かされた謎に驚きの連続でしたが、ようやく収まるとこに収まってハッピーエンドになれそうで良かったです~😭

2022.10.31 さくたろう

お読みいただきありがとうございます!
謎を詰め込んだ疾走感のある物語にしたかったので、一気に読んだという感想とても嬉しいです!
感想ありがとうございました♪

解除

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