だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう

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わたくし、叔父様を倒しますわ

 ウィリアム・ウェストは、ジャスティン・インターレイクの慈悲により、牢を出されることになりました。
 知らぬ仲ではない上の情けをかけたということでした。王都からの追放という条件を付けての解放です。

 牢を出て家に戻ったウィルが一番初めに行ったのは、ジャスティンお兄様に直接謝罪をしたいと、呼び出したことでした。

 平民が――それも犯罪を犯した者の呼び出しに応じるなどということは常識では考えにくいことですが、お人好しの……物事を深く考えない質のお兄様は疑いもなく、応じたのです。死罪を免れたウィルが、お兄様に感謝したとでも考えたのでしょう。

 そこで第二の事件が起きました。
 正午前のことでした。晴れ渡る空が印象的な日のことです。
 
 ウィルは遂に、目的を遂げたのです。隙を見せたお兄様は、後頭部を一撃、魔法により割られました。
 ウィルはすぐに、サイラス・ハイマーを呼びました。ジャスティンお兄様の死を、確認させるためです。

 叔父様はウィルの家で、頭から人目で致死量と分かるほどの血を流したお兄様が、床に倒れている姿を目撃しました。
 そうして彼は確かに言ったのです。

「捕まるようなヘマをした時は見限るつもりでいたが、約束通り解放してやろう。二度とこの王都に姿を見せるなよ。ウィリアム・ウェストは牢から出された恩も忘れ、怨恨からジャスティンを殺したのだ」

 予め、決められていたシナリオなのでしょう。
 叔父様は無感情な声でした。

「以前、おっしゃられたようにあなたの前には死ぬまで姿を見せません。弟妹とともに、姿を消します」

 ウィルの答えに、叔父様は満足そうに頷きました。

「ハイマー様。最後に一つ、教えていただいてもよろしいでしょうか」

 なんだ、と先を促す叔父様に、ウィルは問いました。

「ジャスティン様を今になって邪魔に思ったのは、彼が持つ地位を恐れたからですか」

 叔父様は不愉快そうに鼻を鳴らします。

「一介の使用人ごときに伝えることではないが、貴様の今までの働きに免じて、生意気な質問を許してやろう。
 そうだ。私は兄よりも遥かに優秀であったにもかかわらず、二番目に生まれたからという理由だけで爵位に付くことができなかった。ようやく手に入れたこの地位を――今更になってこのジャスティンに譲るよう、あの姫が言い出したのだ。私が爵位を手に入れた方法は、違法だとか難癖をつけてな」

「過去、インターレイク家のご当主夫妻を殺害したのはあなただったのですね」

 ジャスティンお兄様の死体を前にして、叔父様は気が緩んだのでしょう。表情には出さずとも、上機嫌だったのかもしれません。それほどまでに、ウィルが信頼されているということでもあったのだと思います。

「質問は一つだと言わなかったか? ――だがそうだ。兄夫妻が熱病に倒れたと聞き、絶好の機会だと心得た。誰が食事を運ぼうともあの二人は死んでいた。私に疑いをかける身の程知らずもおらんしな」

 間違いなく、叔父様の自白でございました。

 次に起こったことを、叔父様がどう思ったのかは分かりません。少なくとも彼が束の間、思考を停止するほどの衝撃があったことは間違いないでしょう。
 頭から血を流し倒れていたお兄様が立ち上がり、真っ直ぐ叔父様を見つめてこう言ったのですから。
 
「僕の両親を認めたと、お認めになりましたね」

 当然ながら、死者の蘇生ではありません。そもそもお兄様は死んでなどいませんでした。
 隣の部屋に隠れていたわたくしとレティシアと――そうしてエドワード様は、この時ようやく扉を開き、姿を現しました。

「伯爵、すべて聞かせていただきました。あなたが犯した罪と犯そうとしていた罪は、国王陛下に私の口からお伝えいたしましょう。なんとおぞましく、卑劣な行為だ。許しがたい」

 エドワード様がそう言った瞬間、ようやく叔父様は、ご自分の身に何が起こったのか悟ったようです。顔を真っ赤にして怒鳴りました。

「この小僧ども!! 私を罠に嵌めたのか!」

 この時になって、お兄様も覚悟をお決めになられたようです。今まで刃向かったことのなかった叔父様に向かい、キッパリと言い切りました。

「先に僕を罠にかけたのはそちらの方でしょう。僕から奪ったものすべて、返してもらいますよ」

 聞いた叔父様は、分が悪いと思ったのでしょう。
 諦めの悪いインターレイク家の血をまさしく引き継ぐ彼は、一目散に扉へと逃げました。
 しかし、すぐさまウィルが放った魔法により足元をすくわれ、その場に派手に転びます。勢い余ったのか顔面を強打し、鼻血を流しておりました。

「こんなことをしてただで済むと思っているのか!」

 叔父様はまだ喚いておられましたが、控えていたエドワード様の従者に捕らえられました。
 叔父様が外に引きずられていったところで、エドワード様はわたくし達に向き直ります。

「伯爵のことは、私が責任を持って連れて行きます。この許されざる罪人の罪は、きっちりと陛下にご報告いたしますよ。メイベル様、それでよろしいでしょうか――」

 けれどわたくしは、答えることができませんでした。
 ちょうどウィルの頬を両手で掴み、口づけをしたところでしたから。もうわたくしの世界からは、他のすべては消えてしまって、ただ素晴らしき愛する夫しか見えていませんでした。

「ウィル! あなたほど最高の人間はいませんわ!」

 わたくしが叫ぶと、ウィルは笑います。

「それは俺の台詞ですよ」

 ウィルがわたくしの手を取りました。そうして、目の前に宝物があるかのように、とても美しい笑みを浮かべてこう言ったのです。

「メイベル様、あなたはまるで夢のような人です」

 わたくしにとっては、ウィルこそが夢でした。初恋の、幸福な夢でありました。そうして夢は叶えてこそ意味があるのです。

 ジャスティンお兄様とレティシアが顔を見合せて、同時に肩をすくめたのが目の端に映りましたが、そんなことは気にしていられませんでした。
 だってわたくし達は、再びキスをしたんですもの。

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