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アパレルショップ店員 下田香織
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お店の前にトリックアートが設置された時はどう思われましたか?
「かなりびっくりしましたね。もちろん事前に館からの説明はあったんですが、こんなにお店の側にできるとは思っていなかったので」
本当にお店の目の前ですもんね。
「そうなんです。あと、まさかトリックアートがこんなにリアルな絵だとは思わなかったので」
私も初めて見た時は驚きました。すごくリアルですもんね。
「そうなんですよ。最初見た時は、うちで買い物をしてくれたお客様がお財布を落とされたのかと勘違いして、思わず駆け寄っちゃいました」
もしかして、拾おうとされたんですか?
「はい、拾いに走りました。前日のクローズは他のスタッフが担当だったんです。だから、朝出勤してお店のオープン作業をしようとした時に見つけたんですが、昨日から落ちてたんじゃないかと思って慌てちゃったんですよね。勢いよくしゃがんで手を伸ばしたら床だったので、軽く突き指しちゃいました。お恥ずかしい話です」
そうだったんですね。指は大丈夫でしたか?
「もちろん! 本当に軽く突いただけなんですぐ治りました。でも、どうも次の日に店長や他のスタッフも同じことをやっていたみたいです。後日そのことが分かって皆んなで笑ってました」
なんとそんなことが。でも、なんだか良いエピソードですね。
「ありがとうございます。似た者同士っていうんですかね。タイプが似てるからか、すごく働きやすい職場です」
それは良いですね。トリックアートが設置されて半年ほど経つと聞きましたが、お店の前にトリックアートがあることにはもう慣れましたか?
「そうですね、最初は変な感じだったんですが、二週間ほどで慣れました。実は絵がある場所って、うちのお店に入る人が一番多い動線の目の前なんですよね。それで、お客様が入りにくくなったらどうしようって不安だったんですが、あまり気にしないでよかったみたいです」
お店の前で立ち止まられる方は増えましたか?
「かなり増えましたよ。設置されてすぐの頃は写真を撮られる方もたくさんいらっしゃいました。最近はもう見慣れた方も多いので減ってきましたが、それでもうちのお店の前を通り過ぎる人の大半の方がちらっと絵を見ていらっしゃるイメージです」
見慣れていても視界に入ると、皆さん視線が引っ張られるんですね。
「そうだと思います。私も絵だとわかっていても今でもつい見ちゃいますし」
なるほど。そうだ、設置された当初、写真を撮る方が多かったということはトリックアートがお店の動線の邪魔になってしまうこともありましたか?
「そうですね、全く邪魔になっていなかったとは言えませんね。でも、そこまで大きな影響はなかったかな。皆さんトリックアートを避けて入店してくださっていたので」
あ、そうなんですね。因みに立ち止まられる方に、例えば男性か女性かで言うと女性の方が多いとか、若い人の方が多いとか、傾向はありましたか?
「傾向ですか? そもそもこのショッピングモールに買い物に来られる方の多くが女性なんですよね。それに加えてトリックアートの絵が婦人物の財布ってこともあって、しっかり立ち止まって見ていらっしゃるのは圧倒的に女性が多いです。幅広い年代の方が立ち止まっていらっしゃいますが、三、四十代の方が特に多いですかね。うちのお店のターゲットもそのあたりなので、その影響はあるかもしれません」
なるほど。あの、不躾な質問で恐縮なんですが、トリックアートによる売り上げへの影響はありましたか?
「売り上げへの影響ですか? そうですねえ、少しお客様が増えて売上が伸びましたね」
来店される方が増えたんですか?
「はい、おかげさまで。まあ、トリックアートに集まる人が邪魔で、入りにくかったっておっしゃるお客様もゼロではなかったんです。でも、トリックアートを見た後に店内も見てくださる方もいて、それでちょっとだけですが伸びてるんです」
それは良かったですね。じゃあお店としてはトリックアートが設置されて良かったことの方が多いという認識であっていますか?
「まあ、そうですね。最初の頃は変な感じでしたが今じゃすっかり慣れましたし。他のスタッフもたぶんそう思っていると思います」
なるほど、それは良かったです。
「あ、でも……いや、あれは関係ないか」
何かありましたか?
「トリックアートと関係ないかもしれないんですが、気配を感じるんですよね、誰もいないのに」
気配ですか?
「例えば……あ、ほらあの女性の方、今お店の中を見ながら通り過ぎましたよね」
白いシャツを着ている方ですよね?
「そうですそうです。なんて言うのかな、今みたいにお店の中を見る視線とか、お客様がお店の前で立ち止まったり、入ってきてくださる時の気配って見ていなくてもわかるんですよ。なんとなく感じるみたいな」
おっしゃることはわかる気がします。視界に入っていなくても人が来たのを感じたり、視線を感じることがあるってことですよね?
「そうそう! それです! まあ、足音だったりお持ちになってる荷物の音で気がつくこともあるんですけど、人の気配を感じてそっちの方向を見たらお客様が来てくださっていたってことが多いんです。でも、最近気配を感じてその方向を見てみても、誰もいないことが多いんですよね」
いると思ったのに誰もいないってことですか?
「そうなんです。まあ、そんなの単なる私の勘違いな気もするんですが……」
何か引っ掛かることがあるんですか?
「その、誰もいなくても気配を感じるのがいつもあのトリックアートのあるあたりなんです」
いつもなんですか?
「はい、決まってあそこなんです。あ、そういえば他のスタッフも同じようなことを言ってました」
トリックアートの所から気配を感じることがあると?
「いえ、誰かに見られている、いや睨まれているような感じがするって言ってました」
睨まれている……それはトリックアートの所からですか?
「はい。何となくだけどそんな気がするって言ってました。誰もいないのにそっちを見ると目が合ってるような気がして気持ち悪いって」
「かなりびっくりしましたね。もちろん事前に館からの説明はあったんですが、こんなにお店の側にできるとは思っていなかったので」
本当にお店の目の前ですもんね。
「そうなんです。あと、まさかトリックアートがこんなにリアルな絵だとは思わなかったので」
私も初めて見た時は驚きました。すごくリアルですもんね。
「そうなんですよ。最初見た時は、うちで買い物をしてくれたお客様がお財布を落とされたのかと勘違いして、思わず駆け寄っちゃいました」
もしかして、拾おうとされたんですか?
「はい、拾いに走りました。前日のクローズは他のスタッフが担当だったんです。だから、朝出勤してお店のオープン作業をしようとした時に見つけたんですが、昨日から落ちてたんじゃないかと思って慌てちゃったんですよね。勢いよくしゃがんで手を伸ばしたら床だったので、軽く突き指しちゃいました。お恥ずかしい話です」
そうだったんですね。指は大丈夫でしたか?
「もちろん! 本当に軽く突いただけなんですぐ治りました。でも、どうも次の日に店長や他のスタッフも同じことをやっていたみたいです。後日そのことが分かって皆んなで笑ってました」
なんとそんなことが。でも、なんだか良いエピソードですね。
「ありがとうございます。似た者同士っていうんですかね。タイプが似てるからか、すごく働きやすい職場です」
それは良いですね。トリックアートが設置されて半年ほど経つと聞きましたが、お店の前にトリックアートがあることにはもう慣れましたか?
「そうですね、最初は変な感じだったんですが、二週間ほどで慣れました。実は絵がある場所って、うちのお店に入る人が一番多い動線の目の前なんですよね。それで、お客様が入りにくくなったらどうしようって不安だったんですが、あまり気にしないでよかったみたいです」
お店の前で立ち止まられる方は増えましたか?
「かなり増えましたよ。設置されてすぐの頃は写真を撮られる方もたくさんいらっしゃいました。最近はもう見慣れた方も多いので減ってきましたが、それでもうちのお店の前を通り過ぎる人の大半の方がちらっと絵を見ていらっしゃるイメージです」
見慣れていても視界に入ると、皆さん視線が引っ張られるんですね。
「そうだと思います。私も絵だとわかっていても今でもつい見ちゃいますし」
なるほど。そうだ、設置された当初、写真を撮る方が多かったということはトリックアートがお店の動線の邪魔になってしまうこともありましたか?
「そうですね、全く邪魔になっていなかったとは言えませんね。でも、そこまで大きな影響はなかったかな。皆さんトリックアートを避けて入店してくださっていたので」
あ、そうなんですね。因みに立ち止まられる方に、例えば男性か女性かで言うと女性の方が多いとか、若い人の方が多いとか、傾向はありましたか?
「傾向ですか? そもそもこのショッピングモールに買い物に来られる方の多くが女性なんですよね。それに加えてトリックアートの絵が婦人物の財布ってこともあって、しっかり立ち止まって見ていらっしゃるのは圧倒的に女性が多いです。幅広い年代の方が立ち止まっていらっしゃいますが、三、四十代の方が特に多いですかね。うちのお店のターゲットもそのあたりなので、その影響はあるかもしれません」
なるほど。あの、不躾な質問で恐縮なんですが、トリックアートによる売り上げへの影響はありましたか?
「売り上げへの影響ですか? そうですねえ、少しお客様が増えて売上が伸びましたね」
来店される方が増えたんですか?
「はい、おかげさまで。まあ、トリックアートに集まる人が邪魔で、入りにくかったっておっしゃるお客様もゼロではなかったんです。でも、トリックアートを見た後に店内も見てくださる方もいて、それでちょっとだけですが伸びてるんです」
それは良かったですね。じゃあお店としてはトリックアートが設置されて良かったことの方が多いという認識であっていますか?
「まあ、そうですね。最初の頃は変な感じでしたが今じゃすっかり慣れましたし。他のスタッフもたぶんそう思っていると思います」
なるほど、それは良かったです。
「あ、でも……いや、あれは関係ないか」
何かありましたか?
「トリックアートと関係ないかもしれないんですが、気配を感じるんですよね、誰もいないのに」
気配ですか?
「例えば……あ、ほらあの女性の方、今お店の中を見ながら通り過ぎましたよね」
白いシャツを着ている方ですよね?
「そうですそうです。なんて言うのかな、今みたいにお店の中を見る視線とか、お客様がお店の前で立ち止まったり、入ってきてくださる時の気配って見ていなくてもわかるんですよ。なんとなく感じるみたいな」
おっしゃることはわかる気がします。視界に入っていなくても人が来たのを感じたり、視線を感じることがあるってことですよね?
「そうそう! それです! まあ、足音だったりお持ちになってる荷物の音で気がつくこともあるんですけど、人の気配を感じてそっちの方向を見たらお客様が来てくださっていたってことが多いんです。でも、最近気配を感じてその方向を見てみても、誰もいないことが多いんですよね」
いると思ったのに誰もいないってことですか?
「そうなんです。まあ、そんなの単なる私の勘違いな気もするんですが……」
何か引っ掛かることがあるんですか?
「その、誰もいなくても気配を感じるのがいつもあのトリックアートのあるあたりなんです」
いつもなんですか?
「はい、決まってあそこなんです。あ、そういえば他のスタッフも同じようなことを言ってました」
トリックアートの所から気配を感じることがあると?
「いえ、誰かに見られている、いや睨まれているような感じがするって言ってました」
睨まれている……それはトリックアートの所からですか?
「はい。何となくだけどそんな気がするって言ってました。誰もいないのにそっちを見ると目が合ってるような気がして気持ち悪いって」
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